スフィンクスの謎かけ(2)

「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これは何でしょう?」


 時刻は休日の昼。場所は喫茶店。

 この問いを発したのは、目の前に座る僕の恋人だ。

「そんなこと、なんで聞くんだい?」

「図書館で借りた本にあったの。大昔の、有名な謎かけなんだって」

 彼女は楽しそうに笑っている。こんな風に、知ったばかりのことを誰かに言わずにはいられないのが、彼女の特質の一つだった。

 そして僕は、そんなところも含めて彼女の魅力だと思う。だからこの会話にももちろん付き合うのだ。

「それって、朝昼夜がそれぞれ生涯を表しているっていうやつだっけ」

「なんだ、知ってるんだ」

 彼女ががっかりしたように肩を落とす。

 その様子に苦笑して、僕はささやかな嘘をつく。

「でも、知っているのはそこだけで、答え自体は知らないんだよ」

「え、ホント?」

 彼女の表情が目に見えて明るくなった。この顔を見れただけで、僕の嘘に価値はあったと思う。

「じゃあ教えてあげる。答えは、『ニンゲン』なんだって」

「ニンゲン?それって、たしか……」

「そうそう。大昔にこの地球で繁栄した種族のこと」


 それからもしばらく雑談に興じて、それから僕らは立ち上がる。

 僕らの種族にとって当たり前の、この四本足で。

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