第53話 聖夜の夜に頼れる存在
投稿が遅れてしまって申し訳ないです……!
文字数多いですが最後まで読んでもらえると嬉しいです。
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時刻は午後6時半。おおよその生徒たちがテーブルに集まったのを壇上から確認した怜は、舞台袖で待機している玲奈に合図を送った。怜からの合図を受けた玲奈は壇上に上がり、今回の企画の代表である玲奈の挨拶が始まる。
パーティー参加のお礼から始まり、来月一月から始まる受験シーズンを今まさに追い込んでいる三年生に対しての労いの言葉、それからパーティーの簡単なタイムスケジュールと注意事項を軽く話した。
あまり長すぎず、あくまで参加者のテンションを下げないよう、短く簡潔に。普段から人前で話すことが多い玲奈だからこそできることだ。
「——それではみなさま、乾杯!」
玲奈の言葉を合図に、会場は明るい雰囲気に包まれる。
黒と紺色が混ざったような花柄のドレスを着ているおかげで、怜は葵の位置はすぐに確認できた。
クラスの女子たちと飲み物が入ったグラスをカチンと鳴らして楽しんでいる様子が見えているため、当分は大丈夫だと思い、そのまま舞台袖に消えていった。
「緊張した~」
「まだ始まったばかりなんだから、疲れてるわけにはいかないわよ。……怜くんはこれから監視カメラの確認だっけ?」
「はい。基本的に何もなければ動かないつもりです。まぁ、腹減ったらさすがに動きますけど」
「こまめに休憩してくださいね。ずっと同じ画面を見ていると集中力も切れて危険なので。正味1時間を目安に休憩してください」
「了解です」
1時間程度であれば、普段怜がゲームをしている時間と比べ物にならないため、休憩をはさむくらいなら出来ると思った。
念のためのスタッフ用の腕章を右肩につけて怜は画面の前にある椅子に座った。
その後、パーティーは順調に進み、生徒会が企画していたゲームも大盛況となった。中には別の組と交流を深めて、新しい友達を作る人もおり、また学年内でも新しい輪が生まれたりもしていた。
そして――
「よ、楽しんでるか?」
「あぁ、それなりに。怜は?」
「ずっと監視役だからな。楽しむも何もないんだよ」
「それはご愁傷様。でも、思った以上に楽しいよ。中学の時には見えなかった光景かもしれない」
「まぁ、中学はこういうことをやるのは禁止してるところもあるしな」
怜のいた中学では皆がそういったことを好んでいたとは限らなかった。賑やかなのも、静かなのも、ひっくるめて一つの学校が成り立っていた。子供だからというレッテルを張られていた中学生にとって、高校生になり、つま先だけ大人の仲間入りを果たしてからは、こういったパーティーは夢のような時間であろう。
ある程度の自由を与えられているのだから楽しまないという選択肢はないだろう。
「でも、やっぱ俺はこういう雰囲気は慣れねえな」
「昔からお1人様主義だもんね」
「静かのはいい事だ」
「はいはい」
怜が基本的に一人でいることを望むのは、単純に周りが静かだからというだけではない。静かになることによって自分で考える時間が広がるからだ。誰かに左右されて、誰かの意見に従順な時間は怜にとっては苦痛でしかなかった。
自分で選んで、自分の好きなことは全力でできる空間が怜は好きだった。もとより怜は人よりも頭がいい。考える間もないことは重々承知している。ただ、すべてのことを自分で考えないのは、渚や玲奈と求めて探し回っている時の感覚が好きだからだ。
「姫野さんのところいかないくていいの?」
「あいつあいつで楽しんでるし、それでいいんじゃないか?」
「いいでしょ、どうせ暇なんだから」
渚に背中を押されるや否や怜は葵の所に向かった。
何かと怜は渚に動かされることが多い。
葵はクラスメイトの女子たちと楽しく話している。
ふと怜が近づいてきてることに気付いた葵は軽く手を上げて挨拶をした。
「楽しんでるか?」
「うん。おかげさまで」
「そっか」
怜は軽く微笑んで近くにあった飲み物を呑んだ。
すると近くにいたクラスメイトの女子から声をかけられた。
「夜狼くんって私服、センスあるね」
「ん、あぁ、たまに玲奈とかいに行くからな」
「やっぱ玲奈先輩と仲いいんだ~」
「姉弟で仲がいいっていいよね~私んて弟に邪魔者扱いされてるもん」
学園の中で怜と玲奈が義理の姉弟であることを知っているのは、渚、青葉、薫、そして葵の四人だ。それ以外の生徒には玲奈と怜が実の姉弟であると認識されている。
「あ、そういえばずっと聞きたかったんだけど、夜狼くんと渚くんっていつからの仲なの?」
「初めて話したのは……小5の時」
「へーじゃあ高校生になるまでその関係が続いてるってすごいね」
「そうでもない。意外と小学校から大学まで幼馴染ってやつはいる」
「いやいやないでしょ!? そんなミラクルどうやったら起きるの!?」
実際に小学校から中学生まで幼馴染が続くことはあるが、それ以上の関係が続いている人は滅多にいない。ただ、怜の知る中でそういった関係が続いているのは明菜と青葉の二人だ。
青葉と明菜は小学生のころから今まで同じ中学、高校、大学と進んできている。腐れ縁と言うやつだ。
「なんか夜狼くんって硬い感じだったけど、こうやって話すと案外話しやすいかも」
「ねっ! なんかいつも渚くんとか姫野さんとしか話してなくて、他の人が話しかけてもほとんど無言だからさ〜」
「いや……普通に話すのが苦手なだけで……」
元々怜は誰かと話すこと自体が苦手だ。渚と初めて話した時でさえまともに会話ができなかったほどに、怜はコミュ障なのである。
「あれ? でも姫野さんと夜狼くんって前まで話してるところ見たこと無かったけど、なんか気づかないうちに話すようになってたよね?」
怜と葵は肩をビクつかせた。
これまで怜と葵はクラス内だけでなく、外でも1度も会話したことがなかった。同じクラスになって約半年もの間、1度も会話していない2人がある日を境に、突如距離を縮めたのだから気にならないはずもない。
「もしかして2人ってどっかであってたりした?」
やけに鋭いクラスメイトの女子に怜は警戒してしまった。葵も同様で、警戒よりも先に困惑してしまっている。
「いや、会ったというか、生徒会関係で玲奈の手伝いをすることがあるから」
すかさずバレないように否定をする。
「そっかーてっきり面識あったけど、バレないように話してないものだと思ってた」
ニカッと笑う女子に怜は明菜と同じ恐怖すら覚えた。
それから怜は仕事に戻り、残りの時間はパーティーに出されている料理を食べながらパーティー内の感じをした。
パーティーも多ずめとなり、最高潮の盛り上がりを見せ、その日は終了となった。
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「お疲れ様〜」
「お疲れ様です」
参加者が全員帰った後に、生徒会メンバーはステージ上に集まった。
「特にこれといった事件もなくてよかったわね」
「ほんとね〜。例年に比べたら割とスムーズに進んだ気がするわ」
「例年の異常さがよく分かりますね……」
これまでのクリスマスパーティーとなると、高学年によるナンパや、ふざけた生徒により危うく怪我人が出かけるという、あまりにも異常なまでの事件が起きていた。
その度に休み明けに学園全体での集会が開かれ、青葉からの指導を食らうのがお決まりとなっていたが、今年はそういったことがなさそうで、生徒会メンバー全員が安堵していた。
「すみません、今日1日手伝うことが出来なくて……」
「あら、いいのよ〜? 今年の準備の人手は足りてたからね」
「まぁ、作戦より企画の数を減らしたからな」
昨年のパーティーでは、例年通りに企画の数は多めだった。そのため、生徒会メンバーとボランティア係の人を合わせたとしても、パーティーが終わったあとは疲労感だけが残ってしまっていた。
そのため、今年の企画数は怜の発案で減らす形となった。その分、ひとつの企画にかける時間が多めに取れたことで、参加賞や、優勝景品の予算を割と高めに設定することが出来たのだ。
結果的に覚えることが少なくなったことで、玲奈たちの負担はかなり減った。
「さて、ここで雑談しててもなんだし、早めに片付けて私たちも解散にしましょうか。もう時間も遅いし」
「そうね。あまり遅くなると心配されちゃうし」
時刻は既に夜9時を過ぎていた。
あまりにも遅くなるとそれぞれの家の親が心配してしまうため、怜たちは雑談を1度やめてパーティーの後片付けに入った。
あいにくゴミは個人で持って帰ってくれていたようで、片付けるのはテーブルなどの小道具だけだった。
それから30分ほどして、一通りの片付けを終えた怜たちは、自分たちの荷物を持ちホールの外に出た。
「じゃあ、俺たちこっちだから」
「うん。お疲れ様怜くん、葵ちゃん」
怜と葵は玲奈たちと別れて帰路についた。
「なんかどっと疲れが出てるような感じがする」
「楽しめたか?」
「うん」
「そうか」
「僕、初めてかも。こうやって誰かとパーティーに参加するの」
「初めて?」
「うん。これまでクリスマスも誕生日ですらも私は1人だったから……」
葵が俯いたことで怜はなんと言っていいのか分からず口ごもってしまう。
時折見せる葵の虚ろな表情を見た時に、怜は自分と重ねてしまう。得るものを全て持っていたはずなのに、人の期待から逃げるために全てを捨てた自分。それによって期待を裏切られた人の数を怜は考えたことがなかった。
いや、考えることすらも放棄していたのだ。姉の玲奈や、自分の母親、明菜は怜が期待から逃げると決めた時に何を思ったのかは、考えようともしなかった。
そして、その答えを知ってしまった時に怜はおそらく、今の葵と同じ気持ちになるのだろう。
「ごめん……こんな話はするもんじゃないね……っ」
怜が黙ってしまったのを感じた葵は顔を上げ、怜に微笑んで謝罪した。
その顔を見た時に怜が思ったのは、『今の葵は嘆いている』ということだった。
これまでの葵は姉である薫を素直にならないことで嫌い、自分の親ですらも嫌っているようだった。
一人でいることを慣れているように見せて本当は辛い思いをしていた。だが、その感情に助けを求められる人が一人もいなかった。
自分は強いのだと。自分は人の力を借りることなく立っていられるのだと。自分は完璧でなきゃいけないのだと。そう思うことでその感情を必死に隠していた。
そして、周りはその奥底に眠る葵の思いに気づくことなく、なんでも出来る葵のことを完璧超人だと言って持ち上げた。いつしか葵は近ずきがたい存在となり、『孤高のお姫様』と呼ばれる存在になってしまっていた。
そんな状態で一体どうやって助けを求められるのだろうか。
泣きそうになるのを必死にこらえる。それでもあふれ出てきてしまいそうなほどに辛く、孤独という言葉が葵の心を蝕んでいく。
助けてと囁けない自分の弱さがひどく悔しかった。一言いえば報われるのかもしれないのに、その一言が出てこない。それがどれだけ辛い事か、それは葵だけにしか分からない。
ただ、この男を除いては――
「……!」
突然、自分の頭に添えられた大きくて頼りになる手。葵は混乱した。
その手が怜のものであると分かっていても、なぜ怜がそのような行動をとったのか不明だったからだ。
「お前は頑張ってるよ……一人だからとか、孤独だからとか関係なく、お前はいつも頑張ってるし、少なくとも俺はそれを見てる」
「……っ」
その場しのぎではなく、怜の本心から出てきた言葉だと葵は悟った。だからこそ胸がいっぱいになった。助けてと、何も口にしていないのに手を添えて、優しく頭を撫でながら自分の事を肯定してくれるその優しさが、葵にとってはただの言葉でも心に響いてしまう。
(あぁ、この人は本当に私のことを見てくれてるんだな……)
怜はしっかりと約束を守っている。素である葵の姿を見ている。学校でのクールキャラではなくて、本当の自分を約束した日からずっと見てくれているのだと、改めて心の底から実感した。
「俺には葵のことがまだ分からないことだらけだ。ただ、お前が心のどこかで苦しいと叫んでいるのだけは分かる。だから、必要なら手を差し伸べるし、悩んでるなら相談にも乗る。好きなだけ頼ってくれ」
「……うんっ」
堪えていたはずの涙は知らず知らずのうちに頬を伝って地面に零れ落ちていた。どこまでも優しくて、自分の事を肯定してくれる怜には葵は敵わないと思った。
(こんなの……好きにならない方がおかしいよ……)
止めようと思っても止まらない涙を必死で手で擦りながら拭き取ろうとするが、何度擦っても止まらなくなってしまう。
「ほら、使えよ。目、赤くなるから」
「……ありがとう」
「帰るか。手、片方出せ。繋いでいってやるから」
「……うん」
さっと差し出してくれたハンカチを目にやり、空いた左手で怜の右手を握った。
葵が自分の手を握ったことを確認してから怜はゆっくりと歩き出した。
月明かりが怜と葵の帰り道を明るく照らしている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
次話から一旦本編をお休みして、10話くらいのサブストーリーを上げていこうかなと思ってます。
完結まで残り55話くらい?
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