第11話 テスト結果と浮かぶ疑問 2

「なあ、怜さんや、なぜに確証のないことを言ったんだい?」


 生徒会室を後にし、廊下を歩いていると何気なく渚がそんなことを聞いてきた。


 確かに玲奈たちの前で言ったことはなんの確証もない。ただの憶測であり、思い込みだ。それでも引っかる部分があるのは確かだった。


「姫野さんと怜が会ったことあるかもなんて僕も初耳なんだけど」


「俺だってそうだわ。なんであんなこと思いついたのか、なんて俺でもわからん」


「なんとも雑な理論ですな」


 口調がおかしい渚を横に昇降口に向かうと反対の方向から担任の先生が歩いてきた。


「あら、お二人共今から下校かしら?」


「まあ、はい。色々と片付いたんで」


「そう。気をつけてね」


「「ほーい」」


「あ、そうそう怜さん。あなたに聞いておきたいことがあったんだけど」


「俺に?」


 返事を終え何事もなく帰ろうとした矢先、ふと呼び止められ思わずきょとん、としてしまった。それは隣にいた渚も同じようで、お互い説教されるのかと思った。反面怜は特にそういうことを気にしないが。


 珍しいことでもある。これまで渚も怜も先生から用事があって予備と止められることもなかったため、今回が初となる。


「いやね、怜さんの中学の時の成績表を見てたんだけどね、今の怜さんとは明らかに違っていて驚いちゃったんだよね」


「ああ〜そういえばそうですよね」


「……」


 高校に受験する時に送られたとされる成績表には怜が中学時代に取った成績が全て乗っている。もちろん3年間首席だった怜はすべての教科においてオール満点を取っているため担任の先生が不思議に思うことは何も間違っていない。


 いないのだが、怜にとって3年間首席というのは黒歴史そのものだった。


「なんで高校入った後に成績落としたのか気になって聞いてみたんだけど、何か理由とかあるの?」


「……」


 怜は少し黙り込んだ。


 正直に話すべきか、それとも適当に流すのか、二通りの考えをした後に出した答えは……


「……いえ、特にこれ言った理由はないですよ。ただ単にやる気が失せたってだけです」


「そう、ならいいんだけど。なにか家庭の問題でもあったりとかしたらどうしようかと思ったけど、特にないなら安心したわ」


「すみません」


 特に理由がないわけがないが、この場をやり過ごすためにしらをきることにした。


 そして、そんな怜の横顔を横目に見る渚はどこかぎこちないような瞳をしていた。なぜかいつもよりも声色を変えて話した怜を心配するかのような視線を向けている。


 怜はその視線に気づくことはなかった。


「こちらこそごめんなさいね。2人とも気をつけて帰ってね。さようなら」


 担任の先生に軽くお辞儀をして2人は昇降口を後にした。


 外を歩いているときも怜は虚ろな目をしていて変わる気配はなかった。渚もそれを見て何も言えずに沈黙の空気がただ淡々と流れていた。


「なあ、渚って俺が高校に入って成績落とした時どう思った?」


「どしたの急に」


 おもむろに怜が口を開いたと思ったら突然だいそれたことを聞いてきて身構えてしまった。だが、怜の目は虚ろながらも真剣だった。


 怜らしくないと思いつつ応えることにした。それが親友であるから。


「正直驚いたよ。いきなり成績落としてなんでか聞いても答えてくれないし」


 素直な思い。今の怜に嘘をつくことを躊躇い、そう応えるしかなかった。


 小学校からの仲で、ずっと首席という座を手放さなかった……いや、手放せなかった怜を見てきたからこそ思うことがある。高校に入り、突如として成績を落とし、今まで居座っていた首席の座を同じクラスの女子に取られるという、今までの怜なら考えられないことをした。


 そのことを怜に聞いてもなんとなくだとはぐらかされてしまう。だからといって無理に言うことはせず、怜のやりたいようにやらせることにした。自分も怜に釣られないように成績を落とさないようにはした。怜が首席の座から降りたからと言ってちゃんすだとおもったことは一度もなかった。それ以前に渚は怜に嫉妬したことすらなかった。むしろ憧れていた。


「昔から何でもできて、何をやっても喜ぶことがなかった怜がいきなり、どうしたんだ?! 頭でも打ったか?! って思ったけどそうでもなくて安心したし」


「そういえばそうだな」


 やったことないことでも一度やってしまえば簡単にこなした怜を見てきたからこそ思う。完璧にこなして周りから褒められても真顔で、一切喜ぶところを見たことがなかったため、高校での出来事は渚にもかなり衝撃だった。


「まあ、怜が決めたことに異言はないよ。それが親友の務めだからね」


「お人好しめ」


 はにかんで笑った怜を見て渚は微笑んだ。


 この2人はどこまで行っても親友なのだ。例えすれ違いが起きたとしても一生切れることはない絆で繋がっている。人はそれを『永遠の仲』と呼ぶのだろう。


「あ、玲奈さんにはもう一度謝っておきなよ? 玲奈さん結構気にする人だし」


「ええ……めんど……」


 しかめっ面をして逃げようとする怜を渚は後ろからとっ捕まえる。


「めんどくさいじゃないよ? 怜にとっては小さな事かもしれなけど玲奈さんにとっては大きなことなんだし大ダメージなんだよ」


「お前は俺たちのおかんか」


 怜と玲奈よりも2人の仲の良さを理解していることに怜は何かと恐怖を感じている。とはいえ、渚も姉がいるため理解していてもおかしくないわけだが、他人の家の姉弟の関係をここまで理解していたら流石にホラーでしかない。


「玲奈さんが泣きついてきてもいいって言うなら僕は止めたりしないけど。怜も流石に嫌でしょ?」


「それはそうだけど……」


「謝るよ、ね?」


 アルカイックスマイルをして語尾を強めに無言の圧を掛けてくる幼馴染み兼親友に負け、後日仕方なく(渚の前で)玲奈に謝罪の通知をいれた。


 そしてその日以来渚に逆らわないと決めた怜だった。渚は昔から何かと圧を掛けてくることがあったが、今回に限っては流石の怜も怖気づいてしまった。


 渚は何者なのだろうか……

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