第13話 フェアリークラシカル
「何…フェアリークラシカルに行きたいだって?」
「そうなのよパパ!アタシまだ一度も行ったことがないから〜」
ローラは街中のパン屋で買い物をしていた父親のジョージィを見つけてフェアリークラシカルに行きたいと必死にお願いをする。
「どうして急にそんなこと言うんだ?」
「さっきね…レーチェルに会ったの!それでね、色々話を聞いて……とても面白かったの!」
「レーチェルって、レラ女王のところか…」
「ねーー、ダメ?」
どうしても行きたいとジョージィにおねだりをするローラ。
すると、パン屋の屋根の上から晩餐会の時に遭遇した精霊が何やら巻物みたいなものを持ってきた。見た目からして、炎の精霊と水の精霊の二体だ。
「これは何かしら?」
「紙か?」
ローラがそれを手に取ると、二体の精霊は手を振りながらどこかへ去っていった。
紙を広げると、その内容は女王レラの直筆で書かれていたものだった。ジョージィが内容を読み上げる。
「どれどれ〜?
『親愛なる御伽の夜光団の皆様へ。
レーチェルからお話を伺っております。私の方からも是非我が国の第二の都市であるフェアリークラシカルへとご案内させていただきます。
魔法学校の編入生として入国してみてはいかがでしょうか。
私は同行できませんが、ご検討くださいませ。
レーラネール・アンジェラス』…
なるほどな。…でもどうして魔法学校の編入生を名乗る必要があるんだ…?」
手紙の内容はレラからエンゼル・エンパイアの第二の都市であるフェアリークラシカルに案内したいというものだった。
しかし疑問に思ったことは、何故御伽の夜光団としてではなく魔法学校の編入生を名乗る必要があるのか。不思議に思っていたジョージィは手紙を読んで考えていると、心当たりがあった。
「…あ、そうか!」
「どうしたのパパ?」
「俺達……活動再開をしたってこと世間に知られていないんだ!」
「それが何かまずいこと…?」
言っていることがいまいち理解できないローラにジョージィはその理由を話す。
「他の人には別に知られても大丈夫なんだが、問題は黒兵派だ。俺達がまだ生きているなんて気づかれたらこの国自体も危険な目に遭う可能性がある…女王はそのことも予想して魔法組織に所属している奴らではなく魔法学校の編入生という仮の設定で入るように提案しているんじゃないか?」
「じゃあ…アタシ達は変装して別々に行動した方がいいの?」
「…変装しては逆に怪しいだろ。そこはナチュラルに普段通りにしていれば良い。…一旦皆を呼ぶか」
ジョージィが団員達を街の大広場に集合させてフェアリークラシカルに行くことを告げる。
「全員集まったか…これからエンゼル・エンパイアの第二の都市であるフェアリークラシカルに向かう!」
「フェアリークラシカル…ですか?」
第二の都市という存在そのものを知らないライはジョージィに尋ねる。
「第二の都市はお前の出身地にもあるんじゃないか?」
「うーん、あったようななかったような……」
ライは腕を組み記憶を掘り起こそうとする。
「思い出せないからいいや……ところでボス、話って何か大事なことでもあるんですか?」
「それなんだが、その街に入る際には御伽の夜光団の団員としてではなく魔法学校の編入生を名乗れ」
「ええっ!?」
団員達は皆驚いた顔をする。カヨは一歩前に出て真っ先に彼に質問をした。
「どういうことですか?もしかしてそんなに厳しい場所とか…」
「別にそういうワケじゃない。レラ女王からの伝言だ。俺達が活動を再開したということが黒兵派にバレないようにな」
「え、あいつらは牢獄に入っているという話を聞いたことがありますが……」
「だからと言って油断をしてはいけない。もし黒兵派でまだ捕まっていないとか…黒兵派になりたいという候補者もいる…その可能性は否定できないぞ」
「…確かにあいつらは数が多いから…今でもどこかに潜んでいる…ということですね」
「そうだ」
カヨはジョージィの話を聞いて納得した。他の団員達もお互いに顔を見合わせて話の内容を理解しようとする。
「でも、また新しい場所に行けるんですよね?俺すごく楽しみです!!」
こことはまた違った場所へ行けることをライはウキウキした気持ちで喜びを隠しきれない様子だった。
団員達は街の洋服店で購入した服に着替える。クラシックな印象で重厚で優雅なスタイルな服を身にまとう。
準備ができたところで、団員達は第二の都市であるフェアリークラシカルへと向かった。
街並みの先まで進んで行くと、巨大な本物の天使の羽根がついたベビーブルー色の飛行便を見つけた。
レーチェルが教えてくれた天使の羽の便に乗り、現地へと向かう。
___
淡い色合いが特徴のロマンティックな宮殿がそびえ立つ風景は、まるで芸術品を見ているかのように豪華で美しい。空の色は薄いパステルカラーのピンクと水色のグラデーションが印象深く、ふんわりとした白い雲がより彩りを与えている。
ここが天使の国エンゼル・エンパイアの第二の都市であるフェアリークラシカル。
ずっとここへ来たかったローラはびったりと窓に張り付きその空の風景を目を見開いて眺めていた。
「見てよこの景色!天界にはこんな素敵なところがまだあったのね〜〜」
「行儀悪いわよ、ローラ…」
隣の席に座っていた夜桜が前のめりの姿勢で窓の外の景色を見ているローラに行儀悪いと軽くツッコミを入れる。
「夜桜も見てみなさいよっ!!」
「ちょっと!?そんなに腕引っ張らないでよ!」
こうして天使の羽の便に乗ってから約一時間半後、フェアリークラシカルの駅に着く。天使の羽の便は静かに大きな羽根を閉じてその場に留まる。
駅を降りると、向こう側からほんのりバニラの香りがしてきた。
「すごくいい香り…何か美味しいものでもあるのかな?」
ライが匂いを辿っていくと、真っ白の四角い屋根が特徴の小さな可愛らしいお店が並んでいた。看板を見てみるとバニラを使った白いパンケーキを作っているカフェだった。
「この国って、甘いスイーツを出しているお店がたくさんあるね。結構有名なのかな?」
「どうやらお菓子の国から輸入されているらしい…そんな話を前に聞いたことあるな」
カヨがライにエンゼル・エンパイアやフェアリークラシカルに多く出店されているほとんどのスイーツがおとぎの星にあるお菓子の国から輸入してあるものだと説明する。この天使の国と親交の深い国のようだ。
街の入り口方面から少し歩いていると、宮殿のようなものが見える。中央には半透明の羽根みたいな旗がなびいている。
「カヨ…ここにも王族の人がいるの?」
「いや、あれは美術館…と言った方がいいかな?エンゼル・エンパイアに置いてある骨董品などが飾られている」
宮殿の正体はまるでお城のような美術館だった。骨董品や芸術品が展示されている。
団員達は美術館へと入っていく。その後ろから二人の幼い女の子が後をついて行く。
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