第2章 青春の2ページ目
第10話 テスト結果と浮かぶ疑問 1
あれから2日後。
テストの順位が張り出される日。廊下はいつも以上の人でごった返していた。
「相変わらず人多いね」
「まあ、これに限っては毎回恒例みたいなもんだしな」
「みんなやっぱり上位の人は気になるんだね」
毎回、定期テストが行われた後にある一大イベントのようなものになりつつあるこの順位の張り出し。
ほぼ全生徒がこの順位を見に廊下に集まる。そして張り出されるのはクラスの順位と学年30位の人の順位表。基本全生徒がこの順位を見に来ている。
もちろん怜と渚も見に来たのだがあまりの人の多さに見ることができずにいた。
「あ、夜狼くんと白崎くんも見に来てたんだ」
「僕は怜の付き添い」
「俺は玲奈との契約があるからな」
「そうだったね」
怜は玲奈と結んだ(強制)契約的なものがあり、その契約が『テストの学年1位を取る』というものだった。
そしてそれの結果を見に来たのだが見られずじまい。
「この人だかりだとね……」
どうにもならないが、そんなときに役に立つのがこの組織である。
__おい、生徒会だぞ……
__え、うそ、なんでここに?
一人の男子生徒が声を上げたのと同時にほとんどの生徒が一斉にその方向をみた。
生徒会。全生徒から尊敬され、学園内で圧倒的な権力を誇る組織。
玲奈と薫が順位表の前に来るとその場にいた生徒たちはその場所を開けた。
「あら、ご丁寧にどうも」
玲奈がお礼を言うと男子生徒は照れて顔を背け、女子は胸の前で手を握って2人に黄色の声を小声で上げていた。
ちらほらと「綺麗」だとか「なぜここに?」などと聞こえているが、別に後輩のテストの順位を見てはいけないという規則はないため玲奈は単に興味本位だ。薫はその玲奈の付添。
それを見て怜は呆れてため息を付き、渚は苦笑していた。
そして、葵はというと……
「あら、怜くん。順位はもう見ましたか?」
「まだ見てない。それよりお前が相変わらずのお姫様扱いでなにより」
「あらあら、お姫様だなんて」
聞いていて怜はむず痒くて仕方がなかった。
機上に振る舞っているそのお面を剝いでやりたいと思ってしまっている。
「じゃあ、一緒に見ますか」
「結果はもうわかってるからいい」
「あら、もしかして1位ですか?」
「いや、18位だ」
玲奈もろともその場の空気が沈黙へと変わった。
渚は下を向いて微笑んでいた。
そして葵は驚きのあまり先程までしていた表情を忘れ、驚愕の顔をしていた。
玲奈もキョトンとした表情をしてゆっくりと順位表をみた。
そして一位には姫野葵の名前があることを確認し、そこから少しずつ視線を下げ順位を追っていく。
2位・・・
・・・
・・・
・・・
18位 夜狼 怜
18位にきっちりと名前が乗っていた。
玲奈は目を擦るがいくらやろうとも結果は変わらない。
ちなみにクラス順位は5位である。
玲奈は俯き怜は清々しく順位表を見る。
「怜くん、放課後に生徒会室に来て」
「なんで」
「いいから来て」
その場にいた誰もが困惑していた。
一つは怜が一位を狙っていたということ始めた知ったこと。もう一つは玲奈が今までに見たことがないくらいの真剣な表情をして怒っているということ。
渚は苦笑して葵は驚くことしかできなかった。もちろん薫でさえも驚いていた。
「……わかった」
そして2人はお互い反対の方向を向き歩き出した。
お互いに真剣な表情をしながら……
渚と薫は双方の後ろを追いかけていった。
渚が怜の後ろに、薫が玲奈の後ろに着いた時。
「渚」「薫」
「一緒に来い」「一緒に来て」
双方約束のときに向けて教室で時間を潰すことにした。
おそらく長時間の話し合いになることを覚悟して。
私にはわからないことがあった。
それは、なぜ自分が彼に期待していたのかということ。
彼は確かに一位を狙っているとは言っていた。それは紛れもなく本心だと、私は悟った。ヘナっとした顔をしていたけど、真剣な眼差しを私に向けてそう宣言した。
前に彼に私が張り合える人がほしいと話したことがある。その時に彼の表情全体は見えなかったけど何かを考えている顔だというのはわかった。
私はその時に彼がもしかしたら勝負相手になってくれるのではないか、と思った。
そして、今回の定期テストで彼が一位を狙うと宣言した時に大いに期待したのは間違いなかった。彼が相手なら全力で競うことあできる、と。
そして結果は私が一位を取り、彼の順位は一位より下の18位だった。なぜだかわからないくらいに混乱した。
別に彼が一位を取れるほどの実力があることはこれまでの授業態度を見ていれば疑問に思うことがある。それでもなぜこんなにも胸の中がざわざわするのだろう……
私は彼に会ったことはこれまで一度もないはずだ。高校に入って、同じクラスになって、家が隣だけど顔見知り程度で、彼のことは全く知らないはずなのにも関わらず、彼が宣言したときに私は彼なら一位をとってもおかしくないと思ってしまった。
一体なぜ?
理由もわからず混乱してそれ以外何も考えられない。周りの音も、先生の声も聞き取るヒマがないくらいに、ただ一心にそのことだけを考えてしまう。
もちろん彼がお姉さんとの契約のようなものを結んでいることは彼の口から聞いているため知っている。そして彼がその契約に仕方がなく了承してあのような宣言をしたことももちろん承知している。
でも彼は嫌がりながらやっているのにも関わらず、あのような真剣な目をしていたのか……
彼はこの結果をすでに予測していた?それともわざと私を勝たせた?全てが彼の計画通りであり、彼は元々一位を取ることに興味などなく、その先にあるものを見ていたのでは?
と、考えれば考えるほど嫌なことが浮かんでくる。
彼に聞こうにも聞けない私はきっと臆病なのだろう。でも、仕方がない。今の彼は私以上に悩んでこの場にいるのだから……
クラス中が休み時間になると静まり返ったり、こそこそ話が聞こえてくる。みんなあの時のことを気にしているみたいだった。それはそうだろう。まさか今までやる気がなさそうにしていた彼が、学年一位を狙っていたなんて知れば誰もが驚く。
私ですら驚いたのだから。
失礼だけど、もう誰も一位を狙うことなんてないのかなと思っていた。もしかしたらトップ10入をしている人は少なからずとも希望を持っていたのかもしれないけど、それ以上にあの彼が私の座を狙っているなんて誰が想像出来ようものか。
誰も想像できないだろう。
これから彼にどんな目が向けられるのか私は気になってしまう。
そして一体彼が何を思ってこの結果を選んだのかも、私は知りたくなってしまうのであった。
放課後。
学校の生徒達が次々に帰っていく中で2人は教室に残っていた。
「そろそろ行く?」
「そうだな。他の生徒もほとんどいないし」
廊下が静かになっているのを確認して2人は教室を出ることにした。
これから長時間に渡る話し合いになることを覚悟して。
生徒会室では話し相手となる2人が待っていた。緊張の空気はそこまで流れていなかった。他人なら流れていたのかもしれないが、姉弟というのもあってそこまでの雰囲気にはならなかった。
怜と渚が生徒会室に入ったところで椅子に座っていた玲奈が手招きしてきた。
「放課後になるまでずっと今日玲奈が不機嫌だって噂がずっと流れてたんだけど」
「だってしょうがないじゃない。怜くんに裏切られたんだから」
「俺は裏切ったつもりなんだけどな……」
実際はそうだ。確かに玲奈のお願いを受けたが、結果は失敗に終わった。玲奈からすれば裏切られたと思ってもおかしくはない。
だが、怜も何も考えずに今回の結果を選んだわけではない。少なからずとも本気ではあった。
「で、なんで一位を取ることを諦めたの?」
「諦めたわけじゃない。テストの途中までは満点は取る気でいたよ。現に数学満点だし」
毎回テストが終わり、返却される時に必ずそれぞれの教科の平均点と最高得点が掲示される。そして、怜は今回のテストで数学を満点を取った。それは葵と渚も同じだった。
クラス内で名前は出されないが満点が3人いたことは掲示されたため、葵と渚は暗黙の了解とされたが、もう一人の満点獲得者は誰だと騒がれたくらいだ。
「でもそれ以外のテストの点数は平均的だよね?」
「まあ、やる気失くしたってのが一番かな」
「急にやる気失くしたの? 珍しくない?」
「まあ、そうだな」
普段なにかにのめり込むと飽きるまでやり続ける怜だが、今回は違った。
テストの途中で満点をとることをやめた。それも2時限目のテストで。
2人が話している横でホッと、むなでをなでおろしているこれまた別の意味で気の合う二人がいる。正直なところ喧嘩にでもなるのではないかと思っていた2人だが、舐めていた。この2人は異常なまでに仲が良い。
ちょっとやそこらでは仲が悪くなることはない。現にあの後玲奈は怜に怖い顔をしてしまったと薫に泣きついていた。実際は泣いてないが。
「やっぱやる気失くしてたか〜」
玲奈が発したその一言でさっきまでむなでをなでおろしていた渚と薫が驚きの顔をした。怜は相変わらずの平然を保っていた。
「え? 玲奈さん気づいてたんですか?!」
「もちろん。そう簡単に怜くんが一位を取り戻してくれると思ってなかったし。まあ、なんていうの? ノリ的な感じだったかな」
「「ええ……」」
渚と薫は2人揃って呆れてため息を付いた。
怜はすでにわかっていたことだったため特に呆れることもなく、玲奈がただ単純にこのお願いをしてきたわけじゃないということを知って自分と姉が似た者同士なのかと嫌気が差していた。
「渚は薄々わかってたろ? 俺が本気を出さないってこと」
「まあ、テスト終わるまで確信は掴めなかったけどね」
「うそ……じゃあ私だけわかってなかったってことですか?!」
「そうなりますね」
薫はその場にへたり込んでしまった。
先輩ながら仲良し姉弟の真意に気づけずに心配をしてしまったことが何よりもダメージが大きかった。そして、そこに加えての後輩のほうが先に気づいていたことが拍車を掛け、オーバーキルで終わった。
「ん〜でも、怜くんただ単に失敗する方向にシフトチェンジしたわけじゃないよね?」
「まあな。若干違和感を覚えたから一位を取るのを辞めた。」
「違和感ですか?」
「はい」
気を取り戻した薫が怜に聞き返した。
怜が覚えた違和感。それは葵と同じ違和感でもあった。
「もしかしたら葵と俺はどこかで会ったことがあるのかもしれない」
その言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。
怜の感じた違和感は、なぜ葵が確証もないのにもかかわらず、怜に勝負相手になること望んだのかということだった。怜も葵も記憶の中ではあったことがない存在なのに、なぜか葵だけが怜の実力を元から知っているかのような発言をしていた。
テストの最中にそのことに気づいた怜はテストで満点を取るよりも、そのこと考えることに全神経をそそいだ。
そして考えついたのが、怜と葵はかつてどこかで会っている、ということだった。
「会ったことがあるって、一体どこで?」
「そうですよ。私でさえ怜さんを知ったのは高校に入ってからなんですから」
薫は高校に入り、玲奈と友好関係を築いた際に自慢話として怜の話を聞いたことがあるのが始まりであり、その時に怜が天才であることも聞かされている。
故に姉である薫が怜のことを高校に入るまで知らないのにも関わらず、怜がその妹である葵と会ったことがあるということは不自然だった。
「怜くんは葵ちゃんと会ったことがあるっていう記憶はあるの?」
「もちろん俺は葵のことは記憶にない。これに限っては俺の憶測でしかない」
「憶測って……」
そのような反応になるのも無理はなかった。
誰一人としてそのようなことがありえないと思ったからだ。
「だから俺はそれについてこれから調べてくつもり」
「宛はあるの?」
「宛があれば苦労はしないんだけどな」
宛もなくただ単に無駄な時間を過ごすわけにもいかない。
「とりあえずは経過観察ってところだな。無駄な時間を過ごすわけにもいかないし」
「まあ、頑張って」
「渚くんに賛成」
「私も〜」
これに限っては怜を除く3人にはどうしようもないため手を引くのが懸命だろう。
怜を除いた3人はできる限りのことをしつつ、怜が答えを見つけるのを応援することにした。
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