合コンにやって来…………あん?
「どうも、はじめましてー!
俺――小野大志は今、合コンに参加していた。
ファミレスのグループ席を使い、ニ対三の男女が顔を合わせて座っている。現在、女子側の一人は遅刻だ。
事の発端は、憲武の開催する隣校の女子との合コンに参加する予定だった男子一人が土壇場で欠席し、残り一人の補充に思い悩んでいたところで彼が俺に目をつけた。
恋人無し。
常に暇人。
且つ大志。
その三条件が揃って俺が勧誘された。
俺も雫離れ云々は関係なく、一男子高校生として青い春とやらを満喫したいので、その
開催の三日前に俺は参加表明を出した。
そして、その合コンに参加したのだが……。
「憲武、顔色が悪いぞ」
「大丈夫だ。ちょっと頭の調子が悪いだけだ」
「腹じゃなくて? 頭はいつもだろ」
ううん、なぜだ。
憲武は声こそ盛り上げムードを作るべく大きく楽しげだが、顔色だけが蒼白く異常だ。来る前に何か悪い芋でも食べたのだろう。
相手の女子方も、そんな憲武に怪訝な顔で、もう一人の男子はさっきからキラキラした視線を虚空に投げている。
この合コン、初めから破滅的である。
遅刻中の女子がいない現状、選択肢が二つしか無いという状態になってしまった。誰か一人が溢れてしまう。
ここは先手必勝だ。
「じゃあ、大志! 次はおまえの自己紹介!」
「おう」
俺も立ち上がる。
どうやら、自分の番が来たらしい。
「どうも、俺は十六年前に生まれた小野大志。趣味は楽しいこと! どうぞよろしく!」
よし、こんなところでどうだろうか。
女子二人の反応を見ると微妙に笑っていた。
うむ、全く手応えが無い。
ネットで調べたら挨拶は相手が自分について聞きたくなる程度に情報を伏せつつ愛嬌を振り撒けとあった。
愛嬌って何だと思って調べたら愛媛県の河に架かってる橋だと言われたので諦め、ただの笑顔を振りまくことにした。
一人の女子はツーサイドアップで笑顔の可愛い
雫の学校はかわいい子ばかりなのか。
俺の高校には男子しかいないのに。
「君が噂の小野大志くんかー!」
唐突に、サイドテール女子の相森が俺の方を見てきた。
何だ、噂って。
「私、雫ちゃんの友だちなんだー」
「雫ちゃんって呼んでる人、初めてだな」
「そう。それが許されるくらいに親しいんだよね」
「へー」
雫をちゃん呼びできる人間が存在したとは。
正直、俺が前に雫ちゃんと呼んだら警戒して三日くらい距離を取られた。それを連続四回繰り返して二週間くらい疎遠になった。
この子、意外と凄いのかもしれない。
「それにしても、大志くん」
急に下の名前呼び。
ちょっと胸がメキッて言った。
「隣の憲武くんって二枚目の顔なのに合コンするって、カノジョいないのかな?」
「いつも失敗してるそうだぞ。あと、憲武は顔を貼り替えた事無いと思うから一枚目とか二枚目とか無いぞ」
「カッコいいって意味だよ?」
二枚目になるとカッコいい?
そうか、一皮剥けた顔が二枚目って意味か。じゃあ剥けば剥くほど美味しくなるリンゴと同じだな。
しかし、この子は随分とフレンドリーな子だな。
すっかり懐に入り込まれている。
ただ、花ちゃんの一件でグイグイ来る系の女の子は苦手なのだ。悪いが、どうやら選択肢は――――。
「凄い! 噂で聞いてたけど本物初めて見たよ、よろしくね小野さん!」
このツーサイドアップ女子。
俺はこの子を、攻略する!
「赤依さんだっけ。趣味は何だっけ?」
「私の自己紹介ちゃんと聞いてなかったのかーい! 軽音部だから趣味はギターだったり、ライブ観に行ったりとかね」
「俺、アコースティックギターしか弾けないから凄いな」
「へー、小野さんも弾けるんだ!」
そう。
中学生の頃の話である。
音楽の授業にて数人のグループを組み、各々が楽器を演奏して一曲仕上げるという課題の物だった。
当時の俺は綺丞や他二名の男子を即行で招集し、放課後は部活組だった二人を除いて綺丞と全力で練習に励んだ。
その結果、公開となる授業では拍手喝采どころか音楽の先生に小さいライブ会場紹介されたりするくらいに好評だった。
因みに、もう終わる頃には興味が失せていたし、綺丞とやるリバーシにハマっていたのでライブ会場で一回二人だけで演奏したくらいで行かなかった。
雫に腕前を見せたら、抱き締められて好きって言われるくらいには俺の奏でる音色は素晴らしいらしい。
『大志、家以外で弾かないでね』
『え、何で?』
『独り占めしたい』
『駄目だぞ。このギター、借り物なんだから。雫に聴かせたくて無理言ってお願いしたんだし……ワガママ言うな!』
『…………』
あの後、何故か演奏を褒めてくれた時の態度が逆転して呆れ果てた反応を見せた雫。
俺は何か間違えただろうか。
あの時、もしかして本気でギターを貰えると期待していたのだとしたら、未然に防げて良かったと心底思う。
雫を犯罪者にせずに済んだ。
しかし、ギターかぁ。
悪いが、今の俺にはもう弾けない。
だって。
「懐かしいぜ」
「じゃあ、今度ギター貸すからやってみせてよ」
「でも、もう二年以上も経つから無理だと思うよ」
「良いじゃん、良いじゃん! やってみよーよ!」
「無理なんだよなぁ」
興味の無い物はすぐに忘れる質だ。
指が勝手に動くくらいで、やり方を問われても分からない。そもそもアコースティックギターって何だ?
やや俺の物忘れで度々話が止まりつつも、そこから二人で音楽関連の話題で盛り上がった。
よく聴く曲や、彼女が行くライブの話など話題は尽きない。
これは好感触なのか?
「じゃあ、小野さん。後で連絡先交換ね」
「おっけー」
「あ、小野くん私もー」
「おいおい大志、そのくらいにしとけ」
横から急に肩を叩かれる。
蒼白い顔のまま笑っている憲武だった。何か肩に乗る手が震えてるし、あと力強い。
一体、どうしたというのだ。
俺が困惑していると、相森さんがスマホを見て一瞬だけあっという顔をすると、そそくさ席を立った。
「それじゃ、私は用事があるから先に帰るねー。はい、大志くんにはこれ、私の連絡先。あと、この事は今から来る人には内密にー」
まるで風のように相森梅雨は去っていった。
連絡先の記された紙を俺は手にしつつ小首を傾げる。
少し慌ててるようだったが、どうしたのだ。
「――ごめんなさい、おまたせしました」
ひっ、と隣で声が上がる。
よく見たら憲武の表情が強張っていた。
ずっと黙って放心状態だった男子の顔が光り輝き、声のした方へと振り返っている。
どうやら遅刻していた女子が来たらしい。
俺もそちらへ振り返――。
「遅れました、夜柳雫です。よろしくね」
………………………………何故だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます