第45話 ファッションショーに軍服

――後夜祭。


文化祭全てのまとめの日。この日は各クラスの売上成績と学年ごとに順位が昇降口前に張り出される。それぞれのクラスが売り上げ一位を目指してこの二日間、全力で楽しみながらも競い合った。その結果がこの後夜祭で分かる。


それぞれ思うこともあるかもしれないが、泣き崩れるものや、やり切ったと手を組むものまで様々だ。


怜たちのクラスは渚の口から全員で集まって結果を聞こうということになり、それぞれのクラスメイトは心の準備を済ませて教室に集まっていた。


そして――


「みんな心の準備はいいね?」


「もちろん」


クラスメイト全員が頷いた。


「1組の結果は……」


全員が息を呑んだ。


渚の発表ですべてが決まる。優勝か否か。


渚はゆっくりと口を開き、結果を口にした。


「売上学年一位で優勝!」


「「「よっ……しゃー!!」」」


クラス内で歓声が上がった。


怜のクラスは売上学年一位、学園一位の両方を獲得し総合優勝に終わった。


2位との差は歴然で圧倒的な売り上げと評価を受けた優勝により誰もが歓喜した。もちろん怜もその一人で悟られないように、一人陰で喜んだ。


「打ち上げじゃー!」


「「「「おー!」」」」


これにより3日間に及ぶ青薔薇学園文化祭、『青薔薇祭』は幕を閉じた。


文化祭の最後は生徒会長である玲奈の感謝の言葉と文化祭の成功を記念しての青葉からありがたいお言葉を全校生徒に向けて長々と語って終わった。


そしてそのあとは――


「——というわけで、これから二人には3年生限定のファッションショーに参加してもらうね」


「……なにがというわけでなのかが全く持ってわからん」


「毎年やってることだよ? 去年は私と薫ちゃんの二人で出たし」


「だからと言って俺を指名する意味が分からん」


「いいじゃん、やろうよ」


「お前はすぐに乗っかるな」


毎年青薔薇祭では後夜祭の後に3年生だけが集まるファッションショーが行われる。毎年のように生徒会と1,2年生の代表生徒がそれぞれの学年の手芸分が手掛けた衣装を身にまとって、講堂に設置されたランウェイを歩くというイベントが行われいている。


今年の生徒会のメンバー二人に1,2年の代表が揃っているため今年は生徒会でこのファッションショーを実行することになったのだ。


「せっかく手芸分の子に怜くん用の衣装作ってもらったんだもん。やらなきゃ損でしょ?」


「俺は損なんかしない。それに俺じゃなくて渚と姫野がやればいいだろ」


「君はホントに事あるごとに渚くんに振るね。少しは渚くんを頼るのやめたら?」


「うぐっ」


渚を頼るのをやめるというのは怜にとってはかなり酷だった。


もともと目立つようなことは全て渚に押し付けてきた怜がそう言われると何も言い返せなくなってしまう。


「ムリにとは言わないけどさ、私は怜くんがかっこいい衣装を着てランウェイを歩いてる姿観てみたいなって思うよ?」


怜は黙って葵の方を見た。


葵はそれに答えるかのように怜の方を向いて頷いた。怜は一度深くため息を吐いてから覚悟を決めたような真剣な目になった。


「わかった。やるよ、玲奈の頼みは断れん」


「やった! 楽しみにしてるね!」


怜は呆れ半分に葵の方を見ると葵もまた同じく喜ぶ玲奈に苦笑していた。



青薔薇祭で行われるこのファッションショーは毎年、代表の生徒が各学年の手芸部員が力を入れて作った衣装を身にまとい、講堂に設置された特設のランウェイを歩くというシンプルなイベントなのだが、それが毎年かなりの大盛り上がりとなる。


その年に入った生徒の中にモデル級の生徒がいればそれだけで話題になり、下手すれば本物のモデル事務所から声がかかるほどだ。言わずと知れたこのファッションショーは学園内だけの秘密となっているから、外部の人が見たいと懇願しても一生かかって拝むことはできない。


そして今年の代表生徒は大物揃いとなっている。


学園三大美姫の葵、薫、玲奈。そこに加えてクラスマッチ、文化祭と少しづずつだが人気を獲得し続けている怜の4人が代表生徒として参加することになった。


「行けるか?」


「うん。大丈夫行けるよ」


「なら、いっちょかますか」


「だね」


舞台裏で手を合わせる怜と葵。


その様子を尊いものを見るかのような視線を向ける二人の姉。


そんな空気の中葵はステージの上に立った。そして、音楽に合わせて葵は歩き始めた。

葵がランウェイに現れると会場は一斉に歓声へと変化した。葵の纏うウエディングドレスの美しさに魅了される人。そのあまりの美しさに阿鼻叫喚する人。いろんな視線が葵に向けられていた。


その中を堂々と歩いていく葵の後ろ姿はまさに葵がが円の姫たる由縁のようだった。


その次に玲奈、薫と並んでいき、最後は怜の番となった。


「なあ、これ似合ってんのか?」


「ん? もちろん似合ってるよ? というか似合い過ぎて今すぐにでも抱き着きたい」


「うん、やめようか」


「でもほんとにすごい。かっこよさだけじゃなくて細かいところまでしっかり作られてるから、もともとの素材が際立ってる」


「確かに、怜ってもともと素材はいいから衣装がばっちりだよね」


「えぇ、怜さんが着ているというのも大きいかもしれませんね」


「お前ら揃いも揃ってべた褒めするんじゃねえよ」


「いいじゃんかっこいいよ怜くん」


「はいはい、どうも」


最後の最後まで褒め倒してくる玲奈に軽く手を振ってあしらいながらランウェイの前に立った。


「じゃあ行ってくるわ」


「行ってらっしゃい」


玲奈に一言交わしてから怜は講堂に集まった3年生の前に姿を現した。


怜がランウェイに姿を現した途端、会場の空気はこれまでとは打って変わってまた別の空気間に包まれた。


怜が着た衣装は白色の軍服に黒のアウターを羽織ったもので、服のいたるところに細かい小道具が備えられている誰が見てもかっこいいと思ってしまう衣装だった。そして、怜が施した髪型は文化祭の時に最も反響を呼んだ髪型で、それを見た3年生は言葉を失った。黄色い歓声を上げたいと思っているのに上げられないほどに怜に見入っていた。


それは玲奈たちも同じで、怜のことを後ろから見ていたが怜が思った以上に堂々と歩いてくそのさまを見て呆けていた。


――なにあの子、超かっこいいんだけど!?


――あれで1年ってヤバすぎるだろ!?


――ねえ、もしかしてあの子って1組の?


――え、嘘……あんなにかっこよくなるの!?


と様々な声が怜の耳には入っていた。


それもそのはず。怜はこれまで自分から人前に出ることを拒んでいた。そのため怜がきちんと髪型を整えて、衣装を着飾ればだれにも負けないようなカッコよさを手に入れられるということを誰も知らない。


だから怜の軍服姿はこの会場にいた全員に刺さり、目に焼き付いた。


怜がランウェイから戻ると玲奈が抱き着いた。


「んー!! 怜くんかっこよすぎてずるい!!」


「ずるいってなんだよずるいって……」


呆れながらも玲奈を受け止める。

その後ろから渚たちが近づいてきた。


「めっちゃかっこよかったよ怜」


「サンキュ」


「怜さん、写真撮ってもいいですか?」


「あ、私も~」


「別にいいですけど、先に玲奈を引っぺがすの手伝ってもらっていいですか?」


あまりにも玲奈が邪魔だったため薫に引きはがすのを手伝ってもらい、それから葵も含めて写真を撮った。



「よくよく考えてみたら軍服作れるほどの材料があるってすげえよな」


「まあ、元々部活の予算がすごい金額だからね。軍服一枚作るのには苦労しないんじゃない?」


「あの人どんだけ儲けてんだよ……」


生徒の個性を重視する青薔薇学園では、部活の予算などは全て青葉が決定している。用意された予算は部活内で使い切るには惜しいほどの金額で、衣装に莫大な費用が掛かる手芸部には喉から手が出るほどにありがたいことだ。


「僕たち生徒会の活動に必要な予算も青葉さんが出してくれてるから困ることは無いんだよね」


「やっぱ俺あの人が怖い」

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