第20話 女王レラ
クララが八歳になった時……王宮内で緊急事態が起きた。エンゼル・エンパイアで長年暮らしていた老舗レストランの店主であるおばあさんが病に倒れた、との連絡が入った。王宮に国民数人が駆けつけてきたのだ。彼女の体中にはあざのような斑点が出来てしまっている。
「す、すみません!この人が急に倒れて……」
皆慌てている様子だった。彼女は気さくな人柄で国民達に愛されている人であったが、ここ数年は体調不良が続いていたと言う。
すると扉の奥の方からレラが近寄り、彼女に寄り添い優しい声で励ました。
「大丈夫ですよ、すぐに治りますから」
レラは店主のおばあさんの頭にそっと手を置いて目を閉じる。手の先から丸い光が出現し、その光は彼女の斑点を一瞬で消し去った。
“ 女神の加護 “
これは治癒魔法のひとつであり、レラは癒しの力の持ち主だった。少し経つと、おばあさんは意識を取り戻し会話もできるまで回復した。
「あぁ…女王様、私などのためにありがとうございます。このご恩は一生忘れません…!」
「国民の幸せは私の幸せです。貴方は皆様から愛されているとお聞きしました。彼らのためにも、元気でいてくださいね」
おばあさんは王宮内にある個室のベッドで数週間休み、その後動けるくらい元気になって戻っていった。レラの横にいたガブリエルは、彼女にそっと微笑む。
「元気になって良かったですね。やはり女王様の癒しの力は素晴らしいです!」
「これは代々引き継がれてきた力です。それを絶やさないように、しっかりと繋げていきたいものです…」
レラは手を胸に当て、アンジェラス家に代々伝わる癒しの力を国のためにも引き継いでいきたい…とその思いを語る。そんな母親の背中を見てきた娘のクララにとってレラは憧れの存在であった。
「…おかあさまってすごい人だなぁ、わたしもあんな感じになれるのかなぁ」
クララは犬のぬいぐるみを抱きかかえ、そろりそろりと自分の部屋へ入っていく。
星型のクッションの上に座って大好きなお絵描きをしていた。クレヨンを使って、今日も自分の好きな虹のかかった空の絵を描いていた。描き終わると、母親の元へ走っていき自分で描いた絵を見せた。
「ねぇねぇおかさあま…見てください!わたし、お空の絵描いていました!」
「あらまぁ、本当に上手ですねクララは」
「えへへ♪」
レラに絵を褒められて、優しく頭を撫でられご機嫌なクララ。彼女はいつも部屋で絵を書いていたり、たまに外の小さなお庭で日向ぼっこをするなど裕福な生活を送っていた。
生活で困っていることはないのだが、レラが唯一心配に思っていること…それはいつも一人にさせてしまっていることだ。レラ自身も女王であるため一日中王宮の業務をこなしており、娘と会う時間もほとんどなかった。寂しい思いをしないようにぬいぐるみや絵の具をプレゼントしてあげている。
(あの子にはいつもいつも一人にさせてしまって……かなり寂しい思いをしているでしょうね…)
クララがいつものようにお庭で陽の光を浴びながら絵を描いている様子に外の廊下からレラは心配そうに見つめる。ずっとこのままで良いのだろうか。クララは王宮の外に出たことがないので仲の良い友達がいない。犬のぬいぐるみと時折り話しているくらいだ。
こうして夜になり疲れたのかすぐに眠りにつくクララ。レラはぐっすり眠る彼女の顔を見てまた明日も同じ思いをさせてしまうかもしれない…と不安そうになりながらも今日くらいは一緒にいてあげたいと彼女のベッドに入り一緒に寝る。
___
「お母様…いつも忙しそうにしていて…それなのに私が迷惑かけて…良くないことを……」
クララは後悔した。多忙の母親にあんな醜態を晒してしまったことを。彼女は幼い頃に描いた虹のかかった空の絵を見つめていると…
「あっ……!」
スッと起き上がりドレス姿のままドアを静かに開ける。ベッドにこもっていたせいかドレスは少ししわくちゃになってしまっていた。
「王女様、心配しましたよ!」
後ろから声が聞こえる。ユミリカとレーチェルだ。あの後からずっとクララのことを探していたらしい。二人に会ったクララは重い口を開き、彼女はこう言った。
「さっきはすみませんでした……あの、お母様は今どこにいますか?」
「女王様ならご自分の部屋に戻られましたよ。何かあるんですか?」
「ちょっと、話をしたくて…」
クララはレラともう一度話をしたいと言う。あれから色々と考えていた彼女であったが、自分の方から話をしたいと言ったのははじめてだった。ユミリカとレーチェルは顔を見合わせてしばらく考えた後、レラの部屋へとクララを連れて行った。
「お二人ともありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるクララは、レラのいる部屋へと入っていった。扉の前で待機していたレーチェルは先に戻ろうとするが、ユミリカに手を掴まれる。
「何よユミリカ」
「一旦聞いてみない?王女様が何を話すか」
「えぇ…盗み聞きなんて悪趣味ね」
「もう!いいから待って!」
嫌がる様子のレーチェルを半ば強引にその場に留めようとするユミリカ。仕方ないので二人でこっそり話を聞くことに。
女王であるレラの部屋は水色と白を基調とした豪華な部屋で、金色シャンデリアや宝石が輝くアクセサリー…広々としたクローゼット等といったとても一人の部屋とは思えないものだった。
「クララ、珍しいですね。どうしましたか」
「あの…お母様。さっき色々学ぶ必要があるって言ってましたよね…?」
「ええ、そうですね」
「私には一体何が足りないんでしょうか?」
レラの部屋に入ったクララは、ドアの前で話をしていたことについて聞いてみた。自分には何が足りないのか、それは自分自身でもよくわからなかった。
「貴方はずっとこの王宮の中で過ごしていました。でもこれから先このままでは良くないと思ったのです……実際寂しい思いをさせてしまっているのですからね…」
「い、いえ……とんでもないです!私は好きなことが出来て楽しかったですから…!」
娘にかなり寂しい思いをさせてしまっているとずっと自分の心の中で思ってたことを本人に伝えるレラ。一方クララは彼女が自分に気を遣っていたと思い込み、慌てた表情で退屈と思わずむしろ今まで楽しかったと言った。
するとレラは、クララがある人を話していたことに言及する。
「でも…楽しそうに話していましたよね、カヨさんと」
「!」
それは御伽の夜光団がこの国に訪れた日の夜、カヨと二人きりで会っていた時のことだった。レラはそれに気づいており、カヨを中に入れていたのだ。
「あれがきっかけで、貴方に何か良い変化があればいいなと思い彼女をもう少しだけ王宮内にいさせる許可をしました…どうでしたか?」
「…最初はドキドキしましたけど、話しやすい人でした!」
「うふふ、それは良かったです」
「み、見ていたんですね…」
クララは恥ずかしそうに笑う。そしてこの機会を活かしてレラはクララに改めて聞く。
「お母様…私はあの人達とうまくやっていけるのでしょうか」
「…と言うと?」
「私もたくさん世界を学んでみたい…みたいな」
「えっ!」
思わず声が出るユミリカとレーチェル。二人の声に驚いたレラとクララはドアを開ける。
「二人とも何しているんですか!?」
「いや、私じゃなくてユミリカが…」
「ほ…本当ですか王女様!?本当に…」
ユミリカはびっくりしておりクララの肩を揺さぶる。まさかの発言に腰を抜かした。
「王女様がついに〜〜」
「…うるさいわよあんた」
クララは御伽の夜光団に興味を示し一緒に世界を学んでみたいと皆に伝えたのだ。
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