第一章 4

「千里眼だって噂もある。何でも見透かす悪魔のような目だってな」

「白騎士団…………出てった?」

 レンツェンは肩を竦めた。

「あの性格だ。追い出されたのかもな」

「………………」

 頭が混乱してゼルファは、真忌名が赤子に洗礼を施していたことを口にできず、言葉を飲み込んでうつむいた。



 例えばエド・ヴァアスのように宗教という礎がありそこに国があるのとは違い、ふつうの王国である場合でも、両者に共通するものがある。それは<騎士>がいるということである。騎士とは司祭同様、生まれながらにしてある能力を持った者のことを指し、司祭とは対極の立場にある者たちのことを言う。

 命の象徴である真名を授けることを生業とし、命を与える能力を持つのが司祭ならば、騎士はその正反対の能力を持つ。司祭に対して騎士、<洗礼>に対して<宣告>と呼ばれるその生まれながらの能力は、騎士とわかった途端人々が青ざめてしまうのに充分な説得力を持ち合わせた恐ろしいものだとされている。

 <宣告>とは、戦場やその他戦いに身を置く騎士が相手と戦う場合、「我は自らの意志をもってして汝に死を宣告する」というような言葉と共に相手を確実に死に至らしめる能力である。司祭同様、この特殊能力は生まれつきのものであり、訓練開始の時期が早ければ早いほど能力も伸びやすく、致死率も低いとされている。死そのものを操る能力を生まれつき持つ騎士は、司祭と違い常時人の死を左右できるという絶大なエネルギーが終始身体の内部を巡っているということになる。また簡単に人の死を操作できるという、将来必ずなるであろう危険人物への成長阻止と、正しい教育を目的として、国家の体裁を取るあらゆる自治体は自主的に各地に人員を派遣して新しい人材の収拾に励んでいる。正しい目的や方法を知らず、ろくな訓練を受けないまま<宣告>の能力を持った者を野放しにしておけば、気に入らない人間をすぐさま抹殺してしまう危険極まりない人物になるであろうし、また長期に渡りそのような無理を肉体に強いると本人の寿命も格段に短くなる。こういったことが判明する以前では、多くの殺人鬼があちこちに出現したらしいが、彼らの多くは正当なる騎士たちによって成敗されたか、その前に生命と肉体とを削りきってしまい二十代に入る前に死んでしまったという。また訓練を受けた騎士は正しい力の配分を本能的な部分で知っており、訓練を受けた騎士には、訓練されていない宣告能力を持つ者は絶対に敵わない。

 死を操るエネルギーを秘めた能力が開花する時期は人によってまちまちで、ごく幼少のときもあれば、十代に入る寸前、十代、二十代、最高記録としては三十代というのもある。 もっともこれは極めて稀な例で、十代後半以降突然能力が開花した場合の致死率は、年を一つとるごとに平均五パーセント上がるという。

 わかりやすい例では、二十代になってから能力が開花した場合の生存確率はたったの三十パーセントである。そういった意味で早いうちからの教育が最善の方法とされてもいるが、またその強力な能力ゆえに訓練中に命を落とす者も多くおり、訓練を開始してからきちんと騎士になるまでの人数は半分以下にまでなっているという。また騎士になってからも細かいランク付けがあり、そのランクによって騎士の宣告能力にも限りが見られる。  下はCから上はマスターAAAまで、彼らの能力は様々に分類されている。単に相手の動きを奪うだけのものから、死以上の残酷な苦痛をもってして結局は死に至らしめるというものまで、それらは実に多種類に渡る。また司祭同様、騎士も互いに相手に宣告することはできない。それは「同じもの」である以上はなにもできないという防衛本能で、それがもし通用してしまえば、一国に一人の強力で優秀な騎士が一人いればいいだけの話になってしまい、それまでには多くの血が流れる。また騎士は自らが忠誠を誓った主にも宣告することはできず、忠誠を誓う宣誓式の折、司祭の手によって自分の真名と主の真名をつなげられる。これによって、また騎士は敵方の大将に対して宣告することも不可能である。 騎士を所有する者はその騎士と真名が繋がっており、宣告を受けられない騎士と真名が繋がっている以上は、またその者も宣告されることはできないからである。


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