屏風の虎

「この屏風の虎を、縛り上げてはくれないか?」


 殿様がそう言った。

 僕の目の前に飾られている屏風には、確かに躍動感にあふれた虎が描かれている。まるで生きているかのようだ。

 しかし、いくら本物のようであっても、描かれているだけの画には違いない。

 そして、そんなものを縛り上げることなどできるわけもない。きっと殿様は、とんちで有名な僕を困らせてやろうとしているのだろう。

 だったら、僕はこの問いかけに、とんちで返すだけだ。

「分かりました。では、この虎を屏風から出してください。そうしたら、見事縛り上げてみせましょう」

 そう答えると、殿様は驚いた表情を見せた。

 僕は表情こそ変えないが、心の中で快哉を叫ぶ。そうだろう、屏風の虎を出すことなどできやしない。

「分かった」

 殿様がそう言った。

「え?」

 僕が聞き返す時にはもう、殿様はぶつぶつと怪しげな呪文を呟き始めていた。

 その耳慣れない響きに誘われるように、屏風の表面が盛り上がって、虎がゆっくりと抜け出してくる。獣の低い唸り声が、部屋に響き渡る。

「さあ頼む。この虎を、縛り上げてくれ」

「待ってください!僕は……」

 そう叫んだ時にはもう、完全に抜け出してきた虎が、僕に向かって襲いかかってきた。

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