【004】

 その日の夜は妙な眠気に襲われ、珍しく日付が変わる前に床に就いた私は、けれどその十数分後に意外な場所で目を覚ますことになった。


 「ここは……」


 あまり見慣れないが、一応見覚えのある場所──例の秘密の地下室らしい。と言っても、私自身は素っ裸のまま手足を手術台のようなものの上にガッチリ拘束されているため、首が動く範囲で周囲を見まわすことくらいしかできないのだが。


 (なんで、こんなコトに?)


 「ひとり暮らしの大会社のオーナー」なんて立場だから、営利誘拐の標的になってもおかしくはないが、さすがにソコは考えている。

 門扉の外の警備員詰め所を始め、最新のマシンによる警備・防犯システム(+私自身の引きこもり体質)のおかげで、実際には誘拐なんて不可能に近いはずなのだが……。


 そもそも、誘拐した相手をその自宅の地下室に監禁するなんて行動自体が謎だ。


 『──お目覚めですか』


 そして……目の前に現われたのは意外な人物だった。


 「キミか!?」


 いや、ある意味意外ではなく当然ともいえる。その相手とはケイトだった。

 なぜか、彼女自身もいつものメイド服を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿となっている。

 間近で見ても、人間の若い女性とほぼ変わらないその裸身に、一瞬我が身の現状を忘れてゴクリと唾を飲み込んだが、慌てて我に返る。


 「どうしてこんなコトを……」


 という私の疑問に対するケイトの答えは、要約するとこうだ。


・同情すべき点もあるが、私の行動は一人前の社会人として問題が多すぎる

・それを矯正してもらおうと、何度も忠告したが、私は改めなかった

・最後の手段として、これから私も知らなかった祖父のある発明品を使用する


 「!? な、何だ、その発明品とは……」


 『──ドクター・新庄は本当の意味で「天才」でした。己の発明品の中でも、特に現代社会で公表するのには危険過ぎると思われるいくつかについては、封印されていたのですが……コレも、そんな封印品のひとつです』


 ケイトは、壁の隠し棚から取り出したふたつのヘルメットのようなもののひとつを私にかぶせ、もう片方を自分がかぶった。


 『──その効果については、これから実地で体験していただきます』


 そして、手にしたリモコンのようなもののスイッチを入れる!


 ヘルメット(?)からブーンと振動音のような音がすると同時に、私はスーッと気が遠くなり、そのまま意識を失ったのだった。

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