転校生

口羽龍

転校生

 今日は9月1日だ。夏休みが終わり、今日からまた学校だ。そして、夏休みの宿題を済ませて、子供たちがやってくる。楽しみに待っている子供もいれば、また学校が始まるのを残念に思っている子供もいる。宿題が終わっていない人は、下を向いてやってきて、終わらせた人は上を向いている。


 そんな中、東京のとある小学校のクラスで、朝の会が行われていた。子供たちはざわめいていた。今日からやってくる転校生の話でいっぱいだ。愛知県からやって来たそうで、可愛いと評判の女の子だったそうだ。どんな女の子だろう。誰もが楽しみにしていた。


 と、先生が赤いスカートの可愛い女の子を連れてきた。その女の子こそ、今回やって来た転校生、諏訪宮子(すわみやこ)だ。言われたとおり、顔も、表情も可愛い。子供たちは、その可愛さに驚いた。


「今日からこの学校に転校してまいりました、諏訪宮子さんです。皆さん、仲良くしてやってくださいね」

「よろしくお願いします!」


 ちょっと緊張しながらも、宮子はお辞儀をした。すると、生徒たちは拍手をした。みんな、歓迎しているようだ。嬉しいな。


「じゃあ、諏訪さん、あちらの席へ」

「はい!」


 宮子は、高原蓮人(たかはられんと)の隣に座る事になった。蓮人はドキドキしている。蓮人もこの子の事が好きなようだ。




 この日の学校は正午で終わった。夏休みの終わりたてはこんな日がしばらく続く。


 蓮人はニヤニヤしていた。宮子の事だ。あまりにも可愛い。思わず一目ぼれしてしまいそうだ。


「あの子、可愛いな」

「どうしたんだい?」


 その横にいる勇介(ゆうすけ)は蓮人の表情が気になっている。どうしてこんなにニヤニヤしているんだろう。


「転校生の事?」


 ふと、勇介は今日やって来た転校生、宮子の事が気になった。あの子がかわいいと思ったからだ。まさか、蓮人も惚れたんだろうか?


「おいおい、ひとめぼれかい?」

「うん。何もかもが可愛いなって」


 今日、初めて会っただけなのに、こんなに忘れられないのは、どうしてだろう。ひょっとして、恋だろうか? いや、恋にしてはまだ早い。ひとめぼれだろう。


「僕もそう思うよ」

「そっか」


 ふと、何かに気づき、2人は振り向いた。そこには宮子がいる。帰り道が一緒のようだ。まさか、宮子がいるとは。その話を聞いてたんじゃないだろうか?


「あれっ、宮子ちゃん、来てたの?」

「うん。帰り道が一緒なんだ」


 宮子は笑みを浮かべた。笑みを浮かべた時の表情もやっぱりかわいい。ますます惚れてしまう。


「ふーん」


 その先の交差点で、勇介は蓮人と宮子と別れた。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ!」


 ふと、蓮人は振り向いた。宮子もそっちに行く。まさか、近所だろうか?


「あれっ、宮子ちゃんもこっち?」

「うん」


 宮子は驚いている。蓮人もこの道なのか。ひょっとして、帰り道がほぼ一緒だったりして。


「それは知らなかったな」

「私も知らなかった」


 しばらく歩くと、蓮人は家の前にやって来た。蓮人の家は白い2階建ての近代的な一軒家だ。蓮人は家の前で立ち止まった。


「じゃあね、ここが僕ん家なんだ」

「そう。じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ!」


 蓮人は宮子と別れた。その時、蓮人は気づかなかった。宮子のスカートからキツネの尻尾が出ている事に。


 蓮人は玄関を開けた。すると、何かのにおいがする。どうやらお昼ごはんのようだ。


「ただいまー」

「おかえりー」


 蓮人はダイニングにやって来た。ダイニングでは母が野菜炒めを作っている。これが今日のお昼ごはんのようだ。


「ここに引っ越してきた諏訪さんって、知ってる?」

「知ってるわよー」


 母は近くに引っ越してきた諏訪家の事を知っていた。だが、蓮人は全く知らなかった。ここ最近、夏休みの宿題に追われていて、全く家から出ていなかったからだ。


「そ、そうなんだ・・・」


 蓮人は焦っている。母が知っていたとは。もっと早く知っておけばよかった。


「知らなかったの?」

「うん。今日、あの家の宮子ちゃんが転校生としてやって来たんだけど、同じクラスで、しかも席が隣同士なんだ」


 母は驚いた。まさか、あの諏訪家の宮子ちゃんが同じクラスで、しかも席が隣同士とは。きっといい友達関係を築けそうだ。


「そう! よかったね! お友達になれそうじゃん!」

「うん!」


 と、蓮人は宮子の事を考えた。女の子に一目ぼれしたのは、初めてだ。忘れられない。


「どうしたの?」

「宮子ちゃん、可愛いなって」


 母も同感だ。確かにあの子は可愛い。


「もしかして、ひとめぼれ?」

「そうかもしれない」

「いいじゃん!」


 母は喜んでいる。好きな人ができるのはいい事だと思っている。ようだ。




 翌朝、蓮人は通学団が集まる場所にやって来た。6年生のリーダーはまだ来ていない。しばらく待とう。


「蓮人くん、おはよう」


 と、そこに宮子がやって来た。今日は黄色いスカートをはいている。色は違っていても、やはり可愛い。


「おはよう、って、えっ!?」


 蓮人は驚いた。宮子のスカートからキツネの尻尾が出ている。そんなはずはない。そんなのいるはずがない。ひょっとして、寝ぼけているんだろうか?


「ど、どうしたの?」

「い、いや、キツネの尻尾が見えたんだけど、錯覚だよなーって」


 それを聞いて、宮子は笑みを浮かべた。何かを知っているようだ。だが、蓮人は全く気付かない。


「ふーん・・・」


 と、笑みを浮かべているのに蓮人は気づいた。


「ど、どうしたの?」

「な、何でもないよ」

「そう・・・」


 と、宮子は不敵な表情を見せた。蓮人は少しゾクッとしたが、全く気にしていない。


「えっ!?」

「何でもないってば」


 と、そこの通学団のリーダーがやって来た。学校の出発するようだ。


「学校向かうよー」

「はーい!」


 通学団は学校の向かって歩き出した。先頭は6年生のリーダーで、そこから1年生、2年生の順に並んでいく。蓮人は宮子の後ろを歩いていた。その間も、蓮人は宮子の事をジロジロ見ている。ひとめぼれしたからだけではない。宮子のスカートの中から出ているキツネの尻尾が気になる。果たして、宮子は何者だろう。


「どうしたんだよ、じろじろ見て」


 後ろの勇介は蓮人の表情が気になった。ジロジロ見ているのを知って、宮子はむっとした。どうして蓮人はこんなに私を見ているんだろうか? ひょっとして、私の事が好きなんだろうか?


「な、何でもないよ・・・」


 蓮人は焦っている。宮子に嫌な目で見られた。どうしよう。


「お前、宮子の事が好きなんじゃないかなって」


 蓮人は振り向いた。


「そ、そうかもしれない・・・」

「俺も可愛いと思うけど、俺には別に好きな子がいるから」


 勇介には別に好きな女の子がいる。だから、宮子は好きだけど、本当に付き合いたい人は別にいる。


「そう。僕は宮子ちゃんだな」


 蓮人は相変わらず宮子が好きなようだ。


「ふーん。近所だしね」

「うん」


 その話を、宮子は嬉しそうに見ている。ひょっとして、この子となら一緒になってもいいかもしれない。




 その日の放課後、今日も午前中で学校が終わった。今日も帰ってテレビゲームでもしようかな? 蓮人はランドセルにノートなどを入れていく。だが、蓮人はある事に気が付いた。漢字の練習帳の名前が諏訪宮子になっているのだ。


「あれ? 漢字の練習帳が宮子ちゃんのだ」

「本当?」


 蓮人は驚いた。今朝、蓮人は宮子と漢字の練習帳を見せ合っていた。慌てて宮子の引き出しを見たが、そこには何もない。どうやらお互い返すのを忘れたようだ。


「うん。お互い返すのを忘れたみたい」


 蓮人は焦った。宮子にとんでもない事をしてしまった。早く返さないと。


「じゃあ、返してやろうよ」

「そうだね」


 蓮人は時計を見た。そろそろ帰ろう。母が心配しているだろう。


「じゃあ、帰ろうか?」

「うん」


 蓮人は家に帰る事にした。もうこの教室にいるのは勇介と蓮人の2人だけだ。




 蓮人は家に帰ってきた。今日は麻婆豆腐のようだ。においだけでわかった。


「ただいまー」

「おかえりー。蓮人、宮子ちゃんが蓮人の漢字の練習帳を持ってきたらしいよ。近所だから、自分で家にやって来たんだって」


 蓮人は驚いた。まさか、宮子が家にやって来たとは。漢字の練習帳を返しに来たとは。だが、謝る事ができなかった。


「ふーん」

「蓮人くんにごめんねと言いたかったみたいだから、家に行ってみたら? バツ印の場所」


 母は提案した。でも、家はどこにあるんだろう。わからない。と、母が地図を渡した。よく見ると、バツ印がある。ここが諏訪家だろうか?


「うん」

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい!」


 蓮人は荷物を置かずに、ランドセルを背負ったまま諏訪家に向かった。諏訪家は2軒先だ。そんなに遠くない。すぐ帰れるだろう。


 歩いて1分もかからないうちに、蓮人は諏訪家にやって来た。そこは黄色い家で、2階建てだ。


「ここだな」


 蓮人は玄関に入った。と、蓮人はある物に気が付いた。玄関の前に稲荷像があるのだ。稲荷神社ではないのに、どうしてだろう。


 ふと、蓮人は朝の出来事を思い出した。宮子のスカートから出ていたキツネの尻尾だ。ま、まさか、宮子はキツネ? 女の子に化けてるってわけ? いや、そんなはずがない。


 蓮人はインターホンを押した。


「こんにちはー」

「あっ、蓮人くん? どうぞ」


 すると、女の子の声がした。どうやら宮子のようだ。蓮人は玄関を開けた。


「お邪魔しま、えっ!?」


 蓮人は目の前にいるものに驚いた。そこには2本足のキツネがいる。宮子の尻尾と言い、入り口の稲荷像といい、この家は何だ? 蓮人は少し引いてしまった。だが、練習帳を返さない限り、帰れない。


「き、キツネ?」


 と、そこに宮子がやって来た。やはり宮子のスカートからは狐の尻尾が出ている。


「あっ、蓮人くん、練習帳を持ってっちゃって、ごめんね」

「い、いいけど。こっちこそごめん」


 蓮人は恐る恐る練習帳を出した。それを見て、宮子は練習帳を手に取った。


「どうしたの?」

「い、いや。この家にキツネがいて」


 蓮人はびくびくしていた。とんでもない家に来てしまったな。でも、なかなか帰れない。


「えっ!?」

「な、何でもないよ・・・」


 と、そこに宮子の母がやって来た。母も可愛い。宮子が可愛いのは、母の遺伝子だろうか?


「あら、高原さん家の蓮人くんじゃない」

「は、はじめまして・・・」


 初めて会う宮子の母に、蓮人はびくびくしている。練習帳を持って行ってしまったのを、どう見ているんだろうか?


「今日は宮子が申し訳ございませんでした」


 だが、母は頭を下げた。母も謝っているようだ。


「い、いえ・・・」

「ど、どうしたの?」


 と、宮子の母は、蓮人の表情が気になった。何かにびくびくしているようだ。何におびえているんだろうか?


「い、いや。キツネとか尻尾が気になって」

「そう。こんなの?」


 そういうと、宮子の母はキツネの姿になった。ま、まさか、ここは化け狐のいる家だったのか? とんでもない家の子と友達になってしまった。


「うわっ!」


 蓮人は驚いて、腰を抜かしてしまった。入った時にいたキツネが、宮子の母だったとは。


「えへへ・・・」


 すると、宮子もキツネの姿になった。やはり、あの尻尾は本物だったんだ。それでも宮子は可愛いな。表情も、声も、そして尻尾も。

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