第4話 何のために

紫乃が再びみせてきた動画に現れた人物に

俺は少し面食らった。


外国人だった。


彼らは神妙な面持ちで、

『ジャパン』

『ジャパン』と、

日本の被災地に向けて、

哀悼のメッセージを告げていく。


悲しい。


日本のために何かしたいけど、

こんなにも遠く離れた場所にいるから、

何もしてあげられない。

自分達の無力が悲しい、と。



しかし、

次のシーンで、

コワモテの青年が、

『ちょっと待って!できること、あるよ?』

という。


…何だろう?

答えはすぐに分かった。


『this!』といって、

人々は次々に、お金を掲げた。

シーンが移り、

ニューヨークで、日本のために行われたチャリティーイベントの様子が映しだされる


多くの人が…

白人も、

黒人も、

子どもも、

大人も、

老人も、

日本の国旗を手に持ち、

日本に向けてエールを送っている。

『JAPAN!』と叫びながら…。


胸が熱くなる…。

俺が直接、支援を受けたわけではない。

なのに…、何だろうこの気持ち…。


『俺たちがついているから大丈夫だ。』

『このお金が、あなた達の食べものに変わる。』

『寝る場所に変わる。』

『エネルギーに変わる。』

遠く離れているけれど…と彼らは言う。


『俺達は日本に心を送るよ』

『愛を送るよ』

そして、

『お金を送るよ』

と呼びかける。


『立ち上がるんだ!』

『負けるな!』

『日の出ずる国よ!』

『ライジング・サン!』

『ライジング・サン!』


そうなんだ…。

日本て、ライジング・サンの国なんだ…。

初めて知った…。

そんな風に呼ばれていたなんて…。

知らなかった…。


再び、新しい動画が始まる。


優しい曲に乗せて、

世界中が日本のために祈ってくれた様子を

教えてくれた。


街をあげてチャリティウォークをする国。

日本のために日本の歌を唄う国。

日本の復興のために鶴を折る国。


世界中のタワーが日の丸に染まったらしい。

日本を悼み、日本を愛してくれる国がこんなにもたくさんあるなんて…。


先ほどの絶望の涙とは違う種類の涙だった…。

気づけば、またハラハラと涙が流れていた。

ありがたいような、

嬉しいような、

心をまるごと抱きしめられたような、

不思議な感覚に、

俺の心は包まれてしまった。


恥ずかしいことは変わらなかったが、

紫乃は私をバカにすることなく、

(そもそも紫乃も泣いている)

私に話かけてくる。


『日本人はあまり知らないけど、日本てさ世界から結構愛される国なんだよ。』

『…そうなんすか?なんで…』

『世界中で支援してるしな。真面目で、勤勉で、約束を守る。技術も高い。』

『そうなんだ…』

『まぁ、別に好意をもっていなくても、規格外の天災に襲われた国があれば、心ある人間であれば同情を寄せるだろうけどな。お前みたいな薄情者には分からないかもしれんけど…』

…ツンが出た。

カチンとは来たが、図星なので仕方ない面もある。

確かに俺は、よその国が地震に遭っても、戦争で苦しんでいても、その国の人々のために何かしたことはない。…いや、コンビニで1円玉募金したっけ…?

せいぜいそのぐらいだ…。

これまでそんなこと何も思わなかったけど、

この動画を観たあとに言われると、

少し情けないキモチになる。

意地悪なヤツだ…。


『そして、震災時の日本の様子が世界中で放送された時、確かに日本は世界の多くの国から称賛されたんだ。『日本てすごい』『日本人て素晴らしいね』って』

『へー…何かしたんですか?』

『日本人の振る舞い全てが、海外の人には驚きだったんだ。列をつくって電車を待つ。支援物資の強奪が起きない。人々が譲り合う。』

『ふーん…。』

でも、そんなのフツーのことじゃ…?

『フツーのことだと思うだろ?違うんだよ。日本以外では、災害が起きた時にパニックが起きるらしい。列なんて作らない。自制が効かなくなり、女、子どもだろうと容赦しない。弱い物が奪われる、弱肉強食の世界になる。それが世界のスタンダード、"当たり前"。しかし日本はそうはならなかった。あれだけの災害が起きても、冷静に互いを思いやって行動する日本人の姿に世界が驚愕したらしい。強盗や強姦、窃盗もあるにはあったが、海外に比べるとはるかに数が少なかった』

『そうなんすか…。なんか、嬉しいな…』

『お前は何もしてないでしょ?』

と少女は冷たく言うが、その目は俺と同じように嬉しそうだった。

『警察に届けられた金額が、3億円を越えたことをイギリスのメディアが報じて、日本人のモラルの高さと、それができていない自国民を皮肉ったんだ。『イギリスは略奪に悩まされているというのに、日本の被災地では逆のことが起きてる』って。』

『………。』

誇らしかった。

紫乃の言う通り、自分が何かをしたわけじゃないのに、日本人が褒められたことが嬉しかった。











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ツンデレロリ美人教師の個人レッスンは、俺を一撃でモテチートへと高め、教室はまさに隠れハーレムの様相を呈した。か。 @funakubotomohiro

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