第5話 人混み

「ったく、何だよさっきから!」


アキラが困惑するのも無理はない…

とにかく、アキラを何とか助けたい!

正直に言うべきなのか?

過去に意識が戻ったなんて言って

信じてもらえるだろうか…


「アキラ…なんていうか…その…」


「トモキ、どした?はっきり言いなよ!」

「なんか今日のお前変だぞ?」


「その………」

「……とにかくだ!アキラ!!」

「悩みがあるなら言ってくれ!全部受け止めてやるから!」

「だから死んじゃダメだぞ!!」





…あ…しまった……





「……えっ?」





……俺は馬鹿か…何テンパってる…

アキラ君が反応に困っているじゃないか!

どう言えばいい?

『明日、自殺しないでくれ!』

なんて言えないぞ!?





アキラ君はしばらく何か考えている様子です。







「……………」







「トモキ…何で…」

「僕が明日死ぬつもりなの知ってる?」









「………………は?」

「なんで…って」

「ってか何だよ死ぬつもりって!!」



もうすぐ電車が来る…それまでにアキラを説得しないと!


…ってそうじゃねーだろ!マジでアキラは……

あーもう!訳わかんねぇ!!





「…………」





「もう時間だ…」

「まぁ、トモキに話す事は何もないよ」

「僕の事は放っておいてくれ」





そう言って、アキラは歩き出す。





「待てよ!!!」

俺は全力でアキラの腕を掴んだ。



「離せ!」

アキラは俺の手を振り払おうとする。



「離せるか!!!親友が死ぬってのに!!」

「絶対に行かせねぇぞ!まだ話は終わってないからな!」




駅のホームは帰宅中の人々で溢れている。


人混みが俺たちを不自然に押し出す。





「うわぁーー!」

「きゃあ!」

「押すなよ!」





大勢の人に押され、数人がホームから落下してしまう。

アキラが落下すると同時に、俺は手を離してしまった。


「……くっ!」






「電車が来るぞ!引き上げろ!」

「急げ!!」






ホームに残った数人で落下した人々を引き上げていく。



俺もアキラに手を差し伸べた。

「アキラ!早く!電車が来るぞ!」












「トモキ…僕はここまでだよ」

「この状況…たぶん…」










「なに……言ってんだよ…」

「……わかんねえよ!!!」

「頼むから……手を掴んでくれぇ!!」

俺は必死に声を上げるが、俺の手を掴んだのは落下した別の人だった。



「アキラ!早くしろ!!!」

それでもアキラは線路に立ち尽くす。













『トモキ……僕の死を受け入れろ…』




「!!!!?」





瞬間…

この世のものとは思えない音を発しながら…

電車はアキラの体を貫いた…



ホームには惨劇の鎮魂歌が響き渡る。



俺の止まった脳みそはその音を拒んだ。

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