サブストーリー

第??話 大事な人

私のお母さんはとても綺麗な人だ。外に出れば人の視線を集めないことはなかった。学生時代に告白してきた人数は数え切れないみたいで、男性不信になっていたそうだ。


私はそんなお母さんに似ているのもあって、高校生になるまでに軽く数えて90人以上の人に告白されてきた。


でも、そんなお母さんには今、どんな男の人よりも愛する人がいる。それが私のお父さんだ。


すらっとしてる割にはガタイが良くて、声が太いまさに男の中の男みたいな人だ。2人の馴れ初めは聞いたことないけど、お母さんいわくある日、買い物に出かけた時に足元にあった小石に気づかずに混んでしまって、その時に助けてくれたのがお父さんらしいの。


で、その時はお礼をしたら「いえ、お構いなく」と言って去ってしまったらしくて、ふと足元見てみたら会社の名刺が落ちてたっぽくて、その後は――


それでお父さんの優しさに引かれたお母さんは猛アタックの末にお父さんは完敗して無事に結ばれた。


それから私を産まれたの。2人は私ができてもずっと仲良しで、喧嘩をしてるところ見たことがない。


たまに口喧嘩をしてるのを見るけど、でもその後は大体お父さんが真っ先に怒ってた理由とかを話して謝って、それを聞いてお母さんも謝って仲直りするって言うのがお決まり。


私はそんな2人が大好き。


私にもずっと愛せる人いないかなって思ってるんだけど、なかなか現れない。


そう思っていたある日――


「陸斗さん! 大変!」


「ん? どうしたんだ?」


私が中学1年生になってしばらくだった休日。その日はお父さんの仕事が休みで、お父さんは家にいた。そんな矢先にお母さんが慌ててリビングに入ってきた。


「夜狼さんが……事故にあったって……」


その話を聞いた時、目を疑ったのは私だけでなくお父さんも同じだった。一瞬のうちにしてリビングは沈黙に飲まれた。


「結婚5年目のお祝いに旅行に出かけてたみたいなんだけど……その旅行先で……っ!」


「とりあえず落ち着いて……君が慌ててもしょうがないだろう。ゆっくりでいいから話して」


お母さんの言った夜狼さんという人は知っている。お母さんのお姉さんの名前だ。


私も小さい時に会ったことがある。お母さんと同じくらい美人さんで、優しい人だったのを覚えてる。


そんな人が突然にして事故で亡くなった。


病院から電話がかけた時には既に息を引き取ったらしい。夫婦揃って亡くなったのだという。


―――――――――――――――――――――


それからは早かった。夜狼さんの葬式が身内と、知人だけで行われて、私も同席することになった。


たくさんの人が涙を流していたのを未だに覚えてる。


でも、そんな中でただ1人だけ涙も流さずにただ呆然と縁側に立ち尽くしていた男の子がいた。顔立ちがあまりにも整ってるものだから、つい見惚れてしまったけど、そんな思いは直ぐに消えた。


なぜなら彼は表情と裏腹に強いほどに憎しみを宿していた。悲しいでもなく、ショックだからという訳でもなくて、ただ純粋に憎しみが宿っている。


気づいた時には――


「ねぇ、君、名前は?」


「……」


声をかけていた。

男の子はゆっくりと私の顔を見て黙り込んだ。


「私は波夜瀬玲奈。中学1年生だよ」


「……俺は夜狼怜……小6……」


あ、この子お母さんのお姉さんの子なんだ。


「じゃあ怜くんね」


物静かな子だなって言うのが第一印象だった。

必要以上の会話をしないで、初めてあったのにいきなり名前呼びされたことにも触れずにただ黙って外を見ている。


「好きなの? この景色」


「初めて見たんだ……ずっと部屋に籠ってたから、学校に行く途中の景色しか知らない」


「そうなんだ……」


私も怜くんに並んで外の景色を眺めた。凄く綺麗な庭で、思わず時間を忘れてしまいそうだった。


「あ、ここのいたの?」


「あ、お母さん」


それから数分して、葬儀をを終えたお母さんが迎えに来た。


「あら、怜くんじゃない」


「どうも……」


怜くんはお母さんに軽く頭を下げた。


お母さんのお姉さんの子供なのだから、お母さんが知っていても当然か。


「怜くん、これからどうするの?」


「どうすると言われても……行く宛てなんかないですよ……」


お母さんから聞いた話だとお母さんの祖母は既に無くなっているみたいで、そうなると怜くんが引き取ってもらえる場所はないということになる。


「そうね〜……あ、ならうち来る?」


「はい……?」


「ちょうど1人分の部屋が余ってたから、怜くん1人増えるくらいなら問題は無いわよ?」


「いや、でも……」


「一緒にいようよ怜くん」


ふとそんなことを口にしていた。


ただ、この男の子を放って置けない気がしたから。一人で立たせていたらボロボロになって倒れてしまいそうな気がしたから。


「玲奈ちゃんもこういってる事だし、陸斗さんも許してくれると思うわ」


「……分かりました」


怜くんは諦めたように頷いた。

これが私に初めて義弟が出来た経緯。


これが私が初めて人を好きになった瞬間である。たった一人の男の子。彼が私の家族と同じくらい大切な人。


―――――――――――――――――――――

【あとがき】

こんにちは、またはこんばんは作者です。


今回の話は玲奈のサブストーリーです。本編から思いっきりズレましたが、たまにはありということで。


とはいえ、前に怜の両親が亡くなっている話を書いた後に謝罪したくせに、今になってまたその話を蒸し返すようで申し訳ないです。


ですが、そうでもしないと怜と玲奈の関係を表すのが難しくて、もう少しお付き合い下さい。


もし、この胸糞展開を許してくれるのなら応援よろしくお願いします。


ではまた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る