第6話 缶切りと牧草とマーマレード

 二人揃って二日酔い。しかも二人ともほとんど記憶がないという体たらくなので、調子に乗って深酒するのはやめましょうと紳士協定が結ばれました。


「でもレーカを抱き枕にだっこして寝ると快眠にゃ~。また頼むにゃ~」


「謹んでお断り」


「ケチケチすんにゃ〜」


「イヤですぅ〜」


 酔いに任せて作ったらしいカットグラスのブランデー製造機もしまっちゃおうね。そうだ、コレを女神テラ様に献上しましょう。

 女神テラ様、こちらの水差し、無限にブランデーが湧き出しますのでよろしかったらお納めください。

『ありがとうございます。酒の神と鍛治の神、享楽の神がすでに酒盛りを始めています。

 昨夜はとても楽しそうでなによりでした。日頃の働きぶりにももちろん感謝しておりますが、適度なお休みも必要ですよ?

 そうそう、良いことを思いつきました。次のプラントが完成したら女子会しましょうね』


 わたしとサラと女神テラ様で女子会……?



 水分補給しながらダラダラしていたらようやく立ち上がれるくらいには復活してきたので、だいぶ遅いお昼ご飯(と言うかおやつ)でも買いに行こうかと市場街へ。


 いつ覗いても活気のある市場街を冷やかしながら、サラの見立てであれこれ買っていく。最初に目に付いたお肉屋さんでサラミソーセージと吊されたままの固まりベーコン、甘い香りに釣られて入ったパン屋さんでリンゴのフィリングがたっぷり詰まったアップルパイを。青果屋さんでテラシオンのお隣、オレンジアヴィル名物のオレンジも一山購入。


「そういやテラシオンってあまり魚見かけないね」


「馬車で2日くらい南か東に行けば漁村あるにゃ。でもサカナはすぐ腐るにゃ。干物にでもせにゃー売れんにゃ。

 前に護衛任務で南の漁村へ行った時は水揚げしてすぐのイワシってちみっこいサカナを焼いてレモンかけて食べたにゃ。あれは美味かったにゃ〜」


「そっか。流通してないだけで魚食はあるのか」


 イワシなら王道のオイルサーディンかな。水煮なら新しい食材になるかなぁ。煮付け系は味が受け入れてもらえるか……。

 もっと大きな魚でも圧力調理したら骨ごと食べられるし、貝とかあるなら燻油漬けも良いよね。

 魚介系の缶詰、覚えておこう。


 まだまだ先の話だけれど、製造だけじゃなく流通も含めて考えていかないとならない。そうなると国単位の話になるよね……。


 そんなこんなで適当に食べゴロゴロし、お風呂に浸かってシチューを食べ、そんな休日を過ごした。英気を養うのも大事。




 翌日、錬金ギルドに届いていた商業ギルド長フレデリックさんからの荷物、保存食料の材料の山を見ながら考える。


 これ、都度都度試作品を作るためだけのプラントを作っていくより、何でもかんでも作れる汎用プラントを作っちゃえば楽出来るよね。汎用プラントとは何かという哲学的な問題があるけど。


 でも、わたしが望むモノを望むとおりに作成するプラントは作れる訳だし……。


 試作品は量産しないから問題なし!


「そんじゃ、試作品作成用の汎用プラントを作成!」


 間借りしている商談スペースの床から、縦横高さ1メートルほどのプラントが生えてきた。右上に材料を投入するホッパー、なにやらそれっぽいタンクやらパイプがうねり、左手前から試作品が出てくるみたいな。いい加減チートだなぁ……。


 試作品として、まずはフリーズドライのマカロニスープを作りましょう。サラに頼んで小麦粉とトマトを投入してもらい、中央のタンクに手をかざし『フリーズドライのマカロニトマトスープを10食分、個別パックで作る』と念じる。


 数分後、左手前からパウチされたフリーズドライスープが10個、転がり出てきた。パッケージ面にはイラストタッチのトマトとマカロニフジッリが踊っている。


 タンク下の表示板に、材料の残りが表示されている。トマトがちょっと残ってるので一度取り出すよう念じる。プラントから直接蔵の鞄に入ったようなので、続いてチーズと牛乳を投入。今度は『フリーズドライのマカロニミルクスープを10食分、個別パックで作る』と念じる。さっきと同様にパウチが10個、出てくる。今度のイラストは茶色いぶち柄の牛とマカロニフジッリ


 ……イラストのセンスあるなこの権能……。


 プラントに入っている材料の残りを一旦蔵の鞄へ退避。つぎは山盛りのオレンジを全部プラントへ投入。


 まず、輪切りオレンジの缶詰を30個作りましょう。タンクに手をかざし念じ、待つこと10分。ゴロゴロと缶詰が転がり出てきた。輪切りオレンジがぐるっと缶詰を囲うラベル。


 つぎはいわゆる“ミカンの缶詰”みたいな、果肉部分のシロップ漬け。こちらも待つこと10分で30個の缶詰が出来上がり。ガラスの器にてんこ盛りの果肉が印刷されたラベル。


 最後に、これは昨日思いついたオレンジマーマレード。定番でしょう。個人的にもジャムでは一番好きなので、自家用含め40個製造。ころんとしたガラス瓶に、パンに塗られたマーマレードのイラスト。


 ……ホントチートが過ぎるよねこの権能。わたしが自制しないとどこまでもなんでもかんでも出来てしまう。



 さて、そろそろお昼の時間なので試作品の味見と行きましょう。


 マグカップとお湯、カットしたバゲットを用意して。マカロニスープの方は冒険者であるサラにも意見を聞きたいしね。


「はい、どうぞ」


 トマトスープとミルクスープのマグカップ、バゲットにたっぷり載せたマーマレードをサラに渡す。


「変な味とかはしないと思うけど、どんなことでも言って」


「了解にゃ〜。じゃあ早速トマトの方から」


 マグカップに鼻を近づけ匂いを嗅ぎ、スープでひとすくい。程よく戻ったマカロニをかみしめてる。あ、これは美味しい時の顔だな。


「これは美味いにゃ! それにお湯いれてぐるぐるかき混ぜるだけでこんだけのモン食べれるならお仕事中のご飯これだけで十分にゃ!」サラ大絶賛。


「ミルクスープも試してみて」


「チーズの匂いがもう美味いにゃ! ミルクもたっぷり、キノコも入ってるにゃ? こっちも美味い!」


 投入した材料以外も魔素から変換されて入るのかな、確かにニンジンとキノコが細かく刻まれて入ってるんだよね。これが“魔素だけでも”ってトコロに繋がるんだろうな。


 そしてオレンジマーマレード。試作品は瓶だったけど、ネジ蓋付きのパウチにしたら割れないし旅行中にも便利かな? ビタミンCを添加する事も出来るだろうし、錬金ギルドのセレスティーヌさんとも話してみよう。


 バゲットとこぼれ落ちそうなほどのマーマレードにかぶり付く。微かな苦みとオレンジの風味が素朴なバゲットにピッタリ。大満足。


「まーまれーど、これも美味いにゃ〜。オレンジは皮むくのがめんどくさいにゃけど、これならまた食べたいにゃ」


 試食は大成功、かな? 明日は商業ギルド長フレデリックさんとハインリヒさんにも食べていただこう。




 試食が無事終わったので、オレンジの缶詰を5つ6つお土産に鍛冶ギルド長、トールマンさんのトコロへ。缶切り作ってもらわないとね。


「こんにちは。ギルド長のトールマンさんはいらっしゃいますか?」


 受付に声を掛け、しばし待たされた後ギルド長のお部屋に案内された。


「おう、例の缶詰ってやつ、出来たのか?」たたき上げの職人ここに在り、って風なトールマンさん。


「これになります」


応接テーブルに缶詰を積み上げる。


「ほほぅ……。こいつは、上下のフチを蓋で巻き込んで密閉してるのか?」缶詰を手にためつすがめつのトールマンさん。さすが、一目で構造を見抜いたか。


「はい、筒にした胴体のヘリを外に曲げ、蓋を重ねて内側に巻き込んでます。底側を作り、内容物を隙間なくなみなみと投入、上を締め、その状態で加熱します。それで腐敗する原因を取り除き、2〜3年という長期保存を実現してます。

 でも、そのしっかりとした構造のおかげで、専用の開封機である“缶切り”がないと開けられません」


 ここで Wikipedia の缶切りのページから複製してきたテコ式の缶切りの図を渡す。握るタイプとつまむタイプ。


「これが缶切りの構造なのですけど、ここのフックを缶詰のこのヘリに引っかけて、このツメを蓋に突き刺し、戻してツメをずらし、また突き刺し、この繰り返しで一回りぐるっと開けます」


 図面を片手にあごひげを捻るトールマンさん。


「ちょっと、鍛冶場行くか」


 そう言って部屋を出、ギルドの裏手にある鍛冶場へ。修練場として使われているらしい。


「缶詰の方は、そんな分厚い訳でもないな」上下の蓋を指で小突いてる。音で判断するらしい。


「そんで、こっちは……。なにより錆びちゃならんな。そこでだ、レーカ嬢。こないだもちらっと話したが、錆に強いすてんれす、ちゅー金属は手に入ったか?」


「はい、鉄にクロムを12〜15%程加えた物になります。こちらがサンプルです」


 試作品プラントで魔素から作りだしたステンレスのインゴットをいくつかお渡しする。


「錆びない、というより表面に作られる酸化皮膜により新たな錆が発止しにくい、というモノです。まぁ普通に拭いておけば錆びません」


 叩いたり鑢を掛けたり、見極めに忙しいトールマンさん。


「わかった。まずはこのインゴットから板を作って缶切り、だな。すぐにステンレスの精製も出来るだろ」


 トールマンさんは板状の金属を様々に加工出来る“金属加工(板)”という権能をお持ちだそう。インゴットを加熱し切断し板状に伸ばし、手をかざして念じるだけであれよあれよとピカピカの缶切りが出来上がり。


「ほら、いくつか持ってきな。まとまった数作って、それを元に量産しておく」


「ありがとうございます。試しに缶詰開けてもいいです?」


「おう、やってみな」


 オレンジの缶詰とガラスの器を用意し、いざ開封! 缶の縁への引っかかり良し、切り進み良し。

 きこきこと切り進み、無事開封できた。


「切れ味スムーズです。完璧です! ありがとうございます」


 ガラスの器に盛ったオレンジの蜜漬けを差し出し、トールマンさんへお礼を。オレンジの果肉をひょいとつまんだトールマンさん、目を丸くしもうひとつまみ。


「このオレンジの蜜漬けと言ったか、こりゃ美味いな。丸ままのオレンジより美味いんじゃないか?」


「缶が傷まなければ2〜3年は食べられますので、オレンジアヴィルの特産品として缶詰が流行るかもしれないですね」


 しきりに頷きながらもオレンジをつまむ手が止まらないトールマンさん。甘党で左党……。

 持ってきていた缶詰はぜんぶお土産として差し上げて、鍛冶ギルドを後にした。




 錬金ギルドに戻り、ギルドマスターのセレスティーヌさんに面会。


「こんにちは、製薬プラントはどうですか?」


「やあ、レーカ嬢。どちらのプラントも順調に製造中だよ。ただ、保管場所の事もあるし消費期限、といったか、生産量はある程度考えておかんとだめだねえ」


「そうなんですよね。いま保存食料の方でもいろいろ考えてたんですが、テラシオンだけで消費するならそれほど数作らなくてもよくって。

 お薬も保存食料も、最低でも数年は猶予があるのでそんなに切羽詰まってはないですが、他の街とかへの流通に乗せることもそろそろ考えておいた方がいいかなって思いました。

 あと、これ差し入れです」


 輪切りオレンジと粒オレンジ、マーマレードを2個ずつと缶切りを手渡す。


「なんとも可愛らしいイラストじゃない、これが中に入ってる、という事だね」


 輪切りオレンジ缶を開けてみせる。


「っと、こんな風に開けます。開けるまでは2〜3年保管できます」


 器に盛った輪切りオレンジをつまんで口に放り込むセレスティーヌさん。


「皮ごと、ってのがちょっとどうかと思ったが、ほろ苦くて美味しいね、これはこのまま食べるだけかい?」


「いえ、パウンド生地に乗せて焼き込んだり、チョコに合わせてお菓子の材料にも使えます」


「ちょこ、ってのもお菓子なのかい?」


「お菓子なんですけど、このあたりでは見かけないですか?」


「聞いたことないねえ、あるかい?」「聞いたことないにゃ」ないかぁ〜。


「じゃあ、こんど試作してきますね。ほろ苦くてとっても甘くて美味しいですよ」


 スイーツ関連はどんどん広めましょうね。


「そして、オレンジでジャムを作ってきました。マーマレードと言います」


 またバゲットをスライスして、マーマレードを盛りつけてお皿に。お茶を含んで口の中をすっきりさせたセレスティーヌさんがバゲットにかじりつく。


「これはいいね。爽やかさとオレンジの風味、ちょっとの苦みが楽しい味わいだ」


「このオレンジマーマレード、アスコルビン酸を添加する事も可能です。味も変わらず、生のオレンジを食べるのと同じようにアスコルビン酸を摂取できます」


「そりゃいい。どうしても子供達は薬を飲みたがらないからね。普段の食事に、しかもこんなに甘くて美味しいもの食べるだけで壊血病スカービーの予防が出来るんなら願ってもないよ。このマーマレードの量産も計画しておくれ」


「分かりました。商業ギルドのフレデリックさんからオレンジアヴィルの特産品を開発したいと言われてるので、いっしょにマーマレードも売り込んでおきます」


「ああ、フレデリックはオレンジアヴィルの出だったね、そりゃイヤとは言わんだろう」


「ええ、言わせませんとも。それで、明日の午後から、フレデリックさんとハインリヒさん、鍛冶ギルドのトールマンさんとで保存食料のお披露目会をするんですが、セレスティーヌさんもいらっしゃいますか?


「明日は空いてるから顔出させてもらうよ。また美味いもん食べれるんだろ?」


「乞うご期待、です」





「このぱうち、一つが一食分ですか、なんとも軽い……」


「ああ、本当に粉末なんだねえ、このマカロニは湯で戻るのかい?」


「はい、お湯は沢山準備していますので、カップにパウチの中身を全部入れ、お湯は八分目くらい、お湯を入れたらゆっくり30数えるくらいの間、スプーンでしっかり混ぜてください。

 そのあと、ゆっくり150数えるくらい、もしくはマカロニが柔らかくなったら食べられます」


 応接室では狭いと言うことで、錬金ギルドのギルド長室をお借りしての試食会。商業ギルドのフレデリックさん、ハインリヒさんはパウチの軽さに驚き、セレスティーヌさんは粉末スープに興味津々。トールマンさんはチーズ味とトマト味を一心不乱に食べ比べ。


「試作品と言うことでトマトとチーズの味で作りましたけど、ほうれん草とかキノコ、エビ、クラムチャウダー等々、スープならどんな味でも作れます」


「干し肉とパン、それにこのマカロニスープがあれば、野営の食事は十分事足りるでしょう。レーカ様、私の想像の遙かに上を行く常備食料です。ありがとうございます」


 フリーズドライというモノがどんなものかは分かってもらえたね。忌避感もないようだし、いろいろ作っていこう。



「では次に、オレンジアヴィル特産のオレンジを使って缶詰を作ってみました」


 そういい、応接テーブルへ2種類の缶詰を積み上げる。


「缶詰はご覧の通り、完全に密封した金属の缶に食品を入れたものです。缶に不具合がない限り、およそ2~3年は安全になかの食品を食べることが出来ます。

 ただ、缶を空けるのに特殊な道具が必要です。それがこの、トールマンさんに作っていただいた缶切りです」


 ポケットから缶切りを取り出し皆の前に付き出す。と言っても、手のひらサイズの金属製の棒、にしか見えないよね。わかる。


 フレデリックさんとハインリヒさんに缶詰を渡し、隅々まで見聞してもらう。缶を叩いたり振ったり、中身がこぼれないことを確認してもらう。


「では、空けましょうか。缶切りのこのフックを、缶詰のヘリに引っかけて……」


 缶切りをしっかり握り、くいっと倒す。刃が缶蓋に食い込む。皆のおぉ……という声がなんとも面白い。


「缶切りを戻し、ずらし、さらに倒す。この繰り返しで、缶蓋を切り開きます」


 きこきこと缶を空けていく。ぐるっと周り、丸く蓋が取れた。ガラスの器にオレンジの果肉をざっと空ける。


「さあ、どうぞ。召し上がれ」


 缶詰自体の珍しさもそうだけど、シロップ漬けの美味しさにも驚くがいい!


「これがオレンジアヴィルのオレンジから……」フレデリックさんは故郷のオレンジを感慨深げに味わっている。


「レーカさん、私も缶を空けてみたいのですが、よろしいですか?」ハインリヒさんがワクワクした目で言ってくる。


「はい、ぜひ試してください」


 輪切りオレンジの缶詰といっしょに缶切りを手渡す。最初の一回目は恐る恐るだったけど、二回三回と進めればもうコツがつかめたようで、難なく缶が空く。


「この器にどうぞ」手渡した器に缶の中身を空けるハインリヒさん。


「こちらは皮のままに輪切りにしたものですか」


「はい、そのまま食べても、パウンドケーキに焼き込んでも美味しいです。また、テラシオンでは知られていない様ですが、チョコレートというお菓子の材料にもなります」


「チョコレート、南方の大陸で飲み物として利用されているナッツから作られる菓子でしたか、たしか」ハインリヒさんがフレデリックさんに聞くと、フレデリックさんは確かそうですと首肯。やっぱり暖かい地方になら有るか。有るなら使っても大丈夫だね。


「それからもう一つ、これも保存食の一種なのですが、オレンジでマーマレードというジャムを作ってみました」


 バゲットにマーマレードを塗りつけて大皿に並べる。オレンジの皮を食べる、と言うのがちょっと驚きみたいだけど、食べたらオレンジの香りと微かな苦み、爽やかな甘さで好評に受け入れられた。


「このマーマレード、アスコルビン酸を加えて作ることが出来、食べるだけで壊血病スカービーの予防に繋がるらしいんだ。味も良いし子供に食べさせたいと考えているよ」セレスティーヌさんが言う。お薬の作成に関わっている錬金ギルドが推奨してくれたら、テラシオンでマーマレードが流行るのもそう遠くないかもしれない。


 試食会は無事成功。フリーズドライのマカロニスープと2種類のオレンジ缶詰は商業ギルド主導で、アスコルビン酸添加のマーマレードは錬金ギルドの主導で製造していく事になった。


 プラントの場所も、製薬プラントとは別の場所をもらえることに。製品の搬出だけじゃなく、材料の搬入も必要だからね。馬車が渋滞しちゃうし。


「では、建設予定地の選定が終わるまでにあと何種類かマカロニスープの味を考えておきますね。

 それから、魚を使った缶詰もいくつか考えているのですが、生の状態だとやっぱり直接漁村で仕入れるしかないですよね」


「そうですね、やはり馬車で2日掛かるとなりますと、テラシオンで生魚は難しいと言わざるを得ません。将来的に、南のアズーラベイか東のエメラルドコーヴ、どちらかの漁村の近くにプラントを建設頂きそこで缶詰を作成、流通に乗せるというのが現実的ではないでしょうか」


 フレデリックさんの言うとおりなんだよね。流通網に載せやすくするための缶詰なんだし。やっぱり魚介類はもう少し先かな。具体的にはエドワード王にお目通り叶ってから。


「わかりました、それも含めて色々考えておきますね。

 あ、そうそう。水を作り出す方も問題無く出来たんですけど、水差しとか瓶とか、どんな入れ物がいいですか?」


 馬車で運ぶとなると、あまり華奢なモノじゃ不都合かなっておもって、確認。


「そうですね……。革袋の水入れですとか、木桶、小さな樽などはいかがでしょう?」


「あ、樽が良いかもしれないですね。小型の樽を一つ、用意頂ければそれに水を生む機構しくみを組み込みます」


「わかりました、後程運ばせて頂きます」





 細かな打ち合わせはまた後日、と言うことで今日は解散。ベロニカさんのお店へ行って今日はイノシシ肉とカブのシチュー。


「まーたなんか考え込んでるにゃ」


「ん〜。保存食の工場さ、最初に教会から貸してもらった小屋のある原っぱ、あそこに作って孤児院の子達にお手伝いお願い出来ないかなって思って」


「そーゆーことにゃ〜。孤児院の子達に仕事頼むのはいいにゃけど、あの原っぱ、春先と秋口に草刈って牛とか羊のエサにするにゃ」


「あ、じゃあでっかいプラント建ててちゃだめか」


「だめじゃにゃ〜けどアレにゃ」アレとは。


「じゃあ場所は別にしてもらって、孤児院の子達が通いやすい場所にさ。お仕事頼むのはいいと思うよね?」


「そうにゃ。レーカの作るプラントはずっと使い続けてく事になるにゃ。子供達ちっこい頃は掃除とかさせて、おっきくなってきたら荷運びとか頼めるにゃ。大人になってもそのままプラントで働くもよし、別の仕事してもよし。良いことづくめにゃ」


 そう、破壊しない限り永遠に稼働し続けるプラントになるから、働き口は半永久的に有続けるのよね。


 ギルド長の方々から寄せられた要請については、トールマンさんからの錆びない金属ステンレスのサンプルが欲しいという要望のように、大規模なプラントで大量生産するというのではないものも多く、机の上の山はそれなりに低くなってきている。


 それと反比例するように王都から教会のエドモンド師への問合せの手紙が増えているそうで。製薬プラントの地鎮祭で女神テラ様が降臨し『神々がレイカさんわたしを使徒とした』って宣言した事もあって強行手段には出られないと言うことだったけれど、尚のこと、そろそろ王都へ行かないとダメって事なんだろうなぁ……。


 保存食プラント作って、いろいろお菓子準備してから女神テラ様との女子会の時にちょっとご相談しよう。いきなり無礼打ちされたら困るし。




 保存食の試食会から8日、保存食プラント(というか食品プラント)の建設予定地が決まった。孤児院のある聖堂に一番近い城門から歩いて30分ほどの街道脇。これ一等地じゃないのかな……。区画を切ってもらった土地に隣接する街道部分は道幅を倍に広げてもらった。渋滞回避。


 保存食プラントについては、投入する材料とダイヤル操作による切替によって缶詰とフリーズドライのマカロニスープが作り分けられるようにした。缶詰やフリーズドライのマカロニスープのパッケージに書かれたイラストをそのまま流用したから、一度製品を見たことがあればすぐ分かる感じ。もちろん、今後の生産品によってはプラントを増設したり缶詰とフリーズドライ製品を明確に分ける必要も出てくると思う。一日でもはやくそんな要望が出てきたらいいな、なんて思いながらしゃがみ、念じ地面からプラントを生やします。


「缶詰およびフリーズドライ製品の製造プラント、建設!」


 製薬プラントよりちょっと大きいかな……。材料搬入庫が右に、中央にプラント、左に製品保管・搬出庫。うん、たぶん製薬プラント2つ併せたのと同じくらい大きいや。

 ……将来的には魚介系の缶詰とかレトルト食品も作りたいな~なんて考えながら建設したからかなこれ……。


 商業ギルドのフレデリックさん曰く、オレンジの缶詰を王都で大々的に売り出し、ゆくゆくはオレンジアヴィルに缶詰工場を建設、缶詰を直接出荷するのが目標だって。

 ブランドの認知、生産プロセスの効率化と雇用創出・経済の活性化、直接出荷による流通コストの削減。この人も転生チート持ってるんじゃないの……?


 生まれ故郷の事を話すとき、普段の慇懃なダンディぽさが消えて話にも熱が籠もる感じ、やり手の商人さんってよりも熱いオトコって感じがして、なんだかカッコイイおじさまです、フレデリックさん。


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