稼働開始編
第5話 マカロニとオリーブと女神の降臨
アーシャレント界に転移してから10日目。気がついたらあっという間に経っていた。
ニワトリを目覚ましに日の出と共に起き出し朝の礼拝を終わらせると錬金ギルドへ。いちばん小さい商談スペースを貸してもらい、今は要望の束とにらめっこの日々である。
各ギルドに、規模の大小は問わずテラシオンおよび近郊での問題点、解決すべき課題などを寄せてもらった。お陰で書き物机の上は書類がうずたかく積み上がっている。
それと並行してテラシオンの街を、裏路地の一本まで網羅する勢いで歩き回った。土地勘のあるサラに大いに助けられ(そしてその戦闘力にも)、怪我することなく街の雰囲気と大凡の地理は把握できた。と思う。
夕暮れと共にシチュー屋さん(ベロニカのほっこりシチュー亭!)へ行き、日替わりシチューを堪能し、時に風呂を浴びに行き、夜が更けるまで界の本を読みあさった。
書き物机の上の山と界の本の記述を比較し、優先順位を考える。これがベッドに入ってからの最近の日課。
書き物机と応接セット4脚でほぼいっぱいの商談スペースに、わたしとサラ、そして今日は商業ギルドの長、フレデリックさんといつもお世話になってるハインリヒさんがいらしている。
「レーカ様、サラ様。今日はお時間を頂きありがとうございます。遅くなりましたが、商業ギルドとしての要望を携えて参りました」
フレデリックさんはいつもと変わらない口調で羊皮紙を1枚差し出してきた。
「拝見します」
受け取りまじまじと。書かれていたのは2行だけ。
・長期間保存が可能、嵩張らず軽く腐敗せず栄養価の高い食糧
・魔術の素養がなくても利用可能で安価な飲料水
ふむ……。これはアレかなぁ……。
「大規模な交易を始められる、もしくは再び厄災が訪れる事を想定した備蓄食料でしょうか」
フレデリックさん、とても良い笑顔で頷く。
「はい、そのどちらも考えての要望となります。レーカ様の権能ではどの様なモノでも作成することが出来ると聞き、商業ギルドの中でも交易に向いた品を作成頂けば、などと安直な事を言い出す者もおったのですが、それでは面白くありませんでしょう。我々は商人としての自尊を忘れてはならないのです。
現状、我々が手にすることが出来る保存食は干物、燻製、塩漬け、酢漬けです。どの保存食も、冷暗所での保存であれば数ヶ月保ちますが、商隊が馬車で運ぶ、となるとその可食期間はせいぜい数週間となります。もちろん、沿道の街や集落での商売の折りに仕入はしますが、購入金額や運搬に要する荷台を考えますと、先の要望となるのです。
また、水につきましても、魔素鉱石を元に水を生成できるようなカラクリがありますと水を操れる魔術師を雇う必要がなくなりますので」
皆まで言わず、みたいな感じ。でもまぁそうよね。どんなものでも大量に仕入れれば安価になるし、商隊が街道沿いの街で食料買うとなれば足元見られちゃうだろうし。水の心配が無くなれば魔術師の給料も魔術師の食料も不要になる。
「たしかにその通りですね。保存できる食料と飲料水。商人さんや備蓄食料としてだけでなく、冒険者さんにも喜ばれるでしょうし、ルミナリア王国で採用されたら、自国のみならず他国への救援物資にも役立つでしょう。
これは遠い先の話かもしれないですが、別大陸への交易まで見すえることも可能になりそうです」
界の本には、テラディオス大陸の他に2つ、大陸の存在が記されている。ただ、潮流が複雑なのと距離の問題から、帆船での渡航はちょっと難しいそう。なので、まずはテラディオス大陸内での交易から、かなぁと。
テラシオンがあるテラディオス大陸の南西地方はルミナリア王国と言われ、賢王エドワード・アルタリオン様が統治なされている。
わたしも近い将来王都へ招かれるとは言われてる。使徒だししゃーない。
「保存食と一口に言ってもいろいろな特徴があります。金属製の容器に入り、容器から出すとそのまま食べることが出来る『缶詰』、特殊な加工を施し乾燥させた『
二つの特徴を比較するとこうなります。
嵩張るし重いけれど、そのまま食べられる『缶詰』。保存期間はおよそ2年から3年ほどです。
軽いし嵩張らないけど、一手間必要な『
どちらも試しに作ってみましょうか?」
「レーカ様の界では、それぞれどの様な食品が作られていたのですか?」
「そうですねぇ、缶詰は魚や肉を味付けして煮たもの、果物の蜜漬け、野菜の水煮、スープなどです。主食自体の缶詰もありましたが、アーシャレント界では存在しない穀物の様なので向いてないかもです。
「マカロニってあれにゃ、小麦を練って小さくちぎって茹でたやつにゃ。クニクニしてて美味いにゃ!」あるのか、久しぶりに食べたいな。
「あるなら大丈夫ですね、きっとお口に合うと思います」
フレデリックさんが唸りだした。ハインリヒさんもなにやら腕組みし考え込んでる。……これはあれか、保存期間が長いから商材としての魅力にやられたな……。
お茶を淹れてきて、とっておきのクッキーをお茶請けに出して、一息ついたらフレデリックさんが口を開いた。
「レーカ様、果物の蜜漬けの缶詰と、マカロニスープのフリーズドライ。こちら2点につきまして、試作品の作成をお願い出来ますでしょうか。
マカロニのスープにつきましては、軽く嵩張らずという利点を鑑み、商隊の常備食料として扱いたく存じます。
果物の蜜漬けの缶詰ですが、先程の尊大な物言いを謝罪いたします。こちら商材として扱いたく存じます。テラシオンの西にありますオレンジアヴィル、こちら名前の由来にもなっておりますオレンジの産地で、私の出身地でもあります。こちらのオレンジを、ぜひ蜜漬けの缶詰として商品化したく、何卒お力添えを頂けませんか」
深々と頭を下げてくるフレデリックさん。オレンジの缶詰って言ったらスライスしたやつだね、あれも美味しいから好き。みかんの缶詰みたいにむき身でも作れるかな?
「わかりました。両方の試作品をお作りしますね。明日はセレスティーヌさんから依頼された医薬品作成用のプラントを建設しますので、それ以降で……、3日ほど頂けたら、試作品をお渡しできると思います。それと、缶詰とフリーズドライがどんなものか知って頂いて、さらに色々な商品を開発していければと思いますので、これからもご協力頂きたいです」
その後、原料の手配(小麦粉、トマト、チーズ、牛乳、オレンジ)をお願いしてしっかり握手。
錬金ギルドのセレスティーヌさんとも色々話し合い、これまでアーシャレント界に存在しなかった薬物を製造するプラントは魔素のみで、食品などを製造するプラントは可能な限り原料を用いることにした。魔素のみのプラントについても、結晶化した魔素を用いることを原則として。
魔素だけでもいいって
もちろん、どちらのプラントもわたしの任意で魔素の自動吸収方式でも稼働できる。非常事態がくるかもしれないから。来るかな?
その日の午後はサラと一緒にプラント建設に用意された野っ原へ。境界線代わりに杭を打ってもらい、内側はざっと草刈り済み。製品の搬出用に馬車が通れる道も造成済み。
1ヘクタールって結構広いかなと思ってたけど、こうしてみるとそれほどでもなかったね。向こう端ちゃんと見えるし。
正規版のプラントは「原料を投入し続ける限り自動で製造しパッケージングまで行う」、「可搬できないサイズで作る」、「管理小屋をつくり、プラントの稼働中は管理人を常駐させる」、「警報装置を設置、非常時は停止する」ことにした。
元の世界ほど厳密な運用は必要ないけど、不届き者や緊急事態は防ぎようがないからね……。
「いよいよ本格的に使徒様の本領発揮にゃ~」お気楽デカネコが目を細め風の匂いをクンクンしてる。
「アーシャレントに来て10日、あっと言う間だわ」
「お薬プラント作ってすぐ保存食プラントにゃ。休みにゃーって言ってるにゃー」
「明日製薬プラント作って、明後日お休みにするから。作っちゃえばあとはすることないし」サラ曰くわたしは働き過ぎらしい。前世とは違って疲れるほど働いてはいないんだけどね。
「しゃーないからそれで許してやるにゃ」従僕さまからお許しがでた。
「でも今日はもうお仕事終わりにゃ。風呂行って蒸気浴にゃ〜」またがしっと掴み上げられそのまま運ばれる。これじゃ拉致だよ……。
明けて本日は製薬プラントを二つ、アスコルビン酸とテトラサイクリン系抗生物質の製造プラントを建設する日。建設用地を貫く馬車道に面して魔素結晶の搬入施設と製品の搬出場を作り、その奥に縦横10メートル、高さ5メートルのプラントを建設する予定。地面には大まかに区画通りの線を引いてもらっている。
お昼からのセレモニーの準備をすべく、朝ご飯の後から建設用地に来ている。
「じちんさいとしょくじゅしき」サラが首をかしげている。
「地鎮祭は建物を建設する時に、神様に工事の安全を祈願するの。植樹式は建物の近くに木を植えて、繁栄と発展を祈願する式典」ホントの地鎮祭とまではいかないけどね。気分として。
二つのプラントの丁度真ん中あたり天幕が張ってある。その下へ盛砂をする。そしてプラントの敷地、搬出場脇に1本ずつオリーブの苗木を用意し、植える用の穴をサラがただいま掘削中なのである。すんごいの。わっさわっさと土が舞い秒で完了。あとは鍬とか柄の長いシャベルを用意して、準備は完了。
「誰々来るにゃ?」
「全部のギルド長とエドモンド師とハインリヒさん。あとは実際にプラント動かすときに就いてもらう人達かな」
「間違いなく
「来ないわけないよね」
「はい、来ちゃいました」噂をすれば影がさす。しれっとサラの隣に
「こんにちは、
「はい、こんなに早く稼働開始だなんて、レイカさんにお願いしたのは間違いではなかったと思っていますよ」
「まぁ、意地の悪い。でももうどちらのプラントも同じく扱える権能になってますよ?」
また初耳案件です。工場施設だけじゃなく本当の草木も思うさまってことですか。植樹のオリーブの木、植えた瞬間いきなり大木になったりして。でも今後、畑とかも改善しなくちゃだし、ありがたいかも。
そんなこんなの四方山話をしていると、三々五々集まってきた皆さまがわたし達の3人目にいぶかしげな目を向け、神気に当てられひざまずき、
「さて、皆さん落ち着かれましたか? そろそろ地鎮祭を始めたいと思います」
皆さんを天幕へ誘導し、わたしとサラ、
「この地鎮祭は、わたしの国で重要な施設を建築する際に、大地の神へ工事の安全を祈願する式典です。そして、わたしをアーシャレント界へ遣わせたのは大地と草木の神、
ふふふ、聞いてないことばっかり増えてるから意趣返しですよ。
「アーシャレント界を厄災が襲い、そして皆が今厄災の傷跡から必死に立ち上がろうとしている事、大変嬉しく思います。
こちらに居るレイカさんも、おなじ厄災により界を渡って参りました。彼女の界の文化、文明、知識。そのすべてを、アーシャレント界の復興に捧げると、そう言ってくれた彼女の志に、神々は様々な権能を授け使徒といたしました。
今日、ここに建設される製薬プラントも、そして次に予定されている保存食の生成プラントも、レイカさんの知識に依るものです。これからもレイカさんがその知識と権能を存分に発揮できるよう、皆には助力をお願いいたします」
意趣返しを返された。
このあと、セレスティーヌさんとエドモンド師が鍬入れを行った。ホントはね、鎌入れ鍬入れ鋤入れとやりたいんだけど、そしたら祝詞はどうするとかなっちゃうからね。大地と草木の神から有難いお言葉頂けたし、気は心ってやつで。
「それでは、プラントを建設します。危ないのでこの区切り線の外に出ててください。……アスコルビン酸生成プラント、建設!」諸元はもう頭の中にたたき込んである。しゃがんで地面に付けた手のひらがまばゆく光り、2つの倉庫と管理小屋付きのプラントがにょきにょきと生えてくる。
8つのタンクとそれを取り巻く太く細い無数のパイプ。
「つぎにこっちで」となりの敷地へ。
「こちらはテトラサイクリン系抗生物質の生成プラント、建設!」おなじくしゃがんだ手のひらが光り、倉庫と管理小屋付きのプラントが生えてくる。
こっちは全体の半分を四角いコンクリートの建物が占め、残りは3つのタンクとパイプで埋め尽くされている。発疹チフスに有効とされるテトラサイクリン系の抗生物質が、1時間あたり600錠生産される。もちろんこっちも紙箱でダンボール梱包。
額の汗を拭う仕草をし一息つく。その間にサラが敷地の角に掘っておいた穴にオリーブの苗木を植え込んでくれている。……触れて念じたらにょきにょき育つ気がしてならない……。
ギルド長のみなさんが呆けた顔でプラントを眺めてる。まぁこんなもん生やす魔術なんかないですよね……。
セレスティーヌさんとエドモンド師の元へ行き、これからの相談を。
「これであとは魔素結晶をプラントに流し込んでくれれば、全自動で梱包済みのお薬が搬出場に積まれるので、適宜馬車で運び出して頂ければ。
万が一故障とか破壊されたら、すぐに止まってあそこの赤色灯とサイレンがなるので、管理小屋には交代で誰か詰めているようにしてください」
「わかった。本格稼働は明日からにするよ。あんたはこの後どうするんだい?」
「最近働き過ぎだってサラがうるさいのでこの後から明日はお休みにしてのんびりします。
明後日は商業ギルドのフレデリックさんに頼まれた保存食の試作品でもつくろうかと思ってます」
「そうでございますか、あまり無理はなさらず、我が教会でお手伝い出来ることありますれば何なりとお申し付けくだされ」
「はい、ありがとうございます、エドモンド師。いつも助けられてばっかりです」
1ヘクタールある用地の1/3ほどが二つのプラントで埋まった。やっぱり1ヘクタールって意外と狭いね。ここの用地は製薬系プラントにして、食品系のプラントはまた別の場所に作った方がいいかな? 流通の問題もあるし、食品プラントは魔素結晶だけじゃなく原料の搬入も必要だから馬車道2系統作りたいし。
まだまだ考えてかなきゃならないことばかりだなぁ……。
なんて考えてたらまたサラに後ろから捕獲された。
「今日はもうしまいにゃ! このままお風呂屋行って今日はマッサージにゃ~」
そのままお風呂屋さんへ担ぎ込まれ、上から下まで洗われ、マッサージルームへ搬入された。
じっくり暖まった身体に、じんわりと力を込められ、揉みほぐされる。ここは天国だろうか……。
身体に塗り込まれる香油と、焚き込められた香草の香りが心のコリもほぐしてくれるような。隣のベッドでは私と同じく揉みほぐされたサラが弛緩しきっていた。
心地よすぎてウトウトしてしまったらしく、サラに揺り起こされた。小一時間ほど寝ちゃってたらしい。
香油をざっと流し、もう一度浴槽で身体を温めてお風呂屋を後にした。
「マッサージもなかなかのモンにゃろ~?」陶器のカップに入った果実水を飲みながらサラが言う。
「あれは天上のここちよさだわ……」この果実水、缶ジュースにしたら売れるんじゃないかな。リンゴとマンゴーの中間的な味。
「あのマッサージは女性のみのサービスにゃ。女子だけが知る快楽にゃ」
「なんと素晴らしい……」
「汗が引いたら晩ご飯にゃ。今日はちょっと違うもの食べに行くにゃ」
「違うもの?」
「マカロニかラザニアか、どっち食べるにゃ?」
「おおお、どっちもいいなぁ。ん~、今日はラザニアな気分!」
「それじゃラザニア食べに行くにゃ~」
お風呂屋さんから南へ5分ほど、街の中心から2本ほど裏路地に入ったあたり、パン屋さんとお惣菜屋さんに挟まれたお店、ラザニアの楽園へ。……楽園……。
「いらっしゃいませ。おや、サラさん、お久しぶりです。空いてる席へどうぞ」口ひげが素敵なマスターさんがバリトンボイスでお出迎え。
「おひさしにゃ~」こっちは相変わらず。でもホントにサラって交友関係広いなぁ……。
壁際の二人がけテーブルに座り、窓から見える通りを眺める。生活道路という趣。子供の手を引いたお母さんがカゴを抱えて通り過ぎる。
「ようこそいらっしゃいませ。当店店主のジョヴァンニです。本日はミートソースとチーズソースのご用意があります」
「チーズソースにゃ~」「じゃあミートソースでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
待つことしばし、焦げ目が美味しそうなラザニアが取り分けられテーブルに運ばれてきた。チーズの焼ける良い香りにお腹が鳴る。
「熱いのでお気を付けて。水はご自由にどうぞ」と、水差しを置いてジョヴァンニさん。
サラと一緒に食前の感謝を捧げ、スプーンを入れる。
「あっつい! けど美味しい~!」
「そうにゃ~。ここのラザニアは抜群に美味いにゃ!」こちらも満面の笑みでラザニアを口に運んでいる。……猫舌じゃないんだよなぁ……。
「レーカ、チーズ味もオイシイにゃ、ほれ」お皿をこちらに寄せてくれる。お裾分けならこちらもね。お返しにお皿を送る。
「じゃぁこっちもどうぞ、美味しいよ」
「頂きにゃ~ おおお、ミートソース、コク深いにゃ……」じっくり味わってるサラの真面目くさった顔が面白くて吹き出しそうになる。そしてチーズ味のラザニアを一匙。
「ほぁ~、チーズもいいねぇ……。ていうかチーズ美味しい!」
テラシオンのお店、どこも美味しいお店ばっかり!
「テラシオンのお店、どこも美味しいお店ばっかり!」
「そりゃそうにゃ、今まで美味い店しか連れてってないにゃ~」なんと……出来る従僕さんは違うね!
「これはアレだね、もっと時間作って食べ歩きしないとだね」
「そうにゃ、レーカはちみっこいのに働き過ぎにゃ。もっと遊ばないとロクな大人にならんにゃ」
「ちみっこくないです~。けど、サラの言うとおりだわ。もっと遊ばないとね」
そんなたわいもない話をしつつ、ラザニア完食。ここは通って全部の味を堪能せねばなりません。使命として。
「そういえばサラってお酒飲まないね、飲まない人?」サラとならんで修道院へ戻る道すがら、ふと思って聞いてみた。
「ん? お酒は飲めるにゃ、好きにゃ。でもお酒飲むのが好きな訳じゃないにゃ」
「?? どゆこと?」
「ん~~? んーと、友達と美味しいお酒飲んで馬鹿話するのは好きにゃ。一人で静かに美味しいご飯と一緒にお酒飲むのも好きにゃ。でもお酒飲むこと自体はどっちでもいいにゃ」
「ん~。あ~、あれかな、楽しく飲むお酒とか、美味しいものと一緒に飲むとか、お酒を楽しむのが好きで、お酒を飲むためにお酒を飲む事はしないってこと?」
「たぶんそういう事にゃ」
「そっか。わたしのことは置いといて飲みに行ってもいいんだよ?」わたしの従僕さんはどうにも過保護でいかん。
「おいとくのは置いといて、逆にレーカと飲むなら飲みたいにゃ」
「わたしってアーシャレント的にはもう飲める年齢なの?」16歳か17歳か、そんなもんだよねこの肉体の年齢。
「そもそもワインもビールも水代わりにゃ。ちみっこには水で薄めて飲ませるもんにゃ」
「じゃあわたしはちみっこじゃないから薄めなくてもいいね!」
「言ったにゃ~? じゃぁ、なんかツマミ買ってきて部屋で飲むにゃ!」
そういう事になったので屋台の出てる通りへ足を向ける。屋台を端からのぞいて歩き、串焼きやチーズ、腸詰めとカットフルーツなど買い込む。
主役のお酒は酒場でワインを革袋に入れてもらった。さすがにブランデーの原液なんか飲めたもんじゃないからね。いや、やろうと思えば急須からででも30年モノブランデー湧き出させることできるけど。
……やっちゃう? わたしたちだけで楽しむ分ならいいのか……?
「じゃー、かんぱいにゃ~」
部屋に戻って杯を交わす。修道院の中で酒盛りとか大丈夫なのかなぁ……。
「そもそもレーカは元の界でお酒飲んでたにゃ?」
「毎日じゃないけど、お酒飲むのは好きだったよ」ちょっと渋めだけど強めの果実感とほんのりスパイシーな味わいの赤ワイン。美味しい。
ほぐしてお皿に盛った串焼きと腸詰め、チーズにフルーツと、豪華な宴は真夜中まで続いた。
サラの子供の頃の話とか(お転婆なんて言葉じゃ言い表せないほどヤンチャだったぽい)、初めて受けた魔獣の討伐依頼で危うく死にかけた話とか(左脇腹の傷跡はその時のモノらしい)。
わたしも前の界での生活とか(部屋いっぱいの観葉植物の話したら『そりゃ
「レーカの界はすごく細かい所まで区別するにゃ~。アーシャレントにもそういう心と体の違ってる奴たまに居るにゃ。性の対象も色々にゃ。
んで、そーゆー事を偏った見方する奴も、まぁいるにゃ。誰もが同じじゃない、って事がわからん連中は、どーしてもどうにもならんにゃ。
昔、討伐依頼で一緒になった剣士は身体は女だったけど鍛錬重ねて並の男じゃ太刀打ち出来ないほどの剣豪だったにゃ。アイツは自分の腕で、周りをねじ伏せたにゃ。アイツの事を『女のクセに』なんて言う奴は一人も居なかったにゃ」
「うん、ありがと……」
「レーカは使徒様だから多分死なんし、アタイも
それに孤児院の子供達の面倒見てたら寂しいなんて言ってるヒマにゃーにゃ」にんまり笑うほろ酔いのデカネコは、世話好きで子供好きな世界一の従僕さん。
という所くらいまでの記憶はあるのだけれど、そこからどうして二人とも肌着でわたしがデカネコの抱き枕になってるのかがさっぱり分かりません。
目が覚めたらサラのベッドの中で抱き枕。どうしてこうなった……。
ただ……、テーブルの上に見慣れないカットガラスの水差し(ブランデーの良い香り付き)があるので、おそらくやらかしたのはわたしです。誰も責められない……!
結局抱き枕から解放されたのはサラが目覚めたお昼過ぎでした……。
お酒はほどほどに。
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