第7話

「俺たち三番隊は単独行動が多いのが特徴だ。だから俺が勝手に出歩いても部下たちが困ることはないだろう。これから頼む」

「こちらこそよろしくお願いします。その、差し出がましいかもしれませんが、部下の方はよくても他の隊長さんたちは大丈夫なのでしょうか? 会議とか」

「ああ、そちらはもっと問題ない。なぜかはわからないが殲滅部隊の隊員はみな仲が悪い。同じ隊なら問題ないんだが、別の隊の者と顔を合わせると喧嘩が始まる。隊長同士の仲も良くないからな。みんな交戦的なんだ」


 殲滅部隊は各隊によっていろんな地域を任されていると聞いたことがあるが、もしかして原因はそれなのだろうか。

 別の隊員との仲が悪いから、物理的に各隊の担当する土地を離しているのかもしれない。紫緒は苦笑いを浮かべた。


「……あれ? 三番隊は担当地がないんですか?」


 ふと疑問に思って首をかしげる。

 たしか帝都中心地は一番隊が担当しているはずだ。最初に紫緒が蓮也と会った村はおそらく七番隊あたりの管轄だろう。

 なのに三番隊の隊長である蓮也はいろんな土地にいる。どういうことだろうか。


「いや、三番隊にも一応担当を任されている土地はある。だがそこは人口の少ない場所だ。だからか、他の隊の応援などに呼ばれることが多く普段から担当している場所以外の巡回も行っている」

「なるほど……」


 蓮也の説明に納得して頷いた。

 他の隊との仲が悪いのに、応援に呼ばれるのは大変だろう。障りと関係なく隊員同士の喧嘩が起こっていそうだ。


「とくに俺は三番隊の中でも単独行動をしがちだ。じっとしているのは苦手でな」

「そうなんですね」


 蓮也は相変わらず淡々とした話し方だ。しかしそこに悪意などは存在せず、おそらく素の話し方がこうなのだろう。

 話しているうちに最初は緊張していた紫緒の表情も和らぎ、くすりと笑った。

 蓮也は疑問をぶつければ回答してくれるし、意外にもおしゃべりなのかもしれない。


「? なにかおかしなことがあったか?」

「あっ、いえ、なんでもないです!」


 紫緒は緩んだ表情筋を戻して、話題を瘴気に移した。瘴気や障りに関して、少しでも新しい情報が知りたい。


「障りには人型以外のものもいるんですね」

「ああ、時折異形のような姿をした障りを見かける。小さいものはすばしっこいが、特別強いというわけではない。むしろ速さに特化した分、強度は落ちているだろう」


 ここではなんだから、と甘味処に場所を移して話を続ける。紫緒は注文した団子を頬張りながら蓮也からの情報を頭にまとめていった。


「障りは瘴気があふれている場所に現れる。先程みたいに瘴気のないところに急に障りが現れるのは稀だ。しかも二体も障りが出てくるとは……最近瘴気関連の動きが不穏だと噂が流れていたのは本当のようだな」


 蓮也はそう言うと羊羹を口に運んだ。


「不穏な噂とはなんですか? やっぱり瘴気の発生する回数が増えていることですかね?」

「ああ。今までは月に一度ほどだった回数が最近は月に二回、三回と数を増している」

「やはりそうですか……」


 紫緒の知っている未来でもそうだ。瘴気の発生回数が徐々に増えていき、後手後手な対応では間に合わず、いずれ世界は瘴気であふれてしまう。

 瘴気の泉が発生する場所に法則性はなく、都心でも田舎でもどこにでも現れ、時間が経つごとに瘴気の濃さを増して障りを出現させる。

 現時点ではないが紫緒の知っている未来では、一度祓った場所でも同じ場所にまた瘴気の泉が現れたこともあった。


「相吉、さんはどこから障りの情報を聞きつけているんですか? 私たち巫女は依頼されてから動くので、なにかしら瘴気が出現する前の前兆などがあれば知りたいのですが」

「蓮也でいい。瘴気が現れるのに前兆があるのなら、俺が知りたいところだ」

「そうですか」


 対策部隊が知らないことでも、前線に立つ殲滅部隊なら、と思ったが残念ながら事はそううまく運ばないらしい。


「やっぱり地道に調べるしかないんですね」

「俺も協力する」

「ありがとうございます」


 蓮也と知り合って新しく知れた情報は、障りには異形の姿のものもいるということのみだ。しかしそれだけか、と気を落とすにはまだ早い。

 今度こそ、絶対に上手くやってみせる。

 母親の愛情を無駄にしないためにも、紫緒には瘴気の正体を突き止める必要があるのだ。

 改めて覚悟を決めて、紫緒は蓮也を見た。


「今度やってみたいことがあるんです。だからもし次に瘴気の泉に行くときは一緒に行動してください」

「……ああ、いいだろう。もとより協力するつもりだからな」


 まっすぐに紫緒に見つめられて、蓮也は少し驚いた様子だったが頷くと席を立った。


「俺は一度持ち場に戻る」

「はい。お疲れ様です」

「ああ」


 甘味処の前の蓮也と別れ、紫緒は神社に戻った。

 ただの買い出しにしては時間がかかりすぎだと叔母の派閥の巫女に文句を言われるかもしれないが、気にするつもりはない。

 跡継ぎなどよりも、未来の方が大切なのだ。そんな小さなチクチク言葉に耳を傾けている暇はない。

 紫緒は神社に戻ると叔母の部屋に頼まれていた物を置き、軽く昼食を済ますと参道の枯葉をどかす作業に移行した。


 そうして一日が終わり、また蓮也と会う日がやってきた。

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