第15話 隠し部屋

 ミミとロロが眠りから目を覚まし、御伽の夜光団の団員達と再び合流する。皆は二階へと既に上がっており二人を見つけたカヨは彼らの元へ駆け寄る。


「二人とも、良かった!一体何があったんだ?」

「よくわからないけど、僕達誰かに変な夢を見せられていたみたいなんだ」

「誰か…?」

「……二人の女の子に」

「ここには小さい女の子の姿はなかったから、本当に夢の中に出てきたってことか…」


 双子の元天使であるバニカとショコアは館内では誰も見かけていないことから、ミミとロロに起きた出来事は現実のものではなく夢の中で起きたことであることがわかった。

二人はまだ頭の整理が出来ておらず、頭の中がぐちゃぐちゃでぼーっと遠くの方を見つめていた。


「まあいいや…元に戻れたことだし、上でボスや皆が待っているから急ごうか」

「…うん」



___



 美術館二階の方にて



「入口の方で倒れていたって夜桜から聞いたぞ?大丈夫か……?」

「もう平気だよ。…それでね、ウチら天使の子に会えたの!夢の中で」

「いやいや…それは夢の中で…だろ?…さてはお前ら上手く誤魔化そうとしてるな?」

「ギクッ!?」

「何がギクッだよ。そんなのバレバレだっつーの」


 展示室で待っていたジョージィに状況を聞かれたミミは何とか笑いに変えようとするも面白い話題にしようとしているのを見抜き、ジョージィは目を細める。


「…わかったよ。本当はね、危うくあの中で襲われそうになったの」

「え…天使に?」

「そうなの。でも何がしたかったのかは結局わからなかったけどね」

「………イマイチ状況を把握しにくいが、もし実在するならば一応気をつけろ。

それとこの二階には不思議な雰囲気が漂っている気がする…」


 ジョージィは展示室の左奥の方を見つめ、その方向にはひとつだけ年季の入ったような扉があり、少し錆びついた感じにも見える。


「この扉、普通に開けられますよボス」


 暁がゆっくりと扉を開けると、そこには古い書物がぽつんと一枚だけ机の上に置かれていた。

団員達は全員集まり、その秘密の部屋へと入っていく。


「ここにあるのは紙もの一枚だけなのか?」

「らしいですね。それ以外には特に何もないみたいです」

「ええっと…読みにくいなぁ……。暁、読めるか?」

「ちょっと待ってくださいね……」


 古くて読みにくい文章だったため、暁は謎の書物に光の魔力を与えて文字をよりはっきりと見えるようにした。


「これでだいぶ良く見えるかな?」

「よし、じゃあ何が書かれているんだ〜?」


 書物に書かれていた内容を読んでみると、それは大昔のおとぎの星に深く関係しているものだった。



“ ヒストリア遺跡はおとぎの星が誕生してからはじめてひとつの国が生まれたところと言われるようになった。ここまで長かった。


 私はこの不思議で謎に満ちた場所を理解するのにどれだけの時間がかかったのだろうか…


 それまでは自分達が何者かわからない、彼らは互いに混乱している様子だった。かつての私もそうだった。血に飢えた獣もいれば、無害な妖精もいた。


 ある日砂漠の地で過ごしていた私は、ここに国を作ろうと考えた。それは本当に突発な発想であった。“


 書物の内容は、昔のおとぎの星が一番初めにできた国についてのことだった。具体的に誰がこれを書き残したかは不明だが、国を作った人物だと思われる。その国の名前は【ヒストリア遺跡】であることが確認された。


「ヒストリア遺跡って、あの砂漠の国よね?」


 ローラが文字に指を置いてヒストリア遺跡について生き生きした目で話をした。


「古代の遺跡があるところで、一番初めにできた国ってだけじゃなくて最初の魔法組織も確かこの国の王子が作ったとか……色々伝説があるのよ!」

「そんなドヤ顔で言わなくても…そんなことくらい誰だって知ってると思うぞ」

「…うっさいわね!アタシが改めてわかりやすく教えてあげただけよ?」


 暁に真顔でからかわれ、歯ぎしりしながら怒るローラ。

 書物を読み終えたので部屋から出ようとすると、ライが何かに気づいて立ち止まる。



「あっ……もう一枚ありますよ!!」



 めくってみると、そこには今にも破れそうなくらい薄い紙が裏に重なっていていた。団員達は再び内容を読んでみる。




“ まさか砂漠が広がっていて何もなかったこの場所にひとつの国が出来るとは……

 砂を主に使用しているため決して居心地いいとは言えないが前よりはマシになっただろう。


 私はこの国を歴史を表すという意味である「ヒストリア遺跡」と名付けた。せっかくだからもっと土地を増やして新たな街も作ってみようと息子は言う。


 息子の助言で他の地帯も偵察しに行くことにしたのだが、なぜだろう……誰かがずっと監視しているようにも感じる… “



 もうひとつの書物の内容を読んでみた。それはヒストリア遺跡の名前の由来や新たな土地についてということから、何者かの気配を感じているかのような内容だった。


「これ、書いたのヒストリア遺跡の王様じゃないかな?この国を作ったみたいな書き方だし。息子もいるらしいからその人が王子なんだと思う」


 文章をよく読んで、内容的には書いた人物はヒストリア遺跡の王様じゃないかとライは推測する。

 そして先程ローラが説明していた一番最初の魔法組織を作ったのはこの国の王子と言っていたので、おそらくヒストリア遺跡の王様の息子だと思われる。


「なんだかよくわからないけど、ヒストリア遺跡の王様が書き残したものってことで合ってるんだよね?」


 ミミは首を傾げて書物の内容を理解しようとした。


「この部屋はこんなものかしら。広くて何から見ればいいか迷うわねぇ…たくさん見たし一度ここから出ましょうかね」


 こうして美術館から一旦出る団員達。夜桜はレーチェルに頼まれていたことを思い出し、次はフェアリークラシカルの美術館の反対方向にある薔薇園へと向かった。そこにはたくさんの薔薇が咲いているアーチゲートが目の前に立っていた。


「確か…桃色の薔薇を探してほしいってレーチェルが言ってたのよね…すぐ見つかりそうな感じはするけど、そんなに珍しいもの?」


 無数の薔薇を探しているが、大半は赤い薔薇と白い薔薇であり、レーチェルの言っていた桃色の薔薇はなかなか見つからない。

 探し続けて数分が経ち、森の方へと進んでみるとその森の奥の方から美しい音色が聞こえてきた。団員達は皆その音の聞こえる方向へと歩いてみる。


「綺麗な音だ…誰かが演奏でもしているのか?」

「それにしても何で森の方から聞こえるのかしら…カヨ、ちょっと先に見てきてよ」

「え…私?」


 夜桜はカヨに先に行って誰がいるのか見に行ってみてほしいと彼女の背中を軽く押す。


「……いいけど、皆も後ろからついてきて」

「わかってるわよ」


 カヨを先頭に薔薇やその他の植物が広がる森へ少しずつ進んでいく団員達。しばらく歩いていると、木の幹の隣で大きな縦笛を吹いている青年を見つけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る