一章

第2話 新ダンジョン 1

 探索者ギルドの名前はだいたい創設者のパーティ名で、そのギルドのトップ探索者だ。

 登録探索者は常時三十名を超え、ダンジョン下層を安定的に探索できる中堅ギルドは、内勤の就職先としては人気がない。


 まずギルドがいつまで存続できるかわからない。現状、ギルドのトップパーティ碧の騎士に何か有ればほぼ確定で廃業になる。

 次に勤務形態が早出、日勤、遅出、夜勤の四つあり、シフトで勤務時間が決まる。子育て中の職員は日勤のみで、時短もあるが、独身者にそんな配慮はない。

 そして、このギルド給料が安かった。


 ワンルームの寮の部屋に住ませてもらっているからいいが、これで普通に家賃を払いながら生活するとかなり厳しい。生活費で給料のほぼなくなるか足りないレベルだ。

 そんなところだからこそ、千鳥静香ちどりしずかは就職できたとも思っている。


 最終学歴高卒。高校からの紹介で決まった就職ではあるが、試験期間中でもダンジョンに行かなくてはならないほどお金がなくて成績は良くなかった。

 何しろダンジョンができてからてスタンピードは何度となく起きており、国内だけで死者は五ケタにとどいている。


 そのせいで孤児は珍しくもなく、大人の助けを必要としている子どもはその辺にゴロゴロいる。

 静香のいた孤児院も過剰な孤児を収容しており、本来四人部屋のところに六人詰め込まれていた。


 もともとは就職しなければ、高校卒業まで面倒を見てくれる施設だったが、高校の入学が決まっても中学校卒業で追い出された。

 おかげで学費に家賃を含む生活費に、お金を稼ぐための探索者装備と日々綱渡りのカツカツ生活で、輝かしい青春時代なんてなかった。


 その頃にくらべれば、寮費と職員割引で買える探索者装備消耗品及び社会保障費やら税金を引かれてなんとか十万を超える給料はありがたい。

 まめにダンジョンへ行けば食費も抑えられる。次の支払いで全額消えるような貯金ではなく、毎月少しずつでも積み上がる通帳の残額に学生時代とは違うと実感できた。


 だから、ダンジョンから戻ってきたCランクのパーティが騒いだところで特に思うことはない。

 提出された素材を分類して、保管。出された書類に不備がないか確認して、問題があれば訂正してもらう。

 備品購入申請書なんかも、過剰申請はまず受理されないが、それを判断するのは静香じゃない。おそらくムリだと思いながらも、書類の形式として不備がなければ受け取り担当者に回す。


 ダンジョン上がりの探索者なんてだいたいみんな疲れている。そこで、書類の不備に説明すると機嫌が悪くなり、パーティでまとまっているせいか集団で騒ぎ出すのはいつもの事だ。

 これが嫌で事務職員の中には不備の訂正を求めないまま受け取る人もいる。


 これをやられると本当に手間がかかってしまう。探索者からしても出来高払いの給与を受け取れなくなるし、不備を回された担当者は探索者を呼び出して訂正を求めなくてはいけなくなる。

 なので、騒ぐのは所属して間もないCランクパーティだけ。書類形式になれたBランクになると、その場で訂正した方が早くお金を得られると理解している。


「静香ちゃん、よく不備を指摘できるわね」

「まあ、騒いでも職場で暴れることはないですから」


 学生時代からCランク程度の冒険者なら見慣れているというのもある。彼らにしてもギルドに所属したなら追い出されたくはないから強制脱退させられる様な暴れ方はしない。

 それでも、不快ではあるから騒ぐだけのことだ。


 冷静に対処したところで、騒がれれば不快だし、挑発するような言葉をかけられれば静香も苛立ちはする。

 そんなストレスを静香はダンジョンでモンスターにぶつけており、仕事帰りにダンジョンへ行ける早出を気に入っていた。


 早出が苦手な人もおり、おかげで出勤日の半分以上が早出になっている。

 ダンジョンで泊りがけの遠征を行ってきたCランクパーティを冷ややかに見送り、静香は勤務を終えるとダンジョンへ向かう。




 月に一回か二回しかない日勤の日にダンジョンギルドから電話がかかってきた。

 探索者ギルドは大手企業の子会社になっているところ以外は個人商店みたいなものだ。

 ダンジョンとダンジョンを出入りする探索者を管理しているダンジョンギルドだけが政府系ギルドになっている。


 ダンジョンギルドからの依頼は通常メールだ。書面を交わすのは正式依頼になってからで、ダンジョンギルドに提出する書類も不備があればたいていメールなので、電話がかかってくるのは珍しい。

 どうやら緊急依頼のようだ。


 住宅地のど真ん中にダンジョンができていたが、発見が遅かったようでスタンピード一歩手前になっている。

 近隣の探索者ギルド全てにモンスターの間引き依頼が出たようだ。


 一軒家で一人暮らししていた人が長期入院している間に和室の押入れがダンジョン化したそうで、発見者は家の様子を見に行った家主の親族。

 スタンピードが発生したら被害賠償しなくてはならないので、即ダンジョンギルドに家の売却手続きを取っている。


 私有地からダンジョンギルドの所有になり、探索者の出入りが可能になりなったところで緊急依頼が出たそうだ。

 現在依頼中の探索者以外、会社としては全員送り込むことになるだろう。所属探索者たちの休暇はしばらく返上で、事務職員もシフトが組み直しになる。

 明日の休日はたぶん消えるし、今日は残業。残業手当より副業の方が稼ぎがいいのだが、諦めるしかない。


 これが就職するってことかと、納得したふりをしていたら残業中に社長に呼び出された。

 長身でスーツを着ていても筋肉があるのがはっきりとわかる北見社長は、騒ぐ事も怒る事もほぼない。特に内勤の人には威圧感が出ないように気をつけているらしかった。


「明日、緊急依頼先のダンジョンに行くつもりならこっちは休暇にするが、どうする?」

「新ダンジョン、食材ドロップしますか?」

「今夜の差し入れがそうだ」


 寸胴鍋で豚汁ぽい物とおにぎりが残業者たちの夜ご飯だった。食材全てがダンジョン産ではないだろうが、なかなか豊富そうだ。


「行きます」

「なら、残業は終わりだ。明日に備えてくれ」


 やりかけの仕事を終えると、主任にだけ声をかけて退勤する。


「スケルトンと植物系モンスターが確認されているそうだ。気をつけろよ」


 三沢主任は社長からダンジョンへ向かうことを聞いているようで、モンスター情報をくれた。

 一人でも多くの探索者をと社長が判断したなら、モンスターが強いというより数が多いのが問題になっているのだろう。


 明日からは探索者ギルドに所属していない人たちにも声がかかりそうだが、いつものダンジョンをいつもどおりに探索してくれる人も必要だ。

 一箇所に探索者を偏らせすぎると、他のダンジョンもスタンピードを起こす可能性が高くなる。


 ダンジョンギルドはさぞ難しい選択を迫られているだろう。


 ネットでダンジョンギルドのエリア情報を調べれば、新ダンジョンはBランク探索者を含むCランクパーティ以上か、個人でBランク以上の入場制限がかかっていた。

 Cランクでも上位パーティを新ダンジョンに当てて、残りで通常ダンジョンの対応をするのだろう。


 寮に戻り、シャワーを浴びて明日の準備をしていたら職場からメールが届く。会社のパソコンから三沢主任が送ってくれたもので、六時に第一陣、八時に第二が向かうそうだ。時間までに正門エントランスに来ればダンジョンまで連れて行ってくれるらしく、第一陣で連れて行ってもらえるように返信を送る。

 早出勤務のときと同じように目覚まし時計セットして寝た。




 ルームシェアしている部屋に置いてある探索者装備は趣味用で、高校時代のサブ装備品。今日はしっかりとメンイ装備品で身を包み、食糧や薬は過剰なほどに持っていく。

 情報のないダンジョンは何が起こるかわからなくて怖い。ソロ探索者としては、五体満足に身体が動かせないと死ぬのと同じである。

 臆病なほどに備えるくらいでちょうどよかった。


 勇敢で傲慢な探索者はそのうち探索者として見かけなくなる。大抵は死亡で、生き残っても身体が欠損していたり、心が折れたり壊れたりして引退ししまう。だから、移動のマイクロバスに乗り込んで絡まれたところで相手にはしない。


「千鳥はソロBランク。装備は全部自前だ。中層ボスくらいならソロで狩るからな。ダンジョンギルドから個人指名でダンジョンに送ってくれて依頼があんだよ」


 社長判断ではなく、ダンジョンギルド支部の判断だったようだ。

 副業探索者は、所属先によっては休みが得られない。なので、所属先に協力依頼が出される。

 依頼なら拒否できるが、だいたいそのあと協力命令がでる。で、こっちは拒否すると罰金が発生する。そして、罰金を払わないと強制徴収されるので、協力依頼の間に予定調整を行い送り出される。

 そうして、こっそり副業探索者をしていた人は職場バレしてしまう。


 静香の今の状態がまさに職場バレ。

 もともと管理職と直属な上司三沢主任は知っていたが、騒いで面倒そうな所属探索者にはバレたくなかった。


「なんでそんなヤツが事務員なんだよ」

「入社試験に事務職希望できたからだよ。一応、面接で所属探索者になるかも聞かれていたぞ」


 ソロなれすると人と合わせなくてはいけないパーティは辛い。特に探索者としての高みを目指しているわけでもないなら、パーティを組むメリットもない。

 一応、パーティ登録はルームシェアメンバーでしているが、全員揃ったの活動なんてほぼなかった。たまに時間の合う相手と二人でダンジョンに行くことがあるくらいだ。


 誰かと一緒にダンジョンへ行くならパーティを組んでいた方がいいし、面倒な勧誘を断るにも使える。勝手にパーティに組み込まれて申請されても弾かれて、いろいろ都合がいいから登録している。

 パーティ名は副業探索者♪。副業探索者だと同名のパーティがあると申請が通らなかったので最後にハートマークをつけたらそちらも通らなくて音符になった程度の名前だ。


 絡んでくる声をガンスルーして、副業探索者♪のリーダーも仕事調整がつき次第新ダンジョンに来ると予想する。

 あの人はAランクの探索者だ。来ないわけにはいかないだろう。


 ダンジョンで会えたなら、ご飯くらいは一緒にしたい。そのためにも食材を集めなくてはと決意した。


 個人情報をペラペラとしゃべってくれた碧の騎士パーティの一人を、静香は冷たい目で見つめる。このパーティの人は探索者ギルド碧の騎士という会社にとってはみんな幹部職員として在籍しており、面接の時もいた。

 バレてしまったものを今更騒いでもなかったことにはならない、移動時間を黙ってやり過ごした。


 マイクロバスが到着すると、さっさと降りる。すでに私物は運び出された空き家状態の家に土足で上がり込み、入口だけ様子見に一緒に入ったら、モンスターのほとんどがスケルトン。


「食材落としてくれるモンスターどこ?」

「どこでも出るよ。昨日は上層三区までしかいけてないが」


 視線をそらして答えられたが、意を決したように静香を見てくる。


「千鳥、君。スケルトンダンジョンだって言ったら依頼断っただろ。事務職に依頼断られたら探索者ギルドとしての評判に関わるんだよ」


 一割以下の確立だが、植物系モンスターが出るというのもウソではない。昨日の差し入れから主任の情報提供まで含めてハメられたということだ。

 来てしまった以上、モンスター狩るしかなく、刀を抜く。横一線するとスケルトンが四体魔石とドロップ品を残して消えた。


 さすがに入り口そばから数が多い。そのせいで上位探索者も探査が進んでいないらしく、昨日頑張った碧の騎士は午前中はパーティとしてはお休みで午後から探索するそうだ。

 パーティとしては休みでも探索者ギルドの幹部としては仕事があるようで、静香の送り出しもその一つ。


「ここのスケルトンレアドロップで米を落とすから。幸い数だけは多い。一日あれば食材も手に入るよ」


 昨日の時点でスケルトンから、味噌、醤油、日本酒もレアドロップとして確認されている。調味料が出るダンジョンは少ない。

 少しばかりやる気を出して一人ダンジョンの奥へ進んだ。


 属性付与もなく、ただの一刀で殲滅されるスケルトンは弱い。強いスケルトンはいくら切っても再生してくるらしい。

 奥へ進めばそういうスケルトンも出てくるだろうが、一区にはいないようだった。

 けれど、このダンジョンは今通常状態ではない。だから奥にいるべき強いスケルトンが上がってきている可能性もあり、きっちり魔石になるまでは油断できない。


 静香一人で奥に進めば、いずれ数の暴力に負ける。二区に進んだ人が増えるまでは一区にいて、先に進むことを優先した探索者たちが放置しただろうエリアを調べた。

 何しろダンジョンの中は住宅街が広がっており、大抵の家の中には入れない。けれど、一つ一つ丁寧に調べれば入れる物もあった。


 駐車場にも見た目だけ自動車があり、こちらも調べれば中に入れる物もある。あと、郵便受け。意外と中を確認できる物が多くてあった。

 スケルトンの通常ドロップが魔石とスケルトンメダル。メダルが通常ドロップになっているダンジョンは高確率でメダルを通貨にしている店があるらしい。


 そして、郵便受けに入っていたチラシには上層五区店の割引券がついていた。ちょこちょこ家探しして、手に入るのもスケルトンメダルであることとを思えば、店があるのは確定と言ってもいい。

 かつての勇者を主人公にしたRPGのようにタンスをあさり、持ち上げられる物を壊しスケルトンメダルを集めていく。


 そうしてそろそろ昼休憩でもしようかと思った頃、侵入して家探しいた家で転移トラップを踏み抜いた。

 やらかしたと気づいた時には遅く、どことも知れない場所に送られてしまう。


 まずは転移先がモンスターハウスではなかった事を喜ぶ。即死系の罠でもなく、身体も十全に動くからデバフもなかったようだ。

 ただ転移しただけとなると、ショートカットコースになるかも知れない。


 転移先は和室。モンスターもいないので、家探しする。押入れを開けると三段の引き出しがあり、上段に巾着に入ったスケルトンメダルと、風呂敷に包まれた藤の花の絵付けがされた懐刀と中段には巻物が入っていた。下段を開けると簪がでてきて、ありがたく全部もらって行く。


 家探ししたがモンスターが沸くようなトラップもなく、安全確認できたのでお昼ご飯にする。

 本日のお昼ご飯はおにぎりと水筒で持ってきたお茶。おにぎりは作る時にラップで巻いて大量に作り、アイテムバッグに詰め込んでいる。

 お茶も同じ方法ができるが、本日のお茶は今朝沸かして入れた物だ。


 ダンジョンに入るかどうかに関係なく、静香が常時身につけているアイテムバッグはかなり性能がいい。何しろ中層までしかなかったとはいえ、ダンジョンボスからのドロップ品だ。

 容量ランク三の時間遅滞ランク五で、売れば一財産になる。殺してでも奪いたいと思う人が出るような物なので、腰に巻くタイプの偽装鞄に入れて使っていた。


 アイテムバッグは容量ランク一がおおよそ十㎥。ランク二が百㎥でランク三が一k㎥。ランク二でさえ巨大倉庫並みだが、ランク三になると物流ハブ集積所並みになる。

 個人使用でいっぱいになることはまずない。


 時間遅滞ランク一がおおよそ五十分の一時間。本日中にお食べ下さいと注意書きのあるケーキが二日ちょいは大丈夫で、ランクが上がる事に効果が十倍になる。

 ランク五は二万日以上大丈夫で、年単位で大丈夫な分賞味期限より存在を忘れそうな仕様になっていた。


 そのせいで、静香は売りに出せない物は何でもかんでもアイテムバッグに溜め込んでいる。

 学生時代から溜め込んでおり、金はないが売れば金になる物はたくさんあった。


 売らない理由は売った後の手続きが面倒だからだが、現在その面倒な手続きの代理が職務となっている。慣れたら簡単だと思える様になれば、いつかは売り払うかも知れない。

 そうすればAランクへの昇格することもできるが、静香は昇格への意欲が高くなかった。


 ランクが上がれば優遇されるが、その分責任も発生する。英雄願望もないため、危険に突っ込んで行きたくもなかった。

 探索者は副業であり、ちょっとお金になる趣味でいい。


 ゆっくり噛んでおにぎりを二つ食べると手に入れたばかりの品々をお茶を飲みながら鑑定する。

 鑑定スキルもあるが、鑑定ルーペを使うとより詳しく調べてらることができた。


 自前の鑑定スキルはまだまだ育てきれていなくて、ドロップ品や見つけたアイテムを触っても安全かどうかを判断する材料の一つでしかない。

 鑑定より、スキルでもない触ると危険という勘の方が精度が良いくらいだ。鑑定ルーペなしでは、アイテムの効能なんかはわからない。


 まずは簪。


 枝垂れ藤の簪。魅了耐性二。幻覚耐性三。幸運二。


 かなり派手だが効果はいい。早速装着して、アイテムバッグからヘアピンを取り出して落ちない様に固定する。

 探索者装備にまったく似合っているとはいえないが、耐性アイテムは大事だ。

 特に引っかかっていると自覚しにくい魅了と幻惑は、ソロ探索者にとっては致命的な結果になりやすい。


 次に調べたのが懐刀。


 枝垂れ藤の懐刀。

 魔を斬り、幻を斬り払う。物理攻撃十。魔法攻撃百二十。魔力効率四十%上昇。


 いつでも使えるように腰のベルトに装着する。それからスケルトンメダルの入っていた巾着を鑑定すればアイテムバッグだったので、今まで集めたメダルは全てそちらに移す。

 アイテムバッグは容量の大きい方に容量の小さい方を入れる事はできるが、逆はできない。

 空のアイテムバッグでも容量最大値で空間を占拠するので、アイテムバッグにアイテムバッグを入れて容量を増やす様なことはできなかった。


 鑑定結果から推測するなら、このダンジョンの奥には魅了及び幻覚を使うモンスターがいる可能性が高い。これは上層だけで終わる小さなダンジョンではないと、静香は警戒心を高めた。

 飛ばされた先がせめて中層まであってくれと願いながら、水筒を片づけ、安全地帯と思われる和室から出る。


 短い廊下を抜けると玄関があり、そこから外へ出た。出た途端スケルトンが六体おり、横一線する。

 まだスケルトン強くない様で、上層にいると知れた。


 上層なら帰還ルート探しを急ぐこともない。一区でやっていた様に家探しを優先させてもらう。

 ただ、ここはまた間引きが始まっていない様で、スケルトンが多い。次から次に出てくる。


 このペースでモンスターに襲われたら強個体がいた時危険だ。強そうなパーティに間引きしてもらうまで先に進まない事を決める。

 行くにしろ戻るにしろ、区画を分けるゲートがあるが、そのどちらもが見つからないうちにお店が見つかった。


 カウンターの奥に座っているスーツにネクタイ姿のスケルトンがいたので鑑定してみれば、店員スケルトンとなっていた。

 ノンアクティブらしいので、攻撃しなければ攻撃してこないはず。一区で見つけたチラシをだして、問いかける。


「この店?」

「この店。一割引」

「何ある?」


 言語スキルは持っているがレベルが低い。なので長文で流暢な会話はできなかった。

 それでも、単語で意思の疎通はできる。


 店員スケルトンの言語スキルのレベルが高けばよかったのだが、静香と同レベル以下と推測される。


「金による」


 スケルトンメダルを入れている巾着袋を取り出し、カウンターの上でひっくり返す。


「何買える?」

「武器、防具、飾り、薬、食料」

「買えるの全部」


 スケルトンメダル、どうやら複数の種類があった様だ。四つの山に分けてそれぞれの枚数を数え金額を教えてくれる。


「三百六十万、四百スケル」


 スケルが通貨と思われるが、価値がわからない。待っているとお盆に乗せて商品を見せてくれる。

 まず最初は武器。一番高いのが四百万スケル。たぶん一割引で三百六十万になるから見せてくれたと思われる。

 その隣には二百万円スケルと百万スケルのがあり、防具、飾り、薬と同値段帯の物をそれぞれ見せてくれた。


「ルーペ、見ていい?」


 鑑定ルーペを見せながら問えば良いと返事をもらえ、じっくり見せてもらう。

 悩んでいると店員スケルトンから声をかけられた。


「枝垂れ藤、三つ、効果上昇」


 ベルトに付けていた懐刀と簪を指差し、クナイ十八万スケルと小刀二十万スケルを見せてくれる。

 どっちも懐刀より刃が短いので欲しいとは思えない。


「太刀は?」

「八百万スケル」


 一割引してもらっても全く足りない。小太刀も聞いたら六百万スケルだと言われた。


「枝垂れ藤、ほかは?」


 手拭い一万八千スケル。浴衣八万スケル。アイテムバッグになっている巾着袋三十万スケル。ゲタが五万スケル。足袋が三万スケル。


 浴衣とゲタでモンスターと戦える気がしない。草履ならギリやれるかと思い問えば枝垂れ藤の草履はないそうだ。

 おそらくセット装備で数が多い方が効果が高いと思われる。

 手拭いと巾着袋と足袋は取り置いてもらいまだあると言う次の商品を見せてもらう。


 ちなみに羽織袴と振袖はどっちも六百万オーバーで、紬も四百五十万オーバーだった。


 髪紐六万スケル。お守り、魅了耐性、幻覚耐性、必中の三種で各五万スケル。

財布、薬入れ、小物入れ、櫛、手鏡、手紙箱と装備じゃない物まで見せてくれた後、指輪と腕輪を出してきた。

 百二十万スケルの指輪と二百二十万スケルの腕輪はどっちも買うことにして、後は買える範囲で身につけられる物を、なるべく多く買うことにする。

 残りのお金で丸薬を各種買い、さらに残りで炊き込みご飯と饅頭と串団子を買った。


 全額使い切ると厚紙でできた長方形の会員証とチラシを一枚くれる。

 鑑定すると会員証はランク二で、八%割引の優待券として使える様だ。チラシは一割引の券がついており、お店の場所が上層十二区となっていた。


「ありがとう」

「また、な」


 店をでると、手拭いを首に巻いてお守りをポケットに突っ込み、手袋を外して指輪と腕輪をはめた。

 これでセット装備としての効果が出ているはずだが、ルーペを使っても静香の鑑定スキルでは効果を見ることができない。


 この辺りのスケルトンが弱すぎて、攻撃力が上がっているのかどうかさえ判断が難しい。自覚としては上がっていると思えば上がっている様な気がする程度だった。


 先に六区へ向かうゲートを見つけたので、それを背に四区に向かうゲートを探す。探していたゲートを見つけると少し休憩することにした。

 ゲート前は安全地帯と言うわけではないので、立ったままで両手が塞がる様なことはしない。

 お店で買ってきた串団子をちょっと食べるくらいだ。


 串団子を二本食べている間に、三回スケルトンの集団に襲われ、食べ終わってから魔石とドロップ品を拾う。やっと米が出た。

 米はいいんだか、一俵六十kg。アイテムバッグがないと持ち帰るのも大変そう量だった。


 味噌と梅干しが壺で、醤油が樽。重箱でおはぎと、店を出た後食材や調味料がドロップする様になったので、簪の幸運値は上していそうだ。


 水筒のお茶を飲んで休憩終了。後は帰るだけだが、できれば四区の間引きが終わってから移動したい。

 誰か来ないか今少し待つことにする。


 六回ほどスケルトンの集団を殲滅したところでゲートが開いた。


「あっ、社長」

「なんでいる」

「一区で罠踏み抜いて飛ばされました。間引きの終わってない区画二連続ソロではきついので、誰か来ないか待っていたところです」

「あー、無事でよかったな」


 にこっと静香は笑う。


「五区の情報いります?」

「その様子だと聞いた方が良さそうだな」


 一区で手に入れたチラシをそっと渡す。


会社ギルドからの情報提供にしていいですか? 個人での情報提供だと後々面倒なので」


 ダンジョンギルドへの情報提供もお金になるが、これも課税対象だ。いくらになるかわからない情報は確定申告が怖いのでやりたくない。


「高額情報になったらボーナスよろしくお願いします」


 そうは言ってみても上層の情報だ。ものすごい高額という事はないはず。


 ダンジョンギルドに提供する情報を知らないままではまずいと、口頭で伝えたが書面でも提出してくれた言われてしまった。


「明日のシフトが早出なので、会社で書面を作っていいなら昼までには提出できます」


 それでいいと言われたので、とっとと帰ることにする。




 夕刻、ダンジョンを出ると手書きの看板が貼られていた。リビングに臨時買取所ができているそうで、見に行く。

 何人か人はいるが、カウンターに並んでいる人はいないので早速魔石と探索者カードを提出する。


「多いな」

「発見の遅かった新ダンジョンならこんなもんでしょ」


 情報提供があるなら二階へ行くように言われ、探索者カードを返してもらい、二階に回る。二階にある三部屋それぞれで個別対応しているようだ。

 一組待ってから一番奥の部屋に入る。日に焼けた畳の跡から壁際には箪笥でも置いていたかも知れないと推測できた。


 私物は全て運び出されているとはいえ、生活痕は残っており、本当に普通の家にダンジョンができたのだと知れる。


 探索者カードとあまり使う事ない名刺を出して、個人提供ではなく碧の騎士ギルドからの提供にてきるなら話すといえば、その様に対応すると約束してくれた。


 ダンジョンで入手した物はダンジョン探索で使うから提供を拒否すると、店で買った物とチラシの写真を撮り鑑定をさせてくれと頼み込まれる。


「手の内さらすのは嫌ですが」


 嫌だとゴネつつ、セット装備の効果が知りたいので詳細鑑定の結果を教えてくれるならと指輪と腕輪と懐刀を除く品々を写真撮影応じる。

 写真をパソコンに取り込むと、ものすごい勢いで鑑定結果を書き込んでいく。


「おやつ食べていてもいいですか?」

「どうぞ」


 饅頭を取り出し、食べる前に思い出す。


「あっ、これもダンジョンで買ったヤツだ」


 すごい顔して黙って写真を撮ろうとするので、自分の姿が写らないよう新しい饅頭を出して机の上に置く。


「菓子団も写真撮りますか? あと、丸薬も」

「全部出せー!」


 饅頭に疲労回復効果があると教えてもらったので、叫びたくなるほどお疲れらしい担当者に饅頭を一つ上げる。


「賄賂は受け取れん」

「いや、鑑定の実証効果を知るためって事でどうですか?」

「効果実験なら有りだな」


 君が実証効果を知りたがった結果だからなと、念押ししてから食べてる。何しろ、今ダンジョンにいる探索者が帰ってくるのはこれからだ。

 きっと疲労回復を実感する事だろう。


 入力が終わるとその場でA4サイズの紙に出力してくれる。一枚に六個の鑑定結果があるが、ダンジョンギルドのロゴはどこにもないので鑑定証としては使えない。

 高位の鑑定スキル持ちなら写真からでも詳細がわかるそうで、詳細な結果は情報料から天引して後日通知になった。

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