第21話 七つの属性の精霊
「ボス、どうでしたか?」
「ああ…中止になったことについて謝ってたよ。ただ焦っている感じじゃなかったな。何でだろうか」
夜桜がジョージィに尋ねる。彼によると、あの後レラが来て式が中止になってしまったことをひたすら謝っていたと言う。そのことについては申し訳なさそうな顔をしていたのだが、彼女はそれ以外にも何かあったかのように口をパクパクさせていたらしい。
「変な感じだったな」
「女王様に何かあったのでしょうかね…」
「本当なら式が終わった後に王宮内のライブラリーに特別招待させてもらう予定だったんだがな。また一日予定が空いちまったな…参ったなこりゃ」
式が中止になったことにより予定が白紙になってしまった御伽の夜光団。暁はポケットに入れていたパスポートを確認する。
「あ、俺達の滞在期間あと二日しかないですよ」
「マジか〜」
「これが終わるとまた次の国へと行く予定なんですかね」
「そうだな、ここから降りて比較的最近作られた国ってところがあるからそこへ行くことにする」
ジョージィはエンゼル・エンパイアから出たあとのことも考えていた。御伽の夜光団は旅をしながら国を転々としている。
こうして予定が空いてた団員達は、自由時間を過ごすことになった。するとライはあるものが気になり王宮の隣にある花が咲く川岸へと歩いて行く。
「ホントこの国って綺麗だよな〜現実じゃないみたい」
そこはまるで妖精が住んでいるかのようなかわいい場所だった。花や草木から金色の妖精の粉がふわふわと舞う。…と奥から誰かがのぞいている。
「…!」
気配に気づくライ。後ろを振り返るとそこにはあの七つの属性の精霊が木の端からライのことをじっと見つめる。彼は精霊達が警戒しないように少しずつ近づく。
「こ、こんにちは〜」
ライは精霊達に小さい声で挨拶をする。その場から離れないので、彼らは別に警戒しているわけではなさそうだ。むしろライを誘導するかのように草むらの方へ飛んでいく。
「ついて来い…ってこと?」
ようやく理解したライは、王宮から離れた彼ら精霊達が住む庭園へとやって来た。ターコイズブルーの空に包まれた自然が綺麗なところだ。心の底からゆっくりと感動が押し寄せてきたライは、精霊達にその気持ちを伝えようとするが…
「あれ?」
振り返ると、彼らの姿はどこにもなかった。
「えっ…ちょっと、俺道わからないんだけど!?」
焦って無理矢理来た道を戻ろうとするライ。しかし思っているよりも遥かに広いこの地の中をあちこち行くのは危険だ。ライはすっかり道に迷ったと思っている。その時……
「おいおい、お前さん。こっちだぞ!」
ハキハキした青年の声が聞こえた。庭の真ん中に六人の人物が立っていた。ひとけがないこの庭園で人間を見たのははじめてだった。しかしよく見ると、先程の精霊達と色が似ている。
「何?そんなに見つめて」
「……え、まさか…!」
ライは気がついた。彼らは七つの属性の精霊の人間体であった。
「さっき会った精霊!?でもどうして人間の姿に…?」
「やった気づいたのか!遅いぜー」
最初に声をかけてきた褐色肌に赤髪の青年の名前はマグナス。見てわかる通り炎の精霊だ。テンションが高く、頭にバンダナを巻いている。マグナスはライに近づき、好意的な目で見つめてくる。
「俺はマグナス、お前は?」
「ライです!」
「おぉ、ライっていうのか!お前強いのか?」
「え!?いや…そんなことは……」
マグナスは初対面であるライにガツガツと絡みまくる。そんな彼を冷めた目で見る青髪の少女の姿が。
「もう…兄さんったら調子乗りすぎなんだから〜」
彼女はアクア。水色のツーピースに貝殻のネックレスをつけた水の精霊だ。マグナスは兄であり、彼のはしゃぎっぷりにいつも呆れている。
「そうつまんないこと言うなよ?なんだか他の奴らとは違う感じがしてさ、ワクワクしてただけだって!」
「そうじゃなくて!もっと用心しなさいって言ってるのよ!」
「アクアは本当に堅いなぁ」
マグナスとアクア兄妹の言い合いを後ろから傍観する二人。彼らも同じく七つの属性の精霊の一員である。
「…いつものやりとりですね。私達はあまり加担しない方が良いでしょう」
「どんな奴なのかよくわからないのに、むやみに関わらないとしようか」
キリッとした顔をした白い髪のおさげをした女性はウィンドで風の精霊。一方紫髪で黒いマントを羽織っている青年はストーム。雷の精霊だ。彼は腕を組んでウィンドにコソコソと話す。二人はマグナスとアクアと違って、他人に対して控えめな態度をとる。
「あの、どうして俺をここへ連れてきたんですか?」
「あなたって女王様から招待を受けた人でしょ?それが何で今は一人でいるの?」
「…まあその、ちょっと予定が変わっちゃって……」
「ふぅ〜ん…だから色々見て回ってここへ来たと…もう少し落ち着いて行動してみたらいいのに…兄さんみたいになるわよ?」
アクアは好奇心の強いライに軽く突き刺さる言葉を言った。彼は何も言い返せなかった。自分の所属している魔法組織に負けないくらい個性豊かでわちゃわちゃしている七つの属性の精霊。
…といきなりライの右隣に寄ってきて彼に何かを渡す黄緑髪ショートヘアの少年が。
「はいどうぞ!」
「…これは?」
「僕特製のアロマオイルです!癒し効果抜群ですよ〜」
彼はリーフ。自然を愛する地の精霊。ほんわかした雰囲気で緑と茶色といった木を連想させる衣装を着ている。にこやかな笑顔で自作のアロマオイルをライにプレゼントしてくれた。
「俺にくれるの?…ありがとう」
「どーぞどーぞ♪」
リーフは満足そうに気持ち良さそうに日に当たっている金髪の女の子の元へ行った。彼女はくるくる巻いてある長いツインテールで、モコモコしたポンチョと黄色いスカートが特徴。彼女は大の字で寝転んでいた。
「日向ぼっこは気持ちいいぞ〜〜」
女の子の名前はシャイン。キラキラした雰囲気の光の精霊だ。
自然が美しい場所で自由に過ごしている。本当に自由奔放だ。そんな彼らを見ていたライはそのあまりの個性の強さに戸惑っている。
(魔法使いって癖の強い人ばかり…外の世界ってこんなものなのか…?)
ここでライは思った。七つの属性の精霊は名前の通り全員で七体なはず。しかし今目の前にいるのは六人しかいない。おかしいなと思った彼は改めて指で数を数える。
「ん?待てよ…一、二、三、四、五、六…六人しかいないな。あと一人は?」
「彼を探しているの?明るいところが苦手らしいからね。夜になったら会えると思う!」
「明るいところが苦手?何か破皇邪族に似ているような…」
シャインがその最後の一体について話した。彼は日の当たるところが苦手らしく、普段は夜の時間のみ姿を現すと言う。それを聞いたライは自分自身の戦闘種族と似ていると感じた。果たして最後の一体はどんな姿なのか、とても気になっていた。
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