第14話 メイドの元天使
フェアリークラシカルの中心部にあるシャビーシックな空間の美術館へと入っていった御伽の夜光団の団員達。
一階ではエンゼル・エンパイアの芸術家が作った作品が多く展示されている。彫刻や絵画、工芸品など芸術家達の個性が輝く作品ばかりだ。
そこに入口付近に立っていた美術館の学芸員である女性がカヨとライにひと声かける。
「こんにちは。随分たくさんいらっしゃいますね。こちらは初めてですか?」
「!」
学芸員の女性はニコニコした顔でこの美術館の歴史について語る。
「レラ女王様がフェアリークラシカルの建国記念日として設立してくださったのがここの美術館なんです。エンゼル・エンパイアのメインカラーの白を中心に淡い配色でまとめた優しい雰囲気が特徴ですね。」
色々気になったライは彼女にエンゼル・エンパイアとフェアリークラシカルの詳しい歴史について質問をした。
「あの、エンゼル・エンパイアの国自体はいつ頃作られたんですか?」
「正確ではないのですが、約千二百年前ですね」
「せ…千二百!?ええっと、今はだいたい二千年くらいだからそこから引いて……」
「何で指で数えるんだよ…」
両手で数えようとしているライに半ば呆然として半目で見つめるカヨ。学芸員の女性は話を続ける。
「あのお方のおかげでこの国は守られているのです。当初は謎の勢力によって危機にさらされていましたが…レラ女王様とその従者、更には七つの属性の精霊により数十年にわたり敵の侵攻から私達を救ってくださった……とてもすごいお方です。もうここから離れることは二度とないでしょう………
…あっ、失礼しました!つい長々と……」
彼女はレラに対して自分達を救ってくれた、守ってくれた…もはや神様に等しい存在と表現しており話をしている時はまるで救世主を崇めているように両手を組んでいる。
「話を聞いていただきありがとうございました。どうぞごゆっくりご覧ください」
学芸員の女性は話ができて満足したのか、その場をあとにする。
「すごくたくさん話をしてくれていたね、ちょっと変わった人なのかな?」
「確かにレラ女王のことになった途端にものすごい早口で話していた感じが…」
二人はふふっと笑い、夜桜達がいる二階の方へと歩いて行く。
一方で一階の窓際に展示されていた仕掛け絵本に夢中になっていたミミとロロは、絵本をパラパラとめくりながら楽しんでいる。
「見てロロ、これ面白いよ!かわいいお城が飛び出して見える!」
「ホントだ!!楽しい〜〜!
皆どこいっちゃったのかな?」
「こんなに楽しいところなのに…」
二人は仕掛け絵本にハマっている間に他の団員達とはぐれてしまった。しかも辺りを見渡しても周りに誰もいない。流石におかしいと思った二人は、試しに大きな声を出す。
「おーい、誰かいないの?」
「あれれ……本当に皆いない、変だなぁ」
ロロは館内を走り回りもう一度大きな声で叫ぶ。
「ねぇ、皆ーーー?」
「ロロ、誰かいる?」
「ううん、誰もいない。さっきまで賑やかだったよね?僕が走ってるところ見たら絶対誰かしら声かけるはずなのに…」
中にいた人達全員が突然姿を消したことに途端に不安になり足が震えてしまうミミとロロ。
これは一体どうなっているのか…?
お互いに口数が減っていく中、西側の螺旋階段の下からヒールの音が聞こえてきて、それは段々とこちらへ近づいてきた。階段の下を見てみると……
「どうしたの?」
「迷子になっちゃった?」
階段から上がってきたのは、黒いメイド服を着た紫みの白髪と桃色髪の二人の女の子だった。ミミとロロと年が近い感じにも見える。
「やっと誰か見つけた〜。あのね、ウチら皆とはぐれちゃったの。一緒に探してくれる…?」
ミミは二人の女の子に団員達を一緒に探して欲しいと涙目になりながらお願いした。
彼女達はミミとロロをじっと見つめ白髪の女の子が片足で地面を擦ると、足元からステンドグラスのような複雑な模様が浮かび上がり、それは館内全体を覆いつくす。
「わっ…急に何……っ?」
「心配しないで……触れなければ安全だから」
「君達は…?」
「今あなた達は幻を見ているの…バニカの魔法によってね」
彼女達はミミとロロと同じく双子であり、白髪の女の子の名前は バニカ・フリージア
ガラスを操ることが出来る魔法を使うメイド。
桃色髪の方は ショコア・フリージア
バニカの双子の妹であり、キャンディーを持っている。
二人共濃いピンクに近い赤い瞳をしており、元天使でもある。彼女達がミミとロロを閉じ込めた張本人のようだ。
「ねぇねぇバニカ、この人達どうするの?」
「…さぁね」
バニカとショコアは捕らえられたミミとロロを傷つけることはなく、ショコアはキャンディーを口にくわえて彼らに問いかける。
「あなた達って、もしかしてあの御伽の夜光団?」
「ち、違うよ!僕達は魔法学校の編入生だ!」
「ふーん……何だか嘘ついてる時の顔だよね?」
「うっ…」
ショコアはロロが嘘をついていることを見抜き、さらに彼に近寄る。冷や汗をかき目を逸らそうするロロだったが、なぜか体が動かない。
(え、体が…動かない……?)
「ショコアの魔法はね、なんて言うんだろう…魅力をアップ出来るの!だから、ショコアから目離せないでしょ?ふふ♪
"目を奪う
ショコアの魔法により、彼女に取り憑かれたかのように体が固まってしまうロロ。ミミは彼を解放しようとポケットからワイヤーを取り出しショコア目掛けて投げつける。
「ロロを離して!」
放ったワイヤーはショコアがくわえていたキャンディーの棒を真っ二つにした。
「うわっ!酷いよショコアの大事なキャンディーを!?」
ショコアがキャンディーを拾っている隙をついてミミがショコアの腕を固めて彼女の動きを封じる。
「あっ…!?」
「助かったよ、ミミ!」
「どういたしまして!」
ロロはショコアの目を奪う慈しみから解放され自由に動けるように。それを目にしたバニカが二人の後を追いかけ強固なガラスの槍を地面から出現させる。
「"ガラスの槍"」
「地面から突き出してるよ!走れ!」
ロロの掛け声とともにミミもダッシュでガラスの空間を駆け巡る。二人の持ち前の素早さで回避しようとするが、ガラスの槍が出現するスピードも徐々に速くなってきている。
「っ!」
「ミミ!?」
あと少しのところでミミが扉の前で転倒してしまう。ロロは急いでワイヤーを使用し彼女の腕を引っ張る。
「うわっ!!」
「はぁ…はぁ…もう少しで刺さるところだった…」
ガラスの槍はミミの右足のギリギリのところで止まった。
バニカとショコアが宙を浮きながらこちらへとゆっくりと降りてくる。
「何度も言ってるけど、ここは私の作った幻だよ…当たっても痛くないから」
「そんなことより、ウチらを早く元に戻して!」
ミミはバニカとショコアに指を突きつけ早く元の場所に戻すように強い口調で叫んだ。しかし彼女らは何か聞きたいことがある様子だった。
「君達は…狙われている」
「え…何のこと?」
「わかるの、私には。とっても怖いものに」
バニカは意味深なことを言うと、そこから何も喋らなくなった。
「もう僕達に用はないんなら、さよならさせてもらうよ」
「ちょっと待って!バニカは…」
「ごめんまた今度ね、帰らないと。
"封印のおもちゃ箱"!」
ロロは円を描くと、赤いおもちゃ箱がポンっと現れその箱が開いてガラスの空間が一気に吸い込まれていく___
___
「ミミ…ロロ、起きて!」
「ん…夜桜お姉ちゃん…?ここは…」
ミミとロロが目を覚ますと、ベッドの上にいてその隣には夜桜の姿が。二人はなんとか幻から抜け出すことができたのだ。
「僕達は…?」
「階段の上で倒れていたところを学芸員の人達が見つけて運んで来てくれたのよ!」
「じゃあ…助かったってこと?」
「…何が?」
「良かった〜〜」
「…悪い夢でも見てたの?」
二人は目を合わせて安堵の表情を浮かべ起き上がった。夜桜の手を借りて部屋を出る。
そしてカーテンの外側からバニカとショコアがそっと顔を出し彼らを見守る。
「あの子達、最後まで話聞いてくれなかったね〜〜バニカはそれで良かったの?」
「違う…ただ試してみたかっただけ」
ショコアの問いかけに、バニカは冷静な目つきで答えた。
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