第3話 新ダンジョン 2
出勤すると夜勤者から仕事引き継ぎを受け、隙間時間にダンジョンギルドに渡した情報を書面にする。十時休憩前に書類を作り終えたのはいいが、誰に提出するべきか悩む。
悩んでも答えがでないので、まずは休憩に入ろうとしたら、三沢主任と一緒に社長に呼び出された。
ついでに渡せばいいかと、書類を手に主任と社長室に向かう。
「千鳥。君は明日からダンジョンに行くように」
主任にはそれに合わせて最低半月は千鳥なしのシフトを組むように社長は命令を出す。
「シフトを早出にしていただければ、退社後ダンジョンに行きますが」
「今日からAランクパーティが二組増える。今日中に十二区まで間引きするそうだから、明日から十二区で店を探して欲しいそうだ」
一人でもチラシ持っていればパーティメンバーは入れたが、ないと店の中に入れなかったらしい。
「五区のチラシならまだ持ってますが」
「ダンジョンギルドで売らなかったのか?」
「割引券がついているので、今後の買い物のために確保してます」
「Bランクパーティの連中に渡したいが、二枚いいか?」
「いいですよ。饅頭と串団子が美味しかったので、買い物に行ったら甘味よろしくとお伝えください」
朝から用意していた書面と、昨日の鑑定結果のカラーコピーを提出する。パラパラと目を通し、甘味の写真を見て手を止める。
「これのことか?」
「お金が足りなくて買えなかったので、煎餅でも飴でもいいです」
丸薬一個諦めれば両方買えたのだが、薬の予備を優先してしまった。
「声はかけておく」
静香もそうだが、探索者としては甘味より優先して買いたい物の多い店である。そして、数日の探索でスケルトンメダルに余裕のある人はまだ誰もいない。
今すぐ買うなんて約束ができるはずもなく、おそらく社長を含むAランクパーティも余裕がなかったから買うとは言ってくれなかった。
常時身につけているアイテムバッグは小型で薄型のため、タケが長めの上着を着ていたら隠せる。イスに座っていても邪魔になる事もない。
そんなアイテムバッグからチラシを五枚取り出して渡す。
「交渉にでもお使い下さい」
「Cランク連中用じゃないのか」
「彼らでは今すぐ買い物できるほどメダルを集められないでしょうし、自分達で探させればよろしいかと」
たぶん、郵便受けをまめに探したら見つかる。
Aランクパーティはそんな事しないでガンガン奥に進んで欲しい。
「わたしは、下層まであると予想しますが、社長はどうですか?」
「上層の区画が十を越えれば、だいたい下層がある。深層まであることを視野に入れるべきだろうな」
上層の区画が十八を越えれば深層があると言われている。例外もあるが、ほぼ確定。そのためダンジョンギルドはSランクのパーティ確保に動いており、数日以内に上層だけでも探索を終えるようにAランクパーティは急かされている。
退路の確保にその後方をBランクパーティがついていくそうで、それぞれの区画の探査はそれ以外の探索者でやってくれというのが今朝の会議で決まったダンジョンギルドの方針らしかった。
会議に参加するべく地上に戻らなくていけないのも探索速度の遅れにつながっており、次の会議は日をあけて行われる。社長はそれまでに十二区の店を見つけるように千鳥に命じてくれと頼まれたそうだ。
「AランクがごろごろいるならBランクに指名するのやめて欲しいですね」
社長にしても静香にしても、断れる状況ではないと理解してはいる。
「こちっでできる援助としては、今日半休にしてやるくらいだな」
「夜の様子も体感したのいので、仕事が終わってからちょっとだけ様子を見てきます」
仕事の引き継ぎをして半休をもらうより、仕事を終わらして退勤した方が気が楽だ。
何しろいつもより登録探索者も消耗品も多く動いている。朝から来てないならともかく、途中で帰るのは同僚からの視線が痛い。
会社としてはダンジョンに行けば出勤扱いにしてくれるようだが、同僚からすれば出社してこないなら休まれているのと同じだ。
しかもこの忙しい時期に半月はシフトから名前が消える。
次に出勤する時がかなり怖い。
ダンジョンで得た物は基本ダンジョンギルドを通して売買しなくてはならない。提供した側も受け取った側も罰金刑になるので、ドロップ品のおはぎをおやつにどうぞとやるわけにはいかない。
この売買規則は抜け道があって、ダンジョン内での探索者同士の譲渡は合法になっている。ダンジョン内で対価を渡せなかったからとダンジョンを出てから渡すのがグレーゾーンで、その延長で探索者同士の物々交換は今のところ見逃されている。
ただ、大規模にやったり公開してやると罰金刑になっていた。
なので所属登録している探索者には提供できても探索者登録していない事務職員には何も渡せない。学生時代に登録したという人もいるが、全員ではないので渡せない人が発生してしまう。
それに、深層まであった場合半月で事務職に復帰できるとは限らない。静香がダンジョン探索をしている間と忙しい時期が被っているのも問題で、どうすればいいか社長室を出てすぐ三沢主任に相談する。
「復帰するときに菓子でも買ってきたらいいかもな。できるだけ有名で高級なほどいい」
ネット通販をおすすめされたので、休憩時間に調べたら、高級なお菓子の中にはダンジョンドロップ品もあった。似たような物や同じ物を持っていても、買わないと職場で提供できないのが悲しい。
お安くもないのに入荷待ちの予約制になっていた。
これはダンジョンギルドに一回売って、即買取可能か相談すべきかもしれない。罰金を払うよりこっちの方が安く済む。
入荷待ちの通販なんでいつ届くかも、わからない。
ダンジョン産に限らず人気の高級菓子はだいたい予約待ちで、届くまでには日数がかかる。
おにぎりを食べながら悩んでいる間に、休憩時間は終わってしまった。
休憩後、出来るだけ仕事を処理し定時に退社する。寮に戻り冒険者装備に着替えてからダンジョンに向かう。
今日は連れて行ってもらえないので徒歩で向かう。できれば自転車で行きたいくらいなのだが、まだ駐車場が整備されていない。
徒歩三十分。毎日往復できなくはない距離だ。
ダンジョン入り口前にゲートが設置されていたので、探索者カードをかざし中へ入る。
探索者の姿がチラホラと見え、利用する探索者が増えていた。
前回引っかかった転移トラップが、今回も同じ場所に飛ばされるかまずは確認に向かう。
トラップは同じ場所にあり、飛ばされた結果は同じ場所のようだ。残念ながら家探しでもスケルトンメダルが見つかるだけで、他のアイテムはない。
今は休憩を必要としていないから、建物の外に出る。こちらも前回と同じだ。
ショートカットに使えるトラップ転移だと静香は判断する。襲ってくるスケルトンを倒しながら、店に向かう。
今日はよくスケルトンメダル以外のドロップ品が出る。食材はいいが、折れた刀とか、穴の空いた鍋、錆びた包丁あたりは嬉しくてない。
お店に入り、穴の空いた鍋を出すと買取してくれた。二千スケルトンがいいのかどうかわからないが、折れた刀も錆びた包丁も売ってしまうことにする。
修理できるか知りたかったのだが、静香の言語スキルでは伝わらなかったようだ。
大抵の食材は食べて消費するが、使いこなせそうにないぬか漬けの壺を出す。ネットでぬか漬けの使い方を調べてもいいが、まめに手入れできるとわ思えなかった。
アイテムバッグに入れておけば手入れはしなくてもいいが、新たに漬け込むこともできない。引き取ってくれるなら、売ってしまいたかった。
それから会員証を出して、飴と煎餅を買おうとしたら、店員スケルトンに怒られた。どうも会員証があると買取額も上がるようで、差額のメダルをくれる。
飴と煎餅、バラで買うつもりだったが煎餅は箱買いで、飴は瓶で買うことにした。
「ごめん、次は、出す」
「出せ、よ。また、な」
最後には機嫌を直してもらい、帰路に着く。太陽はないが空というか天井は薄暗くなり、街灯がつく。ここは夜になっても真っ暗にはならないようだ。
モンスター討伐でスケルトンメダル集めるより、物を売った方いいかとダンジョン内で金策について考えながら進む。三区で噛み付くトマトと笑うナスという植物系モンスターの集団に遭遇した。
家庭菜園だろうか。そんな事を思いつつ討伐すれば、ドロップ品が実ではなく種だった。
一体くらい可食品出せと思いつつ、笑うとナスの掛け軸やら、噛み付くトマトのぬいぐるみを拾う。ナスとトマト合わせたら十六体もいたのに、食べられない物ばかり。
ナスのフォークとトマトのスプーンはちょっとかわいいけれど、マグカップはどっちもどぎつい色をしていて好きじゃない。スケルトンのお店に持ち込んで買い取ってくれるか試せばいいかと、微妙な品々も拾った。
予定では三時間ダンジョンにいる予定だっだが、二時間ちょいっとで出入り口にたどり着く。一区でダラダラモンスター狩りするよりは明日に備えることにする。
おそらく十七時頃よりはマシだが、十八時を超えた今も戻ってきている探索者は多い。
人が多い時間に戻ってくると、カウンターが混み合っており、待ち時間が長くなる。
混み合うリビングに向かうよりは、今日の現金化を諦める方を選ぶ。二階でやっているの情報買取も混んでいるようで、誘導の係員がいた。こちらも明日にしよう。
ダンジョンギルドに情報提供する分は名前を使わせてもらう分社長にも報告がいる。どうせ書面にしなくてはいけないなら、二部印刷すればいいだけだ。
寮に帰ると夜ご飯を食べながら、学生時代から使っているパソコンで書類を作る。作り終わり印刷してすると、印刷が荒かった。
USBにデータ入れておこう。印刷に不満なら、不満な人に印刷してもらえばいい。
古いプリンターを買い替えてまで対応するつもりが、静香にはなかった。
そろそろ寝ようかと思った頃、メールの着信があるのに気づく。最近ルームシェアしている部屋の方に顔を出してなかったので、心配してくれたようだ。
探索者は、姿を見かけなくなったらお亡くなりにが珍しくない。なので、このメールは生存確認の意味もあるのだろう。
半月は新ダンジョンの方にいるから、顔を出せそうにないと返信しておく。
ルームシェアのマンションからより、寮からの方が新ダンジョンに近い。そうなると、新ダンジョンが落ち着くまでは行けそうになかった。
直ぐに返信があり、新ダンジョンのモンスター間引きに副業探索者♪も協力依頼が出ているそうだ。
明日魔石をパーティ名で売るとメールすれば、売るのは週一回魔石百個以下でと注意がはいった。
まったく活動実績がないのも問題だが、活動実績がありすぎるのも困る。ダンジョンギルドから指名依頼されても、本業持ちとしては喜べることばかりでない。
パーティリーダーは仕事の調整にまだ時間がかかるそうで、新ダンジョンに来られるようになったら知らせてもらう。その頃には中層に到達しているだろうか。
しっかりと眠り、翌日は六時前に寮を出た。エントランスに人だかりがてきている。頼めば送迎用のバスに乗せてもらえそうたが、騒ぎそうなCランクパーティがいたので歩くことにした。
歩くのは嫌いじゃないが、騒がしいのは嫌いだ。呼び止められたくないから気配を消して隣を抜ける。
朝からダンジョンには探索者が集まっており、出入り口のゲートは短い列ができていた。買取カウンターを除けばすいており、魔石を買い取ってもらう。
探索者カードを出し、パーティ名を告げる。査定を待つ間に、二階に上がった。担当者が不快な顔をしているので、渡すのは印刷してきたコピー用紙一枚だけにする。
印刷の悪い状態に嫌そうな顔をされたが、USBは出さない。
「この写真のヤツ原物ないの?」
「ありますけど、売りませんよ。ダンジョン探査中に食べるので」
探索に使う物を取り上げることはできないため、舌打ちされた。これがおやつに食べる発言なら強制買取を仕掛けられていただろう。
前回の情報買取担当者より態度が悪い。どうにも相性が悪い。次からもこの人に当たったら、売る情報は最小限にすることにした。
碧の騎士の名を出し、問い合わせは探索者ギルドを通してもらう。すぐに席を立たなかったたげ感謝してもらいたいくらいだ。
これ、個人名で買取してもらっていたら、報酬がなかったのではないかと疑いたくなる。不快な思いを言葉にすることなく飲み込んで、席を立った。
階段を降りて、買取明細書を受け取る。パーティ口座に振り込んでもらうようにしてダンジョンに向かう。
どうもここのダンジョン太陽はないが、朝昼晩が外の環境と連動してそうだ。
後は雨が降るかどうかなのだが、雨が降るようなら撤退する。
今日は奥に進む事を優先し、五区に移動しても店には寄らない。最初に来た時よりスケルトンが気持ち減ったかもしれないと思いつつ六区へ向かう。
このダンジョンはあまり癖がないため、区画をわけるゲートを背にして進めば次の区画へ進むゲートが見つかる。
そのまま直進すると先行者が調べているだろうから、道一つづらして軽く家探ししながら進む。どうやら六区のチラシも五区の店のようだ。そのままスケルトンを倒しつつどんどん進み、八区に入る。八区で手に入れたチラシが一枚だけ十二区の店のものだった。
九区へ入るゲートの前で休憩する。今日食べるのもおにぎり。手袋をのけないで、そのまま食べられるのが気に入っている。
食事中も容赦なくスケルトンは襲ってきて、魔石とドロップ品になって消えていく。拾うのはおにぎりを二つ食べ終わってからにして、お茶を飲むのはさらにその後。
ゲートのそばにあるトイレは安全地帯なので、トイレを利用してから先に進む。
どうやら先に進むほど十二区の店のチラシがでやすいようだ。そして、チラシとは別に十区で新聞を入手し、十一区で通販カタログを見つけた。十二区に進むゲートの前で休憩がてらカタログを見ていると、お店で料金先払いすると注文できるらしい。
注文用紙は三枚ついており、一枚で十八の注文枠がある。個数の方は二桁なので、九十九までと思われる。
休憩が終わると十二区に入る。ここは店も見つけたいので、家探しもじっくりさせてもらう。
お金がないとなにも買えない。カタログの商品名や説明は読めないのが多かったが、金額くらいはわかる。カタログで頼むとお菓子も良いお値段みたいで、このままだと注文できるものは多くない。
上層の一撃で倒せるスケルトンたちはスケルトンメダルになるとだいたい百スケル。それなら別の物になってくれて売り払った方が良い値になる。
家探しでみつかるスケルトンメダルは十万スケルか一万スケルのメダルで、ハズレだと千スケル。
金策は家探しの方がよさそうだ。
お店は見つかったが、金策がおわってないので、周辺の家探しを優先する。
空の色が変わり始めた頃、これ以上の家探しを諦めて店を訪ねた。
「いっしゃいませ。素泊まり三千スケル、夕食と朝食付六千スキルになります」
着物姿の女将スケルトンは流暢に話すので、言語スキルをもってそうだ。
「食事付がいいですが、買取できますか?」
「買取は昼間だけです。朝になったら声をおかけ下さい」
五区の店で渡されたチラシと会員証を見せる。
「こちらの利用も昼間にだけとなっております」
「昼間が物品販売で、夜が宿屋ってことですか?」
「ええ、そうです。五区ではお泊まりにならなかったのですね」
とりあえずザラザラと巾着袋からスケルトンメダルを出し、六枚の千スケルを見つけて女将スケルトンに渡した。
これで宿泊が確定となったようで、設備の説明をされる。
大浴場があり、泊まる場所は雑魚寝。今日泊まるのは今のところ静香だけだが、人が増えたら知らない人と一緒に寝ることになる。
食事の時間を問われたので、お風呂に入ってからにする。ふだんシャワーなので、湯船に浸かったの久しぶりで気持ちいい。けれど、ここがダンジョンだと思えば武器を手放すことはできなかった。
風呂上がり、服をどうしようか迷い鑑定してから備え付けの浴衣を着る。インナーはダンジョン装備なので、まったく防御力がないわけではない。
浴衣姿で宿泊部屋に戻ると、料理を持ってきてくれた。
炊き込みご飯にお刺身に蒸し物。冷奴におひたしとお漬物。なかなかしっかりした量があると思いつつ写真を撮ってから食べた。
そして、寝る。モンスターに襲われることもなく、ダンジョンの中でぐっすり布団で寝られた。
最初は警戒してはいたのたが、あまりにも何もなさすぎて寝てしまっていた。
壁際にあった衝立を広げて、壁との間に空間を作るといつものダンジョン装備に着替える。でも、朝食があるので、手袋だけはまだ着けない。
着替えが終わると、部屋の様子を写真に撮る。混み合う中泊まりたくないから、情報を上げたくない。しかし、攻略を進める上で安全地帯というのは大事だ。
夜、仮眠しかとれないのであればこれから帰路につくのだが、これだけしっかり休めるなら一泊二日ではなく、もっと長期滞在をしてもいい。今日は帰るより先に進むことにする。
「おはようございます。お食事お待ちしますね」
女将スケルトンは布団を片付けると一度下がり、朝食を持ってきた。
白ごはんとお味噌汁に焼き魚。それからお浸しに梅干し。しっかり食べて、部屋を出て行く。
店まで降りると女将スケルトンの姿はなく、スーツ姿の店員スケルトンがカウンターの前に座っていた。
「おはようございます。買取お願いします」
会員証とチラシをだして、売りたい物をどんどんだす。ドロップ品の掛け軸、幼児の落書きみたいなのでさえ五百スケルになった。百スケルのスケルトンメダルよりはあたりだったらしい。
掛け軸は一番高いので五万スケル。手持ちの掛け軸に名画はなかったようだ。ダンジョンギルドに提出用に五百スケルの掛け軸だけ売るのを取りやめる。きっと、ダンジョンギルドでも高額にはならないが、情報提供にはなるだろう。
米俵は十俵を越えたので半分売ることにする。値段が六万円から八万だったので高い方から半分残した。
巻物は売らない。周囲に人がいない時にこっそり使いたいと思っている。
壊れたり錆びたりしている道具は全部売却。高額な物はあまりないが、細々と売って八十万スケルを超えた。それに手持ちのスケルをたすと五百万スケルを越えた。
早速ものの試しにカタログ注文をする。
枝垂れ藤シリーズはカタログにもあったので、イヤリングとネックレスとブローチを指差す。
イヤリングとブローチは現物があるようで持ってきてくれた。注文するのはネックレスだけになる。それもペンダントトップだけで、店で買った方がチェーンは安いみたいだ。
電卓で値段を表示したり、首を振ったりうなずいたりはしてくれるが、女将スケルトンのように流暢には喋らない。余った注文枠をお菓子で埋めようとしていると、甘味用カタログを持ってきてくれた。
店でバラ売りしている物は試食までさせてくれる。
気持ちよくお買い物して、三百万スケルほど支払う。引換券を渡され、会員証のランクが一つ上がり、上層二十二区のチラシを渡される。
持参したカタログと一緒に甘味カタログと食材カタログをもらった。
小太刀を買うためにお金を貯める予定が、思いのほか甘味を買ってしまっている。でも、わらび餅は美味しかった。水饅頭だってまるまる一個試食させてもらったら買わないなんて選択肢はない。
カタログ以外も甘味とお弁当をかってしまつまたのが、ダメだったかもしれないと思いはする。けれど、アイテムバッグに入れておけば腐ることはないから、無駄にはならない。
また稼げばいいのだと、決意も新たに二十二区を目指すことにする。
現在六時を過ぎたばかり、一区画一時間でいけば、休憩を取っても夜には二十二区のお店で泊まれる。しかし、予定外の事が起きて時間を取られたらお店にたどり着けなくなってしまう。
十八区までは移動を優先して、家探しは通り道だけにしておくことにする。時間があまるようなら、二十区を過ぎてから家探しに重点を置けばいい。
本日の活動方針を決めると、移動を開始した。
十五区で社長のいるパーティを見つける。あちらも気づくと手招きしてくれたので向かう。
「これどうぞ、今ダンジョンギルドに売っている情報は一番上のだけですが、そのうち二枚目以降も売ります。あと、上層二十二区もお店があるそうでチラシもらいました」
「二十二区か。大きなダンジョンみたいだな。Aランクパーティが二つ先行者しているから、三十区超えでなければ今日中に上層ボスくらいは倒すはずだ」
昨日十五区までで上層が終わっていたら社長たちが上層ボスに挑んだが、まだまだ上層は続いていたので、初回討伐の栄誉は別のパーティになったそうだ。
上層ボスを倒せないAランクパーティはいない。なので、ボスを前に争わなくてもいいように日替わりでボスに挑む順を決めていたそうだ。
万が一明日も上層ボスが倒されない場合は再び碧の騎士に順番がくるが、まずそんな事ないと、先に進むより間引きを優先している。
「二十二区まで一緒に行くか?」
「ゲート入口だけ、時間を合わせられるなら、一緒に行きたいです」
上層くらいなら即席でパーティに合わせるくらいできるが、疲れるのでやりたくない。
「一応一区画三十分から四十分の予定にしています」
攻略を方針を告げれば、試してみようと十六区に向かう。ゲートの前で時計を合わせる、三十五分に十七区のゲートで待ち合わせる。
社長たちは六人のメンバーを二人づつに分けてゲートに向かうそうだ。
先行したパーティがいるとはいえ、この先は探索者が少なすぎる。一つの区画に一人しかいない状態でスケルトンに群がられるのだけは避けたかった。
強くないとはいえ、数の多さは侮れない。
十六区で互いに誤差二分程度だったので、そのまま一緒に進み十九区のゲート前でお昼休憩をとる。
試食が美味しくてうっかり買い過ぎたわらび餅と水饅頭を渡す。竹の葉で包んだおにぎり弁当もなぜか三十個も買っていたので提供した。
「これが十二区の商品か」
「武器買いたかったんですが、お金が足りなくて気づいたら店員に勧められるまま買ってしまいました」
そう、確か三十個買うと割引率が一番よかったので、一個当たりの単価が一番安くなる三十個買いをしてしまったのだった。
「武器いくらだ?」
「大太刀八百万、小太刀で六百万スケルだそうです」
「百スケルのメダル八万枚か」
メダル一枚一スケルトンで八万体。この国のダンジョンは剣より刀が手に入りやすく、刀をメイン武器にしている探索者が多い。
緑の騎士の面々も新しい刀には興味があるが、八万体のスケルトンは相手にしたくないようだ。
「十万スケルのメダルも確認されているからな、下層あたりまで探索すれば」
「下層まで行けばより高い刀もありそうだよな」
カタログには一億スケル超えの刀が載っている。枝垂れ藤のセット装備にはならないし、買えるとも思わなかったから静香はスルーしたが、下層を探索場所にするAランクパーティなら入手できそうではあった。
でも、太刀を手に入れたらセット売りの脇差も欲しくなって、どんどん必要スケルは増える。それがパーティ人数分となると、なかなか大変そうだ。
休憩を終えても十三時前なので、ここからは一区画六十分で待ち合わせる。二時間に一回休憩をとり、二十二区で時間調整をしてから店に向かう。
社長には時間調整中に見つけた二十二区店のチラシを渡してあるので一緒に入れるはず。
空の色を確認してから中に入ると女将スケルトンがおり、静香は食事付で泊まる。社長たちも泊まるとこにしたようだ。
風呂は別々だが、雑魚寝だから寝る場所は一緒。知らない人と一緒になると思うと、ダンジョンギルドに情報を売るのを躊躇ってしまう。
「千鳥、この情報ダンジョンギルドに教えたか?」
「まだです。泊まれるのを知ったのが昨日で、そのあとずっとダンジョンにいました」
「売るのか?」
「売りたくなくて困ってます」
けれど、この情報があれば夜、眠れる。ダンジョンが普通の状態なら独占してもいいが、今は少しでも速くダンジョンの奥に進みモンスターの数を減らさなくてはいけない。
「スタンピード起こさせるわけにはいかないので、売りますが、社長の方から報告していただければ助かります」
女一人で有益情報ありとなると、ダンジョンの中でも外でも絡まれる。店の入店条件が整っていなければ、連れて行けと粘着されかねない情報だ。
風よけよろしくという思いは伝わったようで、社長から情報を上げてもらう事になった。
お風呂に入り食事をして、寝る段階になったら、静香は一番端っこに衝立を立て壁との間に隙間を作る。あと、別のダンジョンで手に入れた守護人形を頭上にセットした。
Aランクパーティ相手に守護人形一つで防衛できるとは思わないが、近寄られたら目は覚ませるので目覚まし時計代わりにはなる。
ダンジョン内の安全地帯で夜営すれば男女混合なのが普通で、布団もなく睡眠環境はとっても悪い。けれど、一人で独占して泊まる快適さを知ると、ずっと独占していたいと思ってしまった。
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