第2話 アンタ、なんのために高校に通ってんの!?

先に断っておくが、このストーリーの結末は、

夢オチである。

実際に、ロリロリ美少女なんて現れないし、彼女を中心としたイチャイチャハーレムなんて、

"実現"しない。

それを予め伝えておくとしよう。



俺は、高校三年の春に、事故に遭った。

正確には、

雨の日に、運転していた原付で、

カーブを曲がり切れずに転んだ。


しかも、

子猫を庇うため、とかではなく

単に自分で勝手に転んだだけ。


その代償は意外と重く、

利き腕である右手の骨と、

左脚を骨折してしまった。

自宅ではなにかと不便なので、

2週間ほど入院が決まり、

その間だけ新学期の勉強に遅れないように家庭教師を雇った、

と説明されていた。


まさか、

ロリでツンデレで美少女の家庭教師だとは思わなかった。

ラノベのようなことが現実に起こるんだなぁ…。

う、嬉しすぎる…。


ちなみに我が山梨県は、原付で通う高校生の数が、

全国No.1らしい。

三年の春休みに、

バイクの免許が取れて、

嬉しすぎてビュンビュン乗り回していたら、

事故を起こしてしまった。

嬉しすぎるからといっては、

浮かれてはいけない。


しかし、突然目の前にやってきた幸運に、

どうしてもニヤケがとまらない…。


『こら、光君!先生の話ちゃんと聴いてるの?しっかりと先生の目を見なきゃダメでしょ!?』

そういって、私の頬を両手で挟み込み、自らの方へと向ける紫乃。

『せ…先生…』

『…ほら、先生の目をよく見て。…何が映ってる?』

『……あ、えっと…俺の顔が映って…ます』

『…ふふ。光君の目にも、先生が写ってるよ…』

『先生…』


見つめあう二人。

徐々に距離が近づく。

やがて、紫乃の瞳から俺の姿が消える…。

彼女が瞼を閉じたからだ。

俺も、目を閉じ、さらに彼女に近づくー。

優しく、優しくー。

あぁ…キスって、意外とカンタンなんだなぁ…。


『何がカンタンだって!?』

『うわぁっ!?』


驚いて目を開けると、

そこには美少女が立っていた。

表情は…、ゴキブリとか、

腐った卵とか

何か好ましからざる物を発見したような顔だ。

嫌悪感まるだし。剥き出し。


『…なんかキモいこと考えてただろ…!?部屋に入った瞬間悪寒がしたわー』

『い、いや…!別に…!』

『…本当かよ…!?…ちなみに、先に言っとくけど、私に変なことしたら、マジで容赦しないからね!』

『…あ、あの変なことというのは…?』

素朴な疑問を感じて、

聴き返した自分を褒めてあげたい。


瞬間、紫乃の顔が真っ赤になる。

か…カワイイやないかい…!!


『えっ…!?へ…変なことって、変なことだよ…!女の子にしちゃイケナイこと…!』



…た…たまらん…!!!


『女の子にしちゃイケナイことって何ですかー?私、男なんで分からないんですよー。』

『えっ!?あっ…いや…それは…あのっ…!それは…つまり…』

『ハッキリ教えてくれないと分かんないです〜。

具体的にどういうことですか〜??』


ぐっへっへっ。

ういのぅ…ういのぅ…。

紫乃との、やりとりについつい将軍様のようになってしまう。エロ将軍爆誕、である。


『えっ、えっ…!?いや…だから…あの…その、無理矢理してきたり…とか…ごによ、ごにょ…』


大げさでなく、リンゴのように真っ赤になった紫乃はしどろもどろに言葉を紡ぐ。


本当に、なんて分かりやすい反応なのだ…!

これなら、生まれてこのかた

モテたことの無い俺ですら、

どのように進めばいいか

ハッキリと分かるというものだ!


今はただ前進あるのみ!

若干、中年オッサンのセクハラ感はあるが、

まぁ良かろう。

ワシは、もっともっと恥ずかしそうな紫乃の顔がみたいんじゃ!ぐっへっへっ!


『えっ!?無理矢理って何を無理矢理するんですか?イケナイこと…??膝かっくんですか!?膝かっくん!?』

『ひ、膝かっくんじゃないしー!』


頬をふくらませて反撃を試みる紫乃だが、

『え?じゃあ、具体的に何ですか?』

という私の反撃に再び口ごもる。


『…だから‼︎あの…その…………い…やらしい…こと…とか…』

消えいりそうな声。

潤んだ瞳。

ウルージ様。


くぅー!

くぅーくぅー!


『いやらしいこととは、具体的にどういう…?』

『りりしい顔して聴くな!!…もうっ!…本当に怒るからね!?さっさと授業はじめるよ!!』

『はーい』



ふふふ…。

本当はもっとツッコミたいところだが、

今日はこの程度にしておこう。

時間なら、まだたっぷりある。

2週間かけて、じっくりと…


『で、さっそくなんだけど、おまえ何のために高校なんか行ってるの?』

『へ…?』


今度は、俺がもたつく番になった。

何のため…?

高校…?

考えたこともなかった。


『いや、何のためって、フツー高校ぐらい行くでしょ?今ドキ』

『450万。高校三年間でかかる養育費ね。

今や日本中の高校生が、お前みたいに、理由もなく、ただ何となく高校に通ってる。

親に450万も使わせて。』


ちなみに、と紫乃は言う。

『今の日本の年収の中央値は、約350万だから、それよりも100万も多い。お前、頭悪そうだから、平均値と中央値の違いも分からないだろうけど』

といって、俺を明らかに見下した表情で嗤う。


今のは、

ロリ美少女といえどちょっとムカツイだぞ!

怒ったぞー!

しかし、

残念ながら、俺は中央値という言葉を初めて聴いた。

悔しいが図星だ。



『理由もなく、目的もなく、ただ何となく、周りがみんな行くから、自分も高校に行く。その結果、授業中は平気で居眠り。親が汗水垂らして稼いだ金を、ドブに捨てている自覚さえない。勉強せず、学ばず、スマホに支配されて毎日文句を言いながら、高校に通っている』

『………』

『そのくせ、学校行きたくねーなどと嘯き、退学する覚悟もないくせに、恵まれた現状に感謝せず、のうのうと不平不満を垂れ流して生きている。…恥ずかしくない?そんなことなら、高校に行く意味ないだろう!?だから、聴いたんだよ。何のために高校行くのかって』


『…いや、でも親だって行けって言ってますよ?』

『ダサッ!お前、親が行けって言ってるから、高校行くの!?ダサ過ぎ!キモ過ぎ!マザコン!?マジ勘弁だわー』


今度はハッキリ自分がムカついたのが分かった。

スイッチオンだ。

なんだこの女!?

うぜぇ。死ねよ。



『そして、ちょっと嫌なこと、気に食わないことがあると、不貞腐れて、黙り込んで、不機嫌オーラ全開にするんだよねー。マジでどうにかなんないわけ!?そのみっともなさ。』

『………』



うっせえ。黙れ。帰れ。

お前なんか嫌いだわ。

まじでウゼぇなコイツ…


バチーーーン‼︎

火花が散った。

遅れて、左の頬に激しい痛み。

ビンタ…!?


なぜ?と思う間もなく、

さらに、今度はグーの拳が

俺の鼻にめり込む。


ボキッ。

とニブイ音。熱い感触。

えっ…折れた!?


え?

嘘!?嘘!?

何コレ!?

さっきまでのラブコメ展開はどこに行ったの!?

何でいきなりミステリーバイオレンス!


強い痛みとともに、

鼻の中から何か出てくるのを感じ、

慌てて指で押さえる。

血だ。鼻血ブー。

ビビデバビデブー。

ツーンとして、涙も出てくる。



混乱、動揺しまくる私の襟首を掴み、

ぐいっと、自分の顔に引き寄せる。


くそ…!近くで見ると、

マジで可愛いじゃねぇか!!

そんな相手に、

涙目、鼻血ブー状態を見られるなんて…!

屈辱…!

てか、一体何なんだコイツは…!?

なぜいきなりこんなこと…。



『お前にさぁ…見せたい動画があるんだよ』

そう言って、

彼女は自分のスマホ取り出し、

俺の目の前に画面を突き出した。

そこには、

学生服を着た男の子が写っている。

多分、俺より年下か…?


なんだ!?

何なんだ!?

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