第2話「注文、テイクアウトで!」
路鉈町の中心街は栄えている。
ショッピングモールやビジネスホテルが建ち並び、最近では遊興を優先的に見て遊園地の建設なども開始した。
未だ発展のある前途を見せる都市部の、更なる中心。
多様な年齢層の男女が行き交う雑踏は、東京の様相にも劣らぬ人口。
交差点付近を俯瞰図で見れば、一目瞭然である。
学生にとっては最高の遊び場だな。
無論、規制は厳格化されてしまうが、持て余した若気を存分に発する為に、その目を掻い潜ってやるのが学生の求める
本来ならば用は無い筈だが――俺と中野は来ていた。昂然と胸を張る彼だが、不安でしかない。どちらかと言えば、暗い先行きだけが案じられる。
憂慮する俺の眼差しを受け、中野は笑って見せる。あ、森先生に似てて少しイラッときた。
「おい、そんな怯えた獅子みたいな顔すんなよ」
「いや、せめて羊とかにしろ。チョイス微妙過ぎるだろ」
呆れる俺を余所に、後方から中野を呼ぶ二人の影があった。振り返れば、そこにはクラスメイトが面子を揃えている。
橋ノ本と、確か斎藤だったか。
整った面差しだが、それよりも目立つ金髪にピアス、胸元までシャツのボタンを開放し、腰まで下ろして穿いた学生ズボンが不良生徒の印象を与える。
橋ノ
やや肥満体の体を窮屈に学生服に閉じ込めた外貌。丸眼鏡を掛け、赤に染めたウルフヘア(俺達はソフトクリームと呼んでいる)を逆立たせる。指貫グローブ、制服の下はオタクTシャツだ!
俺達の隣に立った彼らは、ふっと笑う。
「任せろ、この俺――斎藤尊が百人捕まえてみせるぜ!」
「それお前一人で全部対処しろよ?」
「雄志よ!盟友を差し置いて、何をうらやま……戦闘に挑まんとするのだ!?」
「収穫ゼロ筆頭候補のセリフだな」
喧しい二人を諌めつつ、俺達は街を眺め回す。
人の団塊、止めどなく流れる人間の波頭に突っ込むのは困難だ。何よりも、その中から一人を選んで誘い込まなければならない。
高校生のノリでは中々に難儀な問題だ。
しかし、企画者の中野が止まる訳がない。そう、何せナンパなんぞを率先して実行に移す気の違ったヤツが、この程度の障害は難なく撃ち破る。
「諸君! 我々非リアの長く続く暗黒時代を終わらせる時が来たっ!」
「「おおおお――――!!」」
「お、おー……」
公衆の面前でする話じゃない。傍から見たら凄く悲しいな、これ。
しかし、羞恥も無く中野は続けた。
「これまでの悔いを、恨みを、晴らすのだ!」
「「おおおおおお――――!!」」
「もう良いから早く始めろよ」
「行くぞッ!!」
数時間が経過した――。
結果から語れば、何人たりとも俺達の声に足を止める者はいなかった。
斎藤が何人かを口説き落としたが、身内(主に橋ノ本と中野)が在らぬ事実を吹聴し、幻滅されて取り逃すばかり。
仲間でさえも険悪なムードになって、俺達はもはや諦めかけていた。威勢良くスタートした試みも、今や結果虚しく潰えている。
俺としては、二人くらいだが、誘った相手が年上ばかりで断られた。
何か「坊や、大人になったらね」とか、「もう少し社会を勉強したら味見してあげる」とか。……何か、俺が話し掛けた人みんなヤバイな。
我知らず、そういう趣向が?
元より梓ちゃん一途な俺が、そもそも他に現を抜かしてる暇なんてないんだよな。
そんなやる気無い態度を晒していると、橋ノ本達に叱咤される。
拉致同然に連れて来られた挙げ句、敢行したナンパは悉く撃墜。
果たして、続ける意義があるのだろうか?
乾いた笑い声を上げる俺は、集団の流れを観察する。事も無げに処理されてしまった身だが、やはりこの中から選別するのは至難の業だ。
時間が経過しても、一向に逓減しない。どころか増加する一方だ。
より環境は俺達を圧迫してくる。……これは中野達が根を上げるのも時間の問題だな。
長嘆して項垂れていると、通行人にぶつかってしまった。俺は別段衝撃を受けなかったが、相手の体は予想以上に軽く、後ろへと倒れてしまう。
「すみません! くっ、ウチの肩がとんだ失礼を!?」
「……ううん、良いよ」
通行人――帽子を被った少女は、服に付着した塵や埃を払って立つ。よく見れば、コートの下に路鉈高校の学生服を着ていた。襟元から覗く。
……今夏なのに、帽子とコートって。正体隠すにしては、ずいぶんと目立つな。
……顔は見えないけど、女の子だよな?
試しにやってみるか。
「お詫びもしたいんで、良ければ何処かでお茶でもしませんか?」
「……お詫び、したい?」
「え、お、おう?」
「良いよ。なら、着いて来て」
少女が弾んだ声音でそう告げて、俺の腕を引いて走り出す。
あれれ?
この流れってまさか、成功ですか?
もしかして、だけど。
仮にこれが現実ならば、凄いことだ。
俺は声を大にして言いたい。今の心境を、皆に訴えたい!
いくぞ!よく聞いとけよ!?
せーのっ――――――――――――――えっ?
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