食べられないパン

「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」


 その問いが聞こえたのは、近所のパン屋で今日の昼食を選んでいるときだった。

 すぐ近くで、同じようにパンを選んでいる親子がいた。その男の子が、母親に向かってそう訊ねたのだった。

 よくあるなぞなぞだが、パンが陳列されたこの光景から連想されたのだろう。

「こら、あんまり大きな声出さないの」

 そう言って息子をたしなめる母親だったが。

「でもうーん、なんだろうね。食べられないパンでしょ。お母さん、分からないなあ」

 息子のなぞなぞ自体には付き合ってあげているようだった。

 男の子は母親が分からないと答えたことに、満足した様子だ。

「答えはね、フライパン!」

 とても誇らしげに答えを披露するその子の様子に、脇で眺めていた私も思わず笑みがこぼれてしまう。

 その後、その親子はパンをいくつか選んでいった。

 私も昼食用のパンを買って、店を出た。


***


 その日、その店のパンを買った客が相次いで体調不良を訴えた。

 食中毒で次々と救急搬送された。私も、あの親子も。

 私たちが買ったのは、食べられないパンだった。

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