王都探訪編

第8話 コスメとガチョウと王都への道

 女神テラ様の予言どおり、次の日の朝には王都からテラ教会へ使者が訪れた。その日は午後から出かけようと修道院に残っていたので、エドモンド師立会のもと、わたしとサラが使者さんとお会いした。


「はじめまして、使徒レーカ殿。賢王エドワードよりの書状をお持ちしました。内容をご確認頂き、返事を頂戴いたします」


「わかりました。お返事はこの場で?」


「いえ、私は明後日の昼にテラシオンを発ちます。その際に再度こちらへ伺いますので、書状か口頭でお返事をいただければ」


「わかりました。書状でご用意いたします」


 わたしの言葉に一つうなずき、使者さんは教会を後にした。手元に残ったのは王家のシーリングが為された一通の手紙。サラにナイフを借り、シーリングワックスを剥がす。


 ……読めない……。エドモンド師へお願いし読んで頂く。これ何語なんだろ……。翻訳の権能が効かないってことは、今は使われてない文字なのかな? でも書かれてるってことは使われてるのか……。



「これは、王族が侍女に書かせたものですな。文言も羊皮紙もルミナリア王国の王族が用いる正式なもの。飾り文字ですので学んでおらんと読めんでしょう。正しく賢王エドワードよりの書状という事ですな。


 手紙には、以下の通り書かれております。



賢王は教会からもたらされた使徒降臨の知らせと使徒レーカによりもたらされた数々の叡智に謝意を示すため私に手紙を書くことを望まれました。


賢王は使徒レーカの思慮深い人となりとアーシャレント界に対する思いを聞くに及び大地と草木の神テラとその使徒レーカへの感謝をぜひ伝えたいと申されております……」



 エドモンド師が読み上げる手紙はさらに続いている。なんとも格式張った言い回しだけれど、つまりは使徒としての招待を受け、拝謁の栄誉を賜るという事だった。


 あと、あれやこれやを献上した方が良さそうみたいな事が書かれていたりいなかったり。まぁ、持って行けるだけ持って行きましょうね。


 ということで、女神テラ様の言われたとおり、わたしとサラ、エドモンド師やセレスティーヌさん、フレデリックさん、トールマンさん、エミリアさんの7人で王都ソレリアスへ行くこととなった。もちろん皆さんには快諾頂いた。王様と拝謁となると、ギルドにとってもメリットが多いらしく諸手を挙げてだったのがちょっと面白かった。


 テラシオンから王都までは馬車で4日の旅。途中、野宿2回、沿道の宿1泊との事。お迎えの馬車が来てくれるとの事なので、12日後に予定された出発までせっせとお土産を準備しておきましょう。



「でも準備ってなに必要だろ?」


「寝る用意と食糧の用意あればじゅーぶんにゃ〜。レーカの蔵の鞄があれば何でも持ち運べるにゃ。

 馬車はたぶん6人乗りが2台とか3台で来るにゃ、馬車1台で詰めれば3人は寝られるにゃ。いや、レーカ寝相悪いから2人かにゃ」


「うるっさい」


「馬車に女性4人が分散、男性3人はテントでいいにゃ」


「護衛の人達は?」


「そっちはそっちで勝手にやるにゃ」


「ふ〜ん。じゃああとは食事の用意?」


「そうにゃ〜、パンは持ってった方がいいにゃ。もっと長い行程なら小麦粉で持ってくにゃけど、4日くらいならパン焼くのめんどーにゃ。あ、でも万が一あるかも知らにゃーから6日分持ってくにゃ。後は干し肉とかチーズとかもにゃ。

 それよりフリーズドライのマカロニスープにゃ。アレは手軽でおいしーから多めに持ってって護衛の連中にも振る舞ってやるにゃ。将来のお得意様にゃ」ニヨニヨしてる。わっるい顔だなぁ……。


「あとはベロニカさんに大鍋でシチュー作ってもらって持ってけばいいにゃ」



 旅慣れたサラの助言を元に、せっせと旅支度。それと同時に医薬品とその取扱説明書、缶詰やフリーズドライ、ジャムにスイーツにと、王様への献上品として恥ずかしくないだけの数を生産し続けていたらあっという間に出発前日となっていた。


「ブランデーは作ったにゃ?」


「30年ものでワイン樽3つ分と、瓶詰めで50本作ってある」


「もうそれだけで叙爵間違いなしにゃ。お貴族さまにゃ〜」


「なーんにもそそられない……」


「こっぱ貴族避けにはなるにゃ」木っ端て。


「使徒なのに?」


「それも分からんほどなのがこっぱたる由縁にゃ」


 ……そう言われればそうかもだけど、ねぇ……。



 明けて出発当日。4頭立ての馬車が3台、大聖堂前に駐まっていた。先頭の馬車には右面にルミナリア王国の紋章が、左面には女神テラ様の紋章が刺繍された旗が翻り、ただ事じゃない雰囲気を周囲に振りまいている。どうしてこうなった……。


 馬車の他には騎馬が5頭、甲冑を着込んだ騎士が手綱を手に整列している。あれだね、王立騎士団の皆さまですね。


 大聖堂裏の修道院から大聖堂を回って表に出、ギルド長の皆さまに合流しようと思ったら騎士様に見つかった。


「これはこれは使徒レーカ殿、お初にお目に掛かります! ルミナリア王国第一騎士団長ギレルモ・デュヴァルと申します!」やっぱり声でっかいね。


「初めまして、ギレルモさま。レーカです。こちらはサラです」


「こんちはにゃ〜」気の抜ける挨拶だけど、眼光鋭くギレルモさんの力量を探ってるような、いないような。


「様などともったいない、私めのことはどうかギレルモとお呼びください!」お腹の底から声が出てるね。圧が凄いよ……。


「ではギレルモ団長と」


「わかりました、よろしくお願いしますぞ!」がっしりと握手。ぶんぶん振られる。


 そんな話をしていると、聖堂からエドモンド師に誘われもう一方ひとかたいらっしゃる。


「はじめまして、使徒レーカ様。テラ教大司教を賜っております、エレオノーラ・セレスティンと申します」しっとりとした母性溢れる女性。


「はじめまして、エレオノーラ大司教さま、レイカです」


「レーカ様、お人柄でしょうし私としては大変好ましいのですが、この場に居る誰よりも使徒であらせるレーカ様が高位となります、どうか我々のことは敬称は付けず名前でお呼びください」


「あ、えええ……。 ではエレオノーラさん、で」


「うふふ。はい、なにとぞよろしくお願い致します」仕方のない子、みたいに笑われてしまった。どうもこの、そういうの苦手なんだよね……。



 一通り挨拶も終わり、テラシオンからの7名とエレオノーラさん以下4名のテラ教の皆さん(シスター一人と教会騎士団からいらした護衛の女性騎士が二人)が馬車3台に分乗、それに随伴する王立騎士団からの護衛5騎という総勢16名のキャラバンがテラシオンの北門を出発、一路王都を目指す旅が始まった。




 アーシャレント界に来て初めてテラシオンの街を出るんだなぁ……。ちょっと感傷ぎみに窓の外を眺める。馬車はテラシオン北の大森林を右手に、北へ延びる街道を走っている。


「このまましばらく森沿いの道を北上し、一度河を渡りその後西へ向かいます」


 この馬車には、わたしとサラ、エレオノーラさんが乗っている。馬車はけっこうな振動がある。座席に積まれたクッションの山に半ば埋もれるように座ってます。どっしり座ってないと弾みます。


「レーカ様、アーシャレント界へいらしてそろそろひと月とお聞きしておりますが、もうこちらでの暮らしにはなれましたか?」


 三人でおやつ食べながら四方山話。これも女子会よね。


「はい、こちらの気候も食べ物にももう馴染みました。サラが美味しいお店に連れて行ってくれるので不自由はしてないです」


「従僕としてのつとめにゃ~」ドヤ顔デカネコ。


「うふふ。仲がよろしいのですね。使徒としてのご活躍、聞き及んでおります。これまでアーシャレント界に存在しなかったものを作り出す権能と、それによりもたらされた数々の恩恵、アーシャレントに住まうものとして大変感謝しております。

 大地と草木の神テラは、使徒レーカ様の手によりアーシャレントを大きく進めようとなさっているのですね」


女神テラ様には目に付いたこと、気がかりなことを権能で解決に導くよう言われてます。まだアーシャレント界の事をぜんぜん知りませんが、これから少しずつ見分を広めて行こうかと思います。幸い使徒となり不老となってるようなので」


 えへへと頭を掻きながらそんなことを言うと、エレオノーラさんはちょっと痛ましそうな顔をした。


「……レーカ様、レーカ様の道行きに必要なのは、お友達です」


「おともだち」


「はい。テラシオンでも、王都でも、沢山の方と知り合い、そして交遊しましょう。その絆一つ一つがレーカ様の道行きにきっと必要になるものです」


 アーシャレント界に放り込まれた異物としての使徒わたし。永遠に生きる身体を持ち、権能と知識でアーシャレント界に風波を立てる事を良しとされた存在。だからこそ、なんだろうね。可能な限り多くの人達と交流し絆を結ぶ。それが使徒わたしとアーシャレント界との結びつきになる。


「じゃあ、エレオノーラさんともお友達ですね」


「え、いえ、私は大地と草木の神テラにお仕えする身ですので使徒様と友達など恐れ多く」


「わたしとはお友達になれませんか……?」わざとらしくあざとく上目遣いでじっと見つめる。


「そのような顔をされてはイヤとは言えないではありませんか」笑いながらエレオノーラさんが言う。「よろしくお願いしますね、レーカ様」


「はい、エレオノーラさん」




 王都への旅は順調に進み、ちょっと遅めの昼食を経て初日の野営地へと到着した。一定の間隔で街道脇に野営の出来る広場があり、この野営地でもわたしたちの他に2組の旅行者が野営を行っていた。


「しっかし順調にゃ〜。なーも出てこんにゃ」


「順調ならいいんじゃなの?」


「いいはいーけど座ってるだけじゃ身体が鈍るにゃ〜」


 サラがぼやく。普通なら野犬やらツノ付きウサギやら小鬼やらがちょろちょろ出てくるらしい。そういえば騎士団の皆さんもこんなに順調な旅は珍しいってお昼に言ってたなぁ……。


 3台の馬車をコの字に組み、馬は立木に結わえる。コの字を塞ぐように男性陣のテントを張り、中央に焚き火を。ポットを焚き火にかけ、湯を大量に沸かす。今日の晩ご飯はレトルトスープとパン、チーズ。


「これが噂のれとるとスープですか……?」パウチを開封し中をのぞき込んだギレルモ団長がいぶかしむ。そうだよね、見た感じ乾燥したマカロニフジッリとピンク色の粉が入ってるだけ、だもん。


「カップに中身を空けて、お湯を注いでかき混ぜてください。ゆっくり30数えるくらいの間混ぜて、しばらく置くとマカロニ入りのトマトスープになります」


 その間にパンとチーズを焚き火で炙り、チーズトーストを作る。カップから立ち上るトマトの香りが当たりにただよう。


 皆の感想? もちろん大好評。騎士団の皆さんが個人的に買いたいと仰るので即売会になったり(サラの見立て通り大量に作ってきてて良かった)、デザートに出したオレンジ缶がエレオノーラさん達のツボにハマったらしくこちらも王都に着いたら缶切りと共にお裾分けすることに。過度に手を加えず自然のまま(剥いたオレンジの粒だもん、自然だよね)なのに甘くて美味しいから教義に触れることなく楽しめるんだって。そういうことなら他の皆さんにも楽しんでもらいたいから、ね。



 翌朝。馬車の中という初めての環境でも熟睡できたのはクッションのおかげか、またも抱き枕にされたからか。起き出してから聞いてみたら、一晩なんの問題も(野犬やらの襲来も)なく、平和な一夜だったらしい。それなら熟睡も不思議ないね。


 テキパキと野営地を撤収し、再び馬車の旅。今日も天気はよさそう。途中、座ってるだけに飽きたサラが馬車と併走したり、お昼の休憩で騎士団の皆さんと乱取りしたり。まぁ気持ちは分かる。わたしも座ってるだけで飽き飽きしてるし。でも自由すぎやしませんか、サラさん……。


 そんなこんなで二日目も終了。テラシオンと王都の丁度まんなか当たりの街、ヴァルムボア・スプリングスに無事到着。温泉とイノシシ料理で有名な宿場町なんだって。


「なんでも怪我を負ったイノシシが、湧き出る湯に浸かりキズを癒やしたという逸話があるそうですぞ」今日も腹の底から声を出すギレルモ団長が教えてくれる。なんかどっかで聞いたことあるような逸話だね。でもそれでヴァルムあたたかいボアイノシシかい。


 わたしたち一行は二軒の宿を借り切る事に。男女別れての滞在となりました。


 ゆったりと温泉に浸かり(またサラに洗浄された)、名物のイノシシ料理を堪能。お腹いっぱいになったら疲れのせいかそのまま寝てしまい、気づいたら朝。朝風呂はなんとか入れたけど、もっと温泉楽しみたかった……。王都からの帰りに出汁ダシが出るまで浸かろう……。



 その後の行程も順調に進み、遅滞なく4日目の夕方、王都ソレリアスに到着した。城門は混雑していたけれど、ギレルモ団長が出した先触れのおかげで素通り。そのまま街の中心部、王城にほど近い宿へ案内された。


「これより王へ使徒レーカ殿ご到着を伝えて参ります。逼迫の事態がありませねば明日の昼前にお迎えにあがります。もし日程の変更をお願いすることになりますれば、伝令を走らせますゆえ」ギレルモ団長が相変わらずの響く声で明日の予定を確認してくる。


「明日はテラ教よりの代表者としてわたしも登城させていただきます」エレオノーラさんは午前中のうちにこの宿まで来てくれるとのこと。


 これまでの同伴にお礼をし一旦解散。テラシオン組7人で晩ご飯に繰り出すことにした。

 お店のチョイスは商業ギルド長のフレデリックさん。ガチョウ料理のオススメのお店に連れて行ってくれるらしい。


 テーブルに乗ったローストと蒸し煮と燻製、スープ。ガチョウ料理のフルコース。エールとワインも揃ってテーブルの上がひしめき合っている。


「皆さん、4日間お疲れ様でした。明日には登城となりましょう。レーカ様によってもたらされた叡智と恩恵を我々が責任を持って上奏いたしましょうぞ」エドモンド師の挨拶で夕食の始まり。


「レーカ、お尻まだ痛いにゃ?」


「痛いというかシビれてるというか。みんな平気なの……?」


「慣れにゃ。だいたい馬車はあんなもんにゃ」


「まぁそうねぇ。これが馬車鉄道だったらもっと乗り心地良いんだろうけど」


「なんじゃいその馬車鉄道ってのは」はす向かいに座ってる鍛冶ギルドのトールマンさん。


「えーっと、地面に1対の軌道を敷設して、その上を鉄の車輪を組み込んだ馬車を走らせるんです。

 地面と違って凸凹はないので揺れずに速く走れ、軌道は鉄でつくるので普通の馬車よりも輸送力も大きくなります。

 えーっと、これが馬車鉄道の概念図と、軌道の構造と、鉄の車輪の構造です」


 Wikipedia の本に載ってる馬車鉄道のページを抜き出して複製して渡す。ひったくるように手元に持って行ったトールマンさん。車輪のレール接地面と車軸が並行じゃない(外側がすぼまってる)事とか、フランジの理由についてあれこれ考え込んじゃってる。口を挟もうとしたら「自分で考える! 思いつかんかったら自分から聞く!」だって。


 商業ギルド長のフレデリックさんが唸りながらトールマンさんの手元の資料をのぞき込んでる。


「軌道という道の上を走るとなると、すれ違う事ができませんね? あと、その軌道が故障していると横転してしまうでしょう」


「その通りです。馬車鉄道の頃は行く道と帰る道の2本を敷設していたそうです。

 時代が進んでもっと速い鉄道が運用されると、行き帰りの区別のない1本の区間と、すれ違う事が出来る部分を建造、区間には1台の車両のみが進入できるように管理し、すれ違い部分で待ち合い、すれ違うという運行管理をしていたそうです。

 また、軌道が損傷しているとフレデリックさんの言われるとおり転覆してしまうので、鉄道の運行を管理する部門とは別に、軌道を管理保全する部門がいました」


「……おいそれとは実現できませんね……。ですが、この軌道が街々を結びテラディオス大陸を端から端まで結んだら、商業に革命が起きますね」


 流通革命だね。物とお金が流れると世界が活性化する。順番あべこべな気もするけど。


「おい嬢ちゃん、このフリンジつーのは軌道から車輪がズレないようにするもんだな?」


「そうです。そのフリンジがあるおかげで、軌道に分かれ道や交差部分を作っても脱線せず走り続けることができます」


「ああ、なんとなく分かる。だがこっちの車輪の断面が斜めなのがわからん。降参だ」


「そっちは、軌道がカーブしていても脱線しないようにする機構です。一定間隔の軌道がカーブしていると、幅は同じでも道のりの距離は外側の方が長くなります。

 カーブ部分の内側と外側で発生する軌道の距離の差を吸収するのが、円錐状の断面になるよう作られた車輪の機構です。

 これは口頭での説明だとちょっと難しいので、実際に模型を作るといいかと思います」


「ははぁ、それも機構なのか。只の車輪の形にまでことわりがありやがる。ここまでのもん見せられると、嬢ちゃんの界にゃ錬金術も魔法も無えってのが理解出来るぜ」ぐいっとエールをあおるトールマンさん。


「嬢ちゃん、明日王様に拝謁賜る時に、この馬車鉄道の事も上奏していいか?」


「トールマンさん、私もそれを考えていました。レーカ様、これはテラディオス大陸全体に関わる重大な案件です。ルミナリア王国だけではなく、テラディオス大陸にあるすべての国で共用できる軌道を敷設したら……。そう思うと商人としての血が騒ぎます!」


 さすが商業ギルド長フレデリックさん。流通=商取引だもんね、トールマンさんと意気投合して語り合ってる。そんな二人の様子を眺めながらワイン飲んでたら、女性陣に手招きされた。


「レーカ嬢、ヴァルムボア・スプリングスで話していた件なんだが」と錬金ギルドのセレスティーヌさん。あっはい、その話ですね……。


 久しぶりの天然温泉で気が緩んで、お化粧の話、しちゃったんだよね……。


「はい、ええっと、今晩中に用意して明日、朝からお化粧しましょうか」セレスティーヌさんもエミリアさんも目がマジ。ちゃんとするからそんな目で見ないで……。


「すまんがよろしく頼む」がっしと両肩を掴まれた。怖い……。


 でもこれ、化粧だけで良かったかも。もう少し口が滑ってたら補整下着のことまで言いそうだったんだよね……。公開する情報には気をつけないとだ。



 ガチョウ料理を堪能して宿に戻った後は、サラと一緒の部屋に籠もって各種化粧品づくり。


 化粧水に乳液に化粧下地、ファンデとアイブロウ、アイシャドウとアイライナー、マスカラ、チークとリップ。あ、そもそものクレンジングも必要だよね。

 どうもアーシャレント界では色白で細眉、チークもリップも控えめな色が好まれてるみたい。

 なのでファンデはセレスティーヌさんとエミリアさんの肌よりそれぞれワントーン明るめに、チークは赤めのピンクと薄めのピンクベージュの2色、リップは発色よさげなピンクベージュがいいかな?

 その代わり目力だいじにアイシャドウはブラウンとピンクで自然なグラデを作りましょう。アイライナーも要るかな……。マスカラは要らんか。二人とも天然つけまかってくらいぴっしりまつげだし……。


 なんてやってたら真夜中過ぎてました。



 そして翌日。夜も明け切らぬ前にセレスティーヌさんとエミリアさんの来襲を受けたたき起こされました。


「さあ起きるんだレーカ嬢。まず顔を洗ってきたまえ。私たちはここで待っているからな、急いでくれよ」アッハイ……。


 美を追究する女性に逆らうと碌な目に遭わないのはどの界も同じなのでしょうか……。


 お二人には鏡の前に座って頂き、一つづつ効能を説明しながらお化粧を施していきます。


「まずはこの化粧水でお肌にうるおいを与えます。手のひらに振りだして、顔の中心から外へ、軽く肌に圧をかけ、ゆっくりマッサージするように。

 つぎにこの乳液でうるおいを閉じ込め、肌をなめらかに整えます。乳液も化粧水と同じように優しく肌に馴染ませます。

 乳液の次は化粧下地。汗でお化粧が崩れるのを防ぎます。これくらい手のひらに取ったら、指でおでこと鼻、ほっぺとあごに置いて、また内側から外側に伸ばしていきます。

 次はファンデーション。セレスティーヌさんはこっち、エミリアさんのはこれです。お二人の肌の色よりちょっと白いめのファンデーションです。このパフでファンデを取って、ほっぺからぽんぽん、と輪郭の方へ塗っていきます。極端にいっぱい付けちゃうと白く浮いちゃうので、少しずつ塗ってください。

 次は眉毛をアイブロウで書いていきます。こっちのブラシで、上に上げてそのまま下に流す、眉毛の流れにそって整えて、ペンの方で眉毛の流れにそって丁寧に書きましょう。

 次にアイシャドウ。片目をつぶってもらって、まず薄いベージュので上まぶた全体をぼかして、次にピンクでまつげの上にこのくらい、最後にブラウンでまつげの生え際をぼかすように。眼ぢからだいじです。

 次はこのアイラインでまつげの根元をくりっとラインを引いて。

 そしてチークはこっちの赤いピンクを先に頬の一番高いとこ、ここに少しずつ馴染ませて、次に薄いピンクの方をさっきのの周りにぽんぽんって重ねづけするとツヤ感でます。

 最後にリップ。このキャップとってくるくるすると出てくるので、唇の中央から外へ広げるように……。

 はい、完成です!」


 まぁね、二人とも素材が良いからね。そこにナチュラル、でも目ぢからつよつよメイクしたらそりゃ美人度急上昇でしょ。鏡見てうっとりしちゃってるもの。気持ちはわかる。


 わたしとサラも念のためお化粧を、ポイントメイクだけしておく。さらにさらに念のため、色合いを何トーンか作ったお化粧セットを用意してある。ぜったい謁見で一波乱あるでしょこれ。



 宿のロビーに降りていったら、男性陣から賞賛の嵐を受けたわれわれ4人。女性としての自尊心がくすぐられました。とてもいいものです。はい。


 ……食べ物とか医薬品もそうだけど、お化粧品とかそれこそ下着、下着に合わせた新しいファッションとか、そういう文化面での発展も狙っていけるね。



 そのあと朝食を摂りお茶なんかしているとテラ教の大司祭様であるエレオノーラさんがやってきた。


「レーカ様、おはようごz……」われわれ4人おけしょうぐみを順に見渡し、ぷるぷる震えながらわたしを見つめる。見つめるってより睨み付けられてるね。ちょっと涙目だし。むくれ顔かわいいが過ぎますエレオノーラさん。


「はい、分かりました。エレオノーラさん、ちょっとお部屋に行きましょう」エレオノーラさんの手を引いて部屋に戻りました。


 もちろんエレオノーラさんも化粧の仕上がりにうっとりとされてました。高司祭さまだからホントにナチュラルなメイクなんだけどね。


 やっぱり化粧品流行らせましょうか。大流行するのは間違いないよこれ。

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