こりゃ参った・ざ・ろっく!

かれこれ12分経ったころ、ついに彼女、いや、女神様が姿を現した。

まぁ、今見えているのは服の裾だけなんだが…。

なぜ12分経ったのにも関わらず服の裾しか見えていないのかという状態になったのか、経緯を説明するのが最優先か。

あー、確かに、女神様はクソデカ椅子を180度回転させ、こちら側を向ける位置を獲得した。後は本人が前に来て、椅子に座ればそれで解決なのだ。

が、本人が椅子の後ろから出てこない。それで、この状態が出来てしまっているというわけだ。

裾が見えるので、どういう心情なのかもなんとなく分かる。

だって、


めっちゃ震えてますもん。


普段のように、棒立ちで立っていたとしても、風が吹いたとて裾は靡く程度だ。多少震えていたとしてもさほど揺れることはない。

例えるなら、極寒の寒さを帯びる冬に、スカートを履いて極力薄着で外に出てほしい。すると、その寒さに足が震えてくるだろう。極限まで薄着なので、寒いどころの話ではなくなり、震えが止まらなくなるはずだ。

その震えた状態で、スカートを見てもらいたい。

驚くほど裾の部分から寒すぎて尋常じゃないくらい震えていると分かる。

一度体験したらきっと分かるはずだ。


まぁそんな状態が目の前で起きていると考えてほしい。

だが、物語的思考で考えるとこんなところでグダグダやっていても仕方ないので、単刀直入に聞くことにした。

あ、優しく聞くことにした。

あのー…俺って死んだんでしょうか…?

という、普通の人間が言っていたら恐ろしく、近づきたくないクラスメートランキング上位入りしてしまいそうなダイレクトかつ直球な言葉が漏れた。


俺が声をかけた瞬間、少しビクッとなっていた。初めて出会った時に、こちらを警戒してなのか分からないが、ふるふると怯えているうさぎのような見た目であった。

やがてコ○ンのCMを跨ぐ際に出てくる扉のように重い口が開かれた。

「えっと、」

はい。

「あなたは…」

ついに明かされる俺はの死、不安だが、聞かなければこの先後悔するだけだ。

そう自分に思い込ませ、耳を澄ます。


「転移先にあった崖の下で、生きています」


と、告げられた。

ここから疑問に思う点は3つ

崖から落ちて生きているとはどういうことか。

生きているとすると、何故俺はこんな所にいるのか。

自転車はどうなったのか。


と言うよりも、崖の下というパワーワードが気になって仕方がない。

普通の人間が崖から落ちたなら、常識的に考えてまず死ぬはずである。

1メートルでも一命取る、という言葉を何処かで聞いた。駄洒落か?

しかし、この言葉は的確で、何処も間違ってなどいない。

仮に1メートルの所から落ちるとしよう。頭の中、つまり空想上での衝撃は軽く、へっちゃらだと思う人が大多数だ。

しかし、落ちた瞬間を思い出して欲しい。かなりの衝撃が足に伝わってくるはずだ。

それは何故か。


答えは簡単、重力だ。

人は誰しも地球に引っ張られて生活をしているため、特に疑問は抱かないが、時には疑問を抱くと何かしらのヒントになりうる。

身体にかかる重力は、体重によっても変わってくる。

例えば、体重50kgの人がいるとする。その人にかかる重力は、

50×9.8=490

よって、490ニュートンになる。

もちろん、1メートル落ちている間にも重力は加算される。


それが崖から落下したとするとどうだろうか。


莫大なエネルギー量を持った状態で落ちたなら、一発K.O.で人生終了のお知らせだ。


うーん、どうも腑に落ちないが、まぁ良しとしよう。


2つ目も考えるのが面倒くさかったので、まぁ異世界だから俺は生きてるんだな、という適当な結論で終わらせることにした。


3つ目は流石に自分じゃ分からないので女神様に質問しよう。

あのー、すいません。

ビクッ!という擬音が正に合いそうな表情と、ポーズを取った女神様。突如あたふたとし始め、あばばばばば、なんて言いながら椅子を周りを歩いている。なんか何処ぞの漫画雑誌にこんな感じの女子高生いなかったっけ。

確か、ピンクジャージのギター持ちで、顔面崩壊が多い人だったような。

まいいか。


あの、自転車ってどうなりましたかね…。

「えっ?あっ、あぁ!じっ、じじ、自転車ですね!あは、あはははははは!」

壊れた。壊れちゃいました。ますます陰キャっぷりが滲み出てきている。

というか、顔が溶けかかっている。スライムのおもちゃを缶の中から取り出した時の、あのだらんとした、骨が抜かれてしまったような見た目であった。また、汗が滝のように流れ、目の焦点がまるで合わない。

この女神様見てると既視感を覚えた。

米津玄師さんのKICK BACKという曲のMVで、途中プロテインを飲むようなシーンがあるのだが、その時の米津さんの目があちこちに向いていたのを思い出す。

既視感の正体は、あれだったのか。と、少しの優越感に浸っていた。

「じ、自転車ならぁ、え、えへへ、こ、ここ、ここにあります。あっ!いや、えと、綺麗に拭きましたよ…?うへ…うへへへへ…。」

いや、自分も驚いたね。まさか自転車じゃなくて女神様が壊れるなんて。

こういう場合を物語的に考えたら、主人公ポジのやつがおかしくなるか、クラス転移やらなんやらで複数名集められて、そのうちの一人か二人がおかしくなる、みたいなもんだろう。


まぁ、いいや。

というか、もう、どうでもいいや___。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る