第2話 賭け事

…どうしてこうなったんだろう?

僕は汽車の窓に映る素晴らしい景色と、それには目も暮れず血走った目でトランプを見つめる二人を見てそう思った。3人で旅行の打ち合わせをしている時

「熊野古道に着くまで、2時間ぐらいかかるからお菓子とか持ってった方がいいかも」と言ったのはるーかさんだ。

「へー結構かかるんすね、じゃあトランプとかUNOとかも持ってった方がいいすか?」と言ったのはショータだ。

「お、ショータくんいいねぇ、私面白いゲーム知ってるよ、お金動いちゃうよ!」と言ったのはるーかさんだ…

「マジっすか、それは熱いですね、楽しみにしてます!」と言ったのはショータだ…

つまり誰が悪いかというと

「さばと(くん)が悪い!」

酷い冤罪もあったものだ…

現在、るーかさんが5000円負け、ショータが8000円負けだった。このままいくと旅行代金回収できるんじゃないだろうか…

「もーまた負けた!さばとくんこのゲーム初めてじゃないでしょ」

「いや…初めてですよ、ルールもローカルのようなものが多いですし」

実際、似たようなゲームはやったことがあったが、初めてのゲームだった。ゲームの内容は大富豪とUNOを混ぜた物と言えばいいだろうか。くれぐれも賭け金には気をつけて…

「次は掛け金二倍にしてこうぜ、手札かける二倍な!」

「いいね、しょーたくん!私もこれで一気に借金返すから!」

なぜ、人は負けている時にリスクを倍にするのだろう…

「ようやく勝った〜、あとは出来るだけ多く手札を残して負けてね!」

ああ、どんどん人の嫌な部分が見える気がする…

結局、2人は掛け金が少ない時に買って、多いときに負けるという典型的な運がない人の負け方をしていった。ショータの負け額が五桁に乗った頃

「って、やば、もう少しで七鬼駅じゃん、そろそろラストだね」

「マジっすか、勝ち逃げっすよ、ずるいー」

「しょーたくん、君が大負けしてるだけで私も勝ってないから…はい、じゃあさばとくん、4000円ね」

ポーチから、財布を取り出し1000円札を4枚取り出す。実に慣れているようだ。

「さばとー、ホテルでもやるからな!」

「何のために旅行に来たんだよ…」

「そうそう、2人とも後ろ見て」

ちょうど、汽車がトンネルを抜けた時だった。窓いっぱいに広がる海、それと幾つかの小島、手前には砂浜が広がっている。

「ああ、今日ってこんなに晴れてたんだな」

「どんだけ、外見てなかったんだよ…」

「いい景色でしょー、これ、太平洋につながっているんだよ。」

「こんな道、ロードで走れたら気持ちいいだろうな」

「私、高校生の頃はそんな感じで登校してたよー、でも雨の時は…」

ジリリリリ、ちょうど駅に着いた。

「っとと、着いちゃったね、また今度ね」

「えー、こっからむさ苦しい男二人旅かよ」

「こっちのセリフだ!紅一点のるーかさんが抜けるのは寂しいなー」

「あはは、さばと君もそんな冗談言うんだね。部活にいるときはもっと真面目な人だと思ってたよ」

「あーさばとは人見知りだからなぁ、俺とはすぐ打ち解けたけど。」

「人見知りとは失礼な、話すことがないだけだ。」

「ふーん、クールぶって、また話そうねー!」

そう言って颯爽と彼女は汽車を降りていった。彼女が降りてからの二人旅行はそれはそれは淡白なものだった。我々は親子丼にパクチーがいるよう、カレーに福神漬けがいるように旅行には彩りが必須だと学んだのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

曖昧に恋は始まらない @takeutitakuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る