第13話 最後の景色

俺とアキラは今日死ぬ…


その現実を受け入れられなかったユキの前に、

時間屋は姿を現したようだ…


同じ日を体験しているユキは、

俺の雰囲気が違いすぎることに違和感を感じていたらしい


女の勘はいつだって鋭いものだ…


俺もユキに、これまでの事を話した…


アキラを助けるため


何度も過去に意識を戻してきたこと…


そして、これが最後の逆行になること…


俺たちは協力し、今日の事故を防ぐ方法を考えることにした…



のだが…





「…ごめん、トモキ…」

「…私、やっぱり3人で花火…見たい」

「ごめん…トモキがどんな思いでここまで来たのか…私には想像もできないくらい辛いことだって…わかってる…」


「それでも…私は…」

「3人で…」


ユキはとても切なそうに、俺の目を見つめる


「あぁ…そうだな…でも」

「でも、きっとそこで何かが起こる…」

「下手に運命を変えようとすると、予測できないことが起きて、もっと良くない結末を迎えるかもしれない…」




「…だけど!……」

「……トモキは、アキラのためにすごく頑張って…」

「…もう命も…少ないんでしょ?」

「あの時計…人の命を奪うから…」


俺はユキの目を見ることができなかったが、声の感じで目に涙を浮かべているのがわかった…


「私が2人を助ける…」

「そして思い出も…ちゃんと作りたい」

「トモキとアキラと私の、最後の思い出…」


「絶望じゃなくて…」

「笑顔で………!」


無理をしているユキの笑顔を見て

俺は断る理由が思いつかなかった…


もうすぐ死ぬ俺のために、思い出を作ろうとしてくれているんだ…


その気持ちを踏みにじってまで、無理な作戦を立てる必要はない…


そう、思った…












午後17時30分


俺とアキラは先に神社に到着し

ユキを待っていた


昼間の口論のせいで、俺たちは一言も話していない…



「おーぃ!2人ともー!こっちだよー!」


階段を登った先の神社からユキの声


「え!?アイツいつの間に?」

「先に上に上がってたのかよ!」


驚いているアキラと距離を置きながら

俺たちは神社の階段を登っていく



俺たちが階段の中腹に差し掛かった時…

さっきまで俺たちが居た階段の下を

蛇行運転の軽トラックが走り去っていく…



「あの軽トラあぶねーな!」

「俺たちさっきまであそこにいたぞ!?」



「うおーホントだな!ユキが先に来てなかったら、俺たち死んでたかも!!ラッキーじゃん!」




さっきまで険悪なムードだったのが嘘のように

俺たちは笑いながら階段を駆け上がった



俺とアキラは本来あの場所で、らしい


ここまでは先回りしたユキの作戦通り






階段を登り終えると、満面の笑みでユキが待っていた


「さっきの軽トラヤバかったね!2人が巻き込まれなくてホッとしてるよー!」




死の運命をあっさり回避した俺とアキラ


この先はわからない


これで終わるとも思えない


…だけど…







午後19時



今にも壊れそうなハシゴを登り


年季の入った神社の屋根に到着


マジでバチが当たりそうな最高のスポット


七色に輝く星々の下


俺たちはそこで


最高のときを過ごした









ユキが作ってくれたこの時間おもいで




俺は絶対に、忘れない…



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