第7話 スイーツ🍰!スイーツ🍮!スイーツ🍨!

「こんにちは~」


「あら、レーカちゃんにサラちゃん、いらっしゃい。アップルパイ、取り置きしてあるわよ」


 週2でアップルパイを買いに来ているテラシオンイチのパン屋さん、アップルハーモニー。その店長さん、エミリアさんは今日も清潔感ある装い。洗い立てのエプロンドレスをきちっと着込み、栗色のロングヘアは一筋の乱れもなくまとめ上げられている。仕事の出来るお姉様。


 昼の混雑をさけ、夕暮れ時まではまだ時間がある客足が落ち着いたあたりでお店に来たのは、この街いちばんのスイーツ店の店長さんにいろいろ取材するため。


 なんの取材って? 女神テラ様が女子会したいっておっしゃるんだもの、テラシオンで手に入るスイーツの調査に来たのですよ!


「甘いお菓子?」


「はい、女神テラ様がご所望なのです」ニヨニヨした表情でサラがこっち見るけど間違ってはいない。


「そっか、レーカちゃん使徒様だものねぇ」甘いお菓子甘いお菓子……と、おとがいに手を当て考えるエミリアさん。


「うちのお店で普段出しているのは、もちろんアップルパイと、季節のベリーのパイ、蜂蜜ケーキもあるわね。それからペイストリーもあるし寒くなってきたらジンジャーブレッドも出すわね。あとはクッキーとかビスコッティかしら」


 お店の奥からそれぞれを出してきくれたエミリアさん。どれも美味しそうなのよね。


「うちでは作ってないけれど、スコーンという硬いパンみたいなお菓子もあるわね。ジャムとかクリームを付けて食べると美味しいわよ」食べた時の事思い出してるのかな、とても美味しそうな顔してる。


「レーカちゃんの界では、もっと沢山の甘いお菓子あったの?」


「はい、食品を冷蔵する技術があったので、ミルクから作った甘いクリームと生の果実をふんだんに使ったショートケーキというお菓子とか、ふわふわした生地を薄く切り、クリームを巻き込んだロールケーキとか、中に空洞が出来るように焼き上げた軽い生地の中にクリームを詰め込んだシュークリームとか、薄く焼き上げた生地でクリームと果実を巻き込んだクレープとか、クレープの生地とクリームを何十回と重ね合わせたミルクレープとか、この辺りは一般的で街のお菓子屋さんでいつでも買えました」


 エミリアさんが頬を紅潮させうっとりした目で遠くを見てる。スイーツ女子にはキツい情報だったか……。


「あと、甘く味付けた卵液を蒸して作るプリン、ミルクを冷やしながらかき混ぜ、ふわっと仕上げた冷菓のアイスクリーム、それらと果実を併せてお皿に盛ったパフェというお菓子もあります。名前の由来は“完璧なデザート”です」


「パフェ……完璧な……デザート……」ちょっと目が怖い光を帯びてきてる。大丈夫かエミリアさん……。


「レーカちゃん!」がっしと両肩を掴まれる。


「は、はひっ」


女神テラ様に献上するお菓子、私も食べたい! 私が作る!」がっくがっくと揺さぶられる。エミリアさん目、血走ってる……。


「すんごい気迫にゃ……」おいデカネコ呆けてないで助けろ~。


「ええっと、作るの手伝ってくれるのはとても嬉しいですし、なんだったらエミリアさんも女子会に来ます……?」


「女子会が! 何かは! わからないけれど! 参加します!」


 そういう事になった。




 その後、冷静になったエミリアさんと、各種スイーツ実現の為の打合せ。汎用プラントのチート力で完成品を作り、姿形と味をエミリアさんが記憶、Wikipedia の本からそれぞれの製法を複写、エミリアさんがその試作を行う。スイーツ作成に必要な道具は鍛冶ギルドのトールマンさんにお願いして作ってもらう、と言うことに。


 夕方の仕込みに入るアップルハーモニーをおいとまして、そのまま鍛冶ギルドのトールマンさんに会いに行く。


「見よこの完璧な作戦を!」


「完璧にゃ~? そんな簡単にエミリア作れるにゃ~?」


「もしくは最初にわたしが各種お菓子作りまくって女子会して、エミリアさんには今後、アーシャレント界でお菓子職人パティシエとして名を馳せてもらう!」


「どっちにしろエミリアが作るにゃ」


「そーよ、美味しいお菓子もっと増やさないとダメ! それが私の使命なの!」


「罰当たりにゃ……」



 トールマンさんには製菓道具として、スパチュラやケーキ型、シフォン型、クリーム絞りの口金各種、プリンカップと篩いふるい、うらごし器、泡立て器等々。Wikipedia からざざっと複写してとりあえず各2個ずつの作成をお願いした。


「菓子作る専用の道具、なぁ。嬢ちゃんの界はなんともすげえな」


「世界各国で独自に発展したお菓子があったので、とても全てを知ってる訳じゃないですけど、どれもとっても美味しいですよ」


「それがアーシャレントでも楽しめるようになる、ってんなら気合い入れて作らんとな」


 甘党のトールマンさん、頼もしい……。


「しかしこの……。ハンドミキサーか。仕組み自体は簡単だが、ガタつかないように回させる為には加工精度が必要だな……。

 特にこの歯車、ヘリじゃなく平面に上下同じ歯を切らなきゃならんな。大歯車を挟んで2本のささら、これは逆回転するんだな。と言うことは2本で筅の数を合わせにゃぶつかっちまう。筅の上に付く歯車はブレ止めか。ここにガタがあっちゃ意味がねえ。

 嬢ちゃん、こいつぁ魔素鉱石で回すカラクリにも出来るんじゃねえか?」


「はい、わたしの界でも動力は違えど自動で回すカラクリもありました。手で回すのも結構しんどいので」


「確かになぁ。今回は間に合わんが、魔素鉱石のカラクリも作っとくわ」




 修道院に戻りこれからが本番。思いつく限りのスイーツを生産していきますよ!


「ショートケーキ! チーズケーキ各種! シフォンケーキ! モンブラン! バームクーヘン! シュークリーム! エクレア! カヌレ! スイートポテト! マドレーヌ! タルトタタン! カステラ! マカロン!」


 思いつく限りのスイーツを汎用プラントで作成、どんどん積み上がっていくカートンボックスの大洪水! それを呆れて眺めるサラ。


「ちょ~い待つにゃレーカ、部屋埋まるにゃ~」


 その声に部屋を見渡すと確かに部屋がヤバイ。身動きできなくなる前に蔵の鞄にしまいましょう……。



 スイーツの量産は一休み、お茶を淹れシュークリームでおやつ。


「ほーんとレーカのやることトンデモなさ過ぎにゃ~」


「甘いお菓子は正義です! 悲しい気持ちも、寂しい気持ちも、甘いお菓子を食べると晴れるのです! 甘いお菓子には心を明るくして幸福感を高める魔法のような力があるのです! ストレス軽減、一時的にでも悩みから解放される瞬間を提供してくれる魔法なのです!」鼻息が荒い自覚はある!


「いやまぁそれは分かるにゃけども」そういうサラもシュークリームにかぶりついて尻尾がぴーんと立ってる。ほら、美味しいでしょう……?



「それにほら、そろそろ王都にご挨拶行かないとでしょ? お茶会の手土産にお菓子色々持って行こうかなーって思ってて。どうせならアップルハーモニーのエミリアさんが作っててテラシオンで大流行、みたいな話題性? あったらいいかなって」


「でっち上げにゃ……」


「話題づくりなんてでっち上げでしょ~。それに、エミリアさんに見せられるだけのお菓子見せて、さらにいろんなお菓子を開発してもらわないと!」


 シュークリームを食べて一息ついて、さらにスイーツを製造しまくる!


「アイスクリーム! プリン! シェイク! ババロア! クレープ! ミルフィーユ! そしてパフェ!」


 スイーツの甘い匂いが充満した部屋に辟易したのか、サラが晩ご飯買ってくると言い残し部屋を出て行った。……たしかにちょっと胸焼けしてきたね、この甘ったるい匂いは。追加で製造したスイーツ各種も蔵の鞄へしまいこみ、窓を開け空気を入れ換える。



「さて、どうしよっかな、チョコは……」


 アーシャレント界にそもそも存在しなかった抗生物質なんかは100%魔素で作り上げちゃってるし、試作と称するこの大量のスイーツなんかも魔素だけで作ってる。


 変なこだわり、なのかも知れないけれど、アーシャレント界に存在していて、まだテラディオス大陸もしくはテラシオンの街で手に入らないだけのもの、鮮魚とかチョコレートは、現物がわたしの手に入るまでは関わらないほうがいいのでは、なんて考えてる。


 女神テラ様は使徒である事、神々の存在を言い訳にして何でもやっちゃえ! みたいな感じだけれど、それでも今ここで権能で扱うのはちょっと違うかな~、と思うんだよね。


 まぁ商業ギルドのフレデリックさんとかハインリヒさんに頼んでカカオ豆を手に入れてもらえば良いだけなんだけど。すんごい高くなるんだろうなぁ……。


 そして、王都訪問をちょっと楽しみにしているのもココで。王都になら売ってるかも、王様の紹介でいろいろ珍しいもの手に入らないかな、なんて期待してる。




 サラが買ってきた晩ご飯は、スパイシーな味付けの串焼きと野菜たっぷりのポトフだった。……うん、わたしもちょっと甘い匂いで胸焼けしてて塩辛い味が欲しかったんだよね……。





 アップルハーモニーの定休日、わたしとサラは朝からエミリアさんを訪れていた。裏の調理室の中央に据え付けられた調理台には、わたしがせっせと作り出した各種スイーツがあふれんばかりに並べられている。もちろん、蔵の鞄に保管していたから鮮度バッチリ作り立て!


「それじゃ端から行きますけど、まずそれがショートケーキ、スポンジ生地と生クリーム、苺で作るシンプルなケーキですね。シンプルだけど王道です! 次にチーズを用いたチーズケーキ各種。レアチーズケーキ、ベイクドチーズケーキ、スフレチーズケーキにバスクチーズケーキ。その隣の真ん中に穴が空いてるのが……」


 エミリアさんはメモを取りながら一口ずつ味を確かめている。各種スイーツを並べてる時はちょっとヤバめな目つきで怖い人感あったけど、いざとなるとやっぱり職人だよね。ふざけたところないし黙々と自分で得た印象を記録に残していってる。


 今回は初回と言うことでタイプの違うスイーツをざっと20種類ほど用意してきた。もちろん、全種類の分量と作り方をイラスト入りのレシピブックにしてきたし、鍛冶ギルドのトールマンさんにお願いした製菓道具も持参してきてる。


「噂には聞いていたけれど、レーカちゃんの界はお菓子も豊富なのね……」一息ついてお茶にして、エミリアさんが半ば呆れたように言う。


「豊富というか、単純に比較は出来ないですけど、たぶんアーシャレント界と比べるとわたしの界は500年か600年くらい進んだ時代みたいなんです。言い換えると、わたしの生きていた時代から500年くらい昔の世界とよく似てるんですよ、アーシャレント界って。

 なので、アーシャレント界の皆さんからすると見たこともない不思議な世界、不思議な道具に不思議なお菓子かも知れないですけど、このまま500年くらいしたらアーシャレント界でも同じような、もしかしたらもっとすごい美味しいお菓子が出来上がるかもしれないですよ」


「そうねえ、教えてもらった材料はこの街でも手に入るものばかりだし、道具と調理法でこんな素敵なお菓子が出来上がるのね。これがレーカちゃんの言う“500年”で培われた技術と製法……。

 ここに、これから500年間、職人が考えて苦労して作り上げた全てがある。お菓子職人として目指す先、それも既に実現された結果が見えているだなんて、職人として是非とも自分のモノにしたい。そう感じるわ。本当にありがとう、レーカちゃん」


「いえ、これは自分の為なので」


「レーカちゃんのため?」


「はい、わたし、昔っから甘いもの大好きで、疲れたときとか落ち込んだときでも甘いもの食べたら元気になれたので。

 アーシャレント界でもきっと甘いもの食べて元気になれる人が居るとおもって。なので、自分の為です」


 そう言いきったわたしの顔をぽかんと見つめて、やがて笑い出したエミリアさん。


「そうね、甘いお菓子はみんなを幸せにするもんね。

 ……ねえレーカちゃん、このレシピブック、他の職人たちにも広めたいの、いい?」


「はい、どんどん広めちゃってください。女神テラ様もそれをお望みです」


「神様のお墨付きならだいじょうぶね。いっそ製菓ギルド立ち上げちゃいましょうか」


女神テラ様きっと喜ぶんじゃないかなぁ。それに、製菓職人さんの事をパティシエと言うので、そのギルドならパティシエギルドですね」


「パティシエギルド。いい響きね」にっこり笑うエミリアさん。どんどん新しい美味しいスイーツ作って下さい! わたしのために!



 20種用意したスイーツから、女神テラ様との女子会までに4~5種は作れるようにしておく、と息巻くエミリアさんを残しアップルハーモニーを後にする。

 きっとエミリアさんだったらすぐに全種類作れるようになるだろうね、とサラと言いながらちょっと早めの晩ご飯を食べにベロニカさんのお店へ。



 今日の日替わりシチュー(ウサギとキノコ)を頼んで、サラが言いだしたのがエミリアさんに渡したレシピの事だった。


「そいやエミリアに、あと500年もしたらあんなお菓子出来るて言ってたにゃけど、界の本に500年後にどんなお菓子出来てるか載ってるにゃ?」


「載ってるよ」


「それのレシピ渡したほーが早くにゃ~?」


「んー。最初はそう思ったんだけど、わたしの界のお菓子と同じようなのもあったし全然違ったのもあったのね。でも、最初からそれを渡しちゃうと、それが出来てお仕舞いだなーと思って、止めたの」


「あー、にゃるほどにゃ。こっから500年間でもっとお菓子業界を進歩させるにゃね~」業界かしらんけどね。


「そう。これが500年後のお菓子ですよ! って渡して、それ作って終わりだったら面白くないかなーって」


 女神テラ様が望むのって、良い意味でわたしがアーシャレント界を引っかき回すことなんじゃないかなって、最近思ってる。言い方悪いけど。


「にゃるほどにゃ~ レーカもちゃんと考えてるにゃ~」さも意外そうにいう……。デカネコめ……。




 エミリアさんから連絡が来たのは、サンプルのスイーツを持って行ってから5日後だった。


「エミリアさんこんにちは。……だいじょうぶですか……?」


「ええ、だいじょうぶ。とってもげんきよ」


 目の下にべったりとクマを貼り付け、でも顔は妙にツヤテカしてるエミリアさん。これはアレですね、試作品を食べ続けた結果ですね……。


「ショートケーキとシュークリーム、エクレア、モンブラン、フルーツタルト、タルトタタン、レアチーズケーキ、アイスクリームとプリンは作れるようになったわ」ふんすふんすと鼻息荒くエミリアさん。ドヤ顔も麗しいです!


「がんばりすぎですよね……」


「お菓子が私を突き動かすの」


「アッハイ」


「でもまだまだね。安定して同じ物は作れるようになったけれど、自分のモノには出来ていないわ。

 お菓子って分量がちょっとでも違うときちんと出来ないのよ。だからアレンジはまだ出来てない。500年間の積み上げはやっぱり高い壁だわ」


 とても楽しそうに悔しそうにエミリアさんが笑う。職人さんってほんとかっこいい。


「どうします? 女神テラ様との女子会」


「今作れるモノは、私の今、全力の自信作。テラ様にお召し上がりいただくのに不足はないわ」またドヤ顔。


「じゃあ、エミリアさんの体調が戻って、お菓子各種作り上げてからにしましょうか。

 お菓子はじゃんじゃん作ってもらっていいですよ、わたしの方で鮮度保って保存できますんで」


「それなら3日後にしましょうか。明日の昼過ぎと夕方にお店に来てくれる? たっぷりお菓子作っておくから」


「分かりました」



 ほんとにたっぷりだった。というか作り足りないだかで翌日にも取りに来るよう言われた。エミリアさん、材料費のこと考えてるのかな……。




 明けて女子会当日、アップルハーモニーは臨時休業。エミリアさんは朝から修道院にわたしたちを迎えに来てくれている。見た感じエミリアさんは睡眠も十分取れてるみたい。


「それでは、教会が管理している原っぱまで移動しま~す」


 連れだって歩く3人。場所については昨日のうちに女神テラ様と打ち合わせておいたんだよね。今日は天気も良いし、原っぱにテーブルセット置いてちょうどいい女子会びより。

 てくてくと小一時間、本日の女子会会場に到着。


「ではでは、女神テラ様に連絡を」


「はい、おまたせしました」連絡する前にいらっしゃいましたね。


女神テラ様、こんにちは」


「はい、レイカさんこんにちは。サラさんにエミリアさんもこんにちは」


「こんちにゃ~」「は、はい、ほんじつはよろしくおねがいいたします」エミリアさんガチガチ。まぁ普通は顕現された神にここまで軽く挨拶されないよね。

 ていうか女神テラ様フットワーク軽過ぎ。


「では、ここを一時的に聖域にしちゃいますね。雨とか降られたくないですし」そう言って女神テラ様は手を軽く振る。何か耳に響く音が聞こえ、4人の周りに薄いベールが掛かった。これが神域ってやつなのか。


「さあ、座りましょう」いつの間にか用意されていたテーブルセット4脚(最初に女神テラ様とお会いしたときのと同じテーブルだ)に誘われた。



「本日は、レイカさんの故郷で女性が集いおしゃべりし美味しいお菓子を頂く“女子会”という集いを開かせて頂きました。

 レイカさんにお願いしているお仕事についてお聞きしたいと思っていました。なので、エミリアさんが今日の主役ですね」にっこりとほほ笑む女神テラ様。


「主にこちらですね」そういって蔵の鞄からエミリアさん謹製のスイーツ各種をテーブルにどんどん並べていく。並べきれないなと思うと天板が広がり、4ホールのケーキ、山盛りのシュークリームとエクレア、モンブラン、そしてパフェが4つ、並びきった。


「お話はさておき、まずはこちらの“パフェ”を皆さんでお召し上がりください。冷菓なので溶ける前に」


 エミリアさんがサーブ役に徹しそうな雰囲気なので椅子に座らせて、わたしがサーブ。鍛冶ギルドのトールマンさんに作ってもらっていた柄の長いパフェスプーンを配って、実食!


 プリン、バニアアイス、ホイップクリーム、苺ジャム、季節のフルーツ。まさに究極のデザート……。


「これは……とっても美味しいですね。プリンやアイスクリーム、ふわっとやさしいホイップクリーム、一つ一つも美味しいです。

 そして、これが“パフェ”という由縁なのでしょう、いちばん底のサクサクしたクッキーやフルーツの爽やかな酸味などと一緒に口に含むと食感の違いがとても楽しいです。

 一つ一つがとても美味しい。一緒に口に含むとそれぞれの個性が絶妙に重なり合い、完璧な調和が生まれています。

 まさに究極と呼ぶにふさわしい一皿ですね」


 女神テラ様ご満悦である。そしてエミリアさん感涙。滂沱の涙。必死に何か口にしようとしてるけど言葉になってない。


 女神テラ様がローズティーのポットを出してくださったので、サラと一緒にサーブして一息。エミリアさんもスンスンいいつつ落ち着いてきたよう。


「レイカさん。テラシオンでの活躍、とても頼もしく見ています。製薬プラントは順調のようですが、投薬に関わる知識、具体的に言いますと“医療”についての知識を広める事を考えていらっしゃるようですね」


「はい、もとの界での医療はとても発展していました。その発展のお陰で寿命が延び少子高齢化が進むほどに。でも、その医療知識だけを今のアーシャレント界にそのまま持ってきても機能しないので、どうしたものかと考えています」抗生物質だけとか麻酔薬だけとか有っても使いこなせなきゃムダだからねぇ……。


「そうですねえ、知識だけでは薬品も道具もないこのアーシャレント界では何も出来ませんものね。なにかの権能でここにMRIや手術支援ロボットを顕現させても意味のない事です」そういって女神テラ様はちょっと考えるそぶり。


「医神セラフィーナという神がおります。レイカさんのプラント管理の顕現と、もとの界の医療についてセラフィーナとすこし話をしておきます。

 その上で、またレイカさんにお願いする事もあると思いますので、その時はよろしくお願いしますね」


 そしてローズティーを一口。一呼吸置いて女神テラ様が続ける。


「保存食プラントの方も順調ですね。缶詰とフリーズドライを作り分けるという仕組みも立ち上げ時には有効ですね。孤児院の子供達の働き口まで考えて頂いて、とても感謝しています。ありがとうございます。

 商業ギルドのフレデリックさんが地元の発展のためにオレンジの缶詰の売り込みに東奔西走されていますね。製品の認知を広げ、生産効率を向上させ、流通効率を上げる。フレデリックさんもなにかの権能をお持ちなのでしょうか」女神テラ様が知らない権能なんかあるのかな。商売の神様からなにか頂いていたり?


「畜産関連の強い街もありますので、ゆくゆくはお肉で缶詰など作っていただけたらと思っています。それからお魚でも。レイカさんも考えられているとおり、ここから南のアズーラベイ、東のエメラルドコーヴ。その近くにプラントを建設する必要はあるでしょうが、どちらの街も発展に繋がると言うことで協力して頂けるはずです」


「お肉の缶詰ですと、コーンビーフとかランチョンミート、ソーセージなどがありますね。ビーフシチューの缶詰もありかな?

 お魚ですと水煮缶とかオイルサーディン、貝の薫油漬けも美味しいと思います。カニ缶もありますけど、アーシャレント界でカニって食べられてますか?」


「港町では食べますね。流通網には乗らないのでそれ以外の街ではほぼ知られていないとおもいます」まぁそうですよね。甲殻類ってすぐ悪くなっちゃうし。


「そうそう、そろそろ正式に王都から謁見を与えるとの通達が来ます。レイカさんの思うことをそのままお話ししてよいですが、宰相がちょっと意地の悪い人なので、なにかあったら紋章に念じてください。お邪魔してお説教メッてしますので。王族の皆は王の即位の際に私の顕現した姿を見ているのですが、それは王族のみですのであまり信仰心のない者は使徒であると言っても理解しようとしないのです」頬に手を当て困り顔の女神テラ様。


「そして、謁見を賜る際に、これまでレイカさんのプラントで作り出したお薬や保存食品、それから」ここでエミリアさんを見る「エミリアさんもご一緒に謁見して、レイカさんによりもたらされたお菓子の数々を披露するとよいですね。きっとギルド設立の後ろ盾になってくれるでしょう」


 急に話が自分に回ってきてまたエミリアさんが目を白黒させる。ちょっと落ち着こうね、エミリアさん。


「拝謁の際は関係者を連れて行ってもいいものですか?」女神テラ様に確認。


「たとえば、エドモンド師、錬金ギルドのセレスティーヌさん、商業ギルドのフレデリックさん、鍛冶ギルドのトールマンさんにエミリアさん。この5人が私の権能に直接影響を被った方達なので」


「そうですね、皆さんで行かれるとよろしいと思います。現王であるエドワード王はルミナリア王国の発展に苦心しておりますし、あれで新しもの好きな所もあるのでレイカさんによってもたらされた物について、当事者から話を聞きたがると思いますので」


 聞いた感じだとエドワード王に謁見してもいきなり縛り首はなさそう。だよね? 魔女狩りとかいきなり火あぶりとかやだよ……。


 この後はスイーツタイムとなり、水を得たエミリアさんが女神テラ様へいかにこれらのスイーツが素晴らしいか、それぞれの製法の困難さとその味わいを熱演していた。女神テラ様に胸焼けという言葉は無いようで、エミリアさんがオススメするスイーツを全て平らげ味の感想戦をエミリアさんと繰り広げてる。


 やっぱりエミリアさん連れてきてよかったね。さっきまでの血の気の引いた顔が嘘のように生き生きしてる。


 持参したスイーツの八割方を女神テラ様が平らげて今日の女子会は終了。


「エミリアさん、今日お持ち頂いたお菓子、その全てをこの私、大地と草木の神テラが聖別いたします。そして、より一層の精進を期待しますよ」


 女神テラ様はエミリアさんへにっこりとそう告げ、また目を回すエミリアさんを横目に戻られた。


「こりゃエミリアさん、これから忙しくなるね~」


「なるにゃ~。聖別されたモノは信仰深い連中には光るぽわぽわが漂って見えるらし~にゃ。エミリアのお菓子ぜんぶキラキラのぽわぽわになったら、あっちゅ~まに売り切れ続出にゃ~」


 おおぅ……。女神テラ様、それはきっとやり過ぎです……。


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