第8話 事案への罰は剣

竜人は顔から火が出そうな気持だった。


段々と頭はスッキリしてきたものの、ついさっきまで夢と現実と、さらなる夢とがごちゃ混ぜになり、今の自分の置かれている状況が理解できず、ダコイカサに行った夢を見ている自分が目を覚ましたら、ダコイカサにいる夢の続きが始まっているという、夢なのか現実なのか良くわからない状況で、感覚としては現実なのに、これは夢だと断ずる意識もあり…


夢の中のダコイカサで自分が助けようとした少女が目の前に元気な姿を見せてくれたところで、自分の中に陽の感情が溢れた気がした、、、ところまでは思い出せた。


ダコイカサにまだいるという喜びと、少女が元気でいるという安心。


気が付くと、その少女にありがとうと言いながら、彼女を抱きしめていた。


少女のジワリと体温が竜人の身体に伝わり、その温かさでこの少女の実在が、そして彼女のいるダコイカサ世界が感じられ、自然と歓喜の涙が溢れた。


少女は特に抵抗するでもなく、竜人の腕の中にスッポリと納まり、「ふわぁ~…」だか「ふぇ~…」だかと、ちょっぴり間の抜けた声を出しながらも大人しくしていた。


心地よい温度の少女を抱きしめながら記憶を辿り、そこから直前までの夢を除外してみると、自分が最後に憶えているのは少女を村に運んだところ。


少女を村人の手に委ね、敵意は無いと示すためにキースの助言に従ってその場に座り、この世界を現実として受け入れようと決心した、という所まで思い出し、改めて自分が考えなければならないことが大渋滞していることに放心する。


(よし、一つずつ解決していこう!)と決心した瞬間、


「んvるあういおえうrh、vふいpぐあいwべり!!」


自分の寝ていた部屋の入り口付近に現れた兎族の男が、強い怒気を込めた大声をあげた。


ビクッと少女の身体が跳ね、いくつもの考えをまとめようとしつつもまとまりを欠いていた竜人の思考が、その一声で一度リセットされ、頭の中がクリアになる。


すると、自分の現状が段々と見えてきた。


(えぇと、今の俺は、、、薄暗い部屋にいて、、、上半身は相変わらず裸だな。 俺の腰に跨るかたちでさっき助けた少女がいて、、、それを包むように抱きしめてるな…)


「うぉっ!?」


どう考えても良からぬ状況な自分に、思わず声が出て、少女を抱いていた腕と上半身を離す。


日本国内であれば、問答無用でしょっ引かれそうな事をしていた自分にアワを食ってしまう。


(言い訳を、何か言い逃れをしなくては!!)と慌てる自分を見つめる少女が、何事かをこちらに言うと、ゆっくりと顔を近付けてきて、俺の頬にチュッとキスをした。


(あぁ、これはもう逮捕だ…)と改めて放心状態の俺を見て、どこか勝ち誇ったようにも見える笑顔を見せた少女は、怪我をしたとは思えないような軽い足取りで部屋から出て行った。


薄暗い部屋に残されたのは竜人と武器を携えている兎族の戦士と思しき若い男。


竜人は既にお互いの言葉が通じないことに気が付いていたので、言い訳をしようにもコミュニケーションが取れない。


(き、気まずい…)


自分の現在地もおかれている状況も分からないだろうし、意思の疎通も出来ないだろうに、少女を抱きしめて、なんなら涙まで出している男。


(村を守る戦士からしたら、討ち取っちゃっても許されそうだ…)


なんて恥ずかしさに塗れて自嘲気味になっている竜人に対して、若い戦士は至って真面目な表情で剣を抜いた。


(おっと、こりゃいかんな。)


また頭の中から声が聞こえる。


(キースさん、ですよね? 改めてよろしくお願いします。)


(おぉ、そうじゃよ。 こちらこそ、改めてよろしくのぅ。)


と挨拶を交わす。


ダコイカサに来てから、意思の疎通が出来たのは、この頭の中にいるキースのみだったので、きちんと挨拶をしておく。


「kれお。」


そんな挨拶がなされているとは思いもせず、若い戦士がこちらに向かってくる。


(「殺す」といっておるな。)


(…わぉ。)


さっきの自分の振る舞いが、この世界では死刑に値するほどの無礼だった可能性も視野に入れるが、かといって殺されるわけにもいかない。


とはいえ、この若い戦士を魔熊と同じようにしてしまうのは、うまくないように思える。


(オヌシの実力なら、一切攻撃せずにこやつの相手を出来るじゃろ?時間を稼いで他の者がくるまで待つのがいいじゃろう。 こやつはどうやら、感情的になっておるだけのようだしの。)


というキースのアドバイスを受け、(そうは言われましても…)と返事をしながら若い戦士を見る。


剣は既に振り上げられ、竜人に向かって降りてきている最中だった。


左前方からゆっくりと近づいてくる剣を、左後方に一歩下がって回避する。


勢い余ってふらつきながら、続いて右から中段を横薙ぎにするように剣が振るわれるが、左側に一歩動くと、その剣は竜人の体には触れられずに壁に当たって跳ね返る。


「gtにえうがんわうgふぉいうwq!!」


おそらくは罵声であろう言葉を竜人に投げかけながら、繰り返し繰り返し剣が振るわれるが、それが竜人の体に触れることはなかった。


そうこうしているうちに若い戦士の喚きを聞きつけて、数人の戦士が部屋に入ってきた。


若い戦士の暴れ姿に驚きつつも、一切手を出さずに剣を避け続ける竜人をみて、どうやら若い戦士の側に問題がありそうだと判断をしたようで、後ろから飛びかかって取り押さえ、一旦縄をとってきて縛り上げる。


その間も、若い戦士は他の戦士に向けて何かを叫んでいたが、明らかに異常な行動に出ている者の話を鵜呑みにする事はなかったようで、縛り上げた若い戦士を部屋から連れ出していった。


しばらくのち、少女が部屋に駆け込んできて、外に向けて何事かを叫びながら竜人に飛びつき、頑なに離れようとしなかったが、精悍な顔つきの戦士がペリッと引っぺがして連れ出していった。


それまで開いていたと思われる部屋の扉が閉じられ、扉の向こうには戦士が立っている。


その格子戸を見て竜人は気が付く。


(あれ、ここって牢屋じゃね?)


(確かに、少女相手に事案発生はしちゃったけど、先読みでお縄になってたかぁ…)


そこそこの時間が経ち、自分をネタにジョークが出る程度には落ち着いた。


まぁ、今もがいても言いことはなさそうだ、と判断し、この時間を使って渋滞の解消していない考えをまとめていくことにする。


一番初めに解決すべきは、これだろうな、と決めて、頭の中で声を掛ける。



(キースさん、今ちょっと宜しいでしょうか?)

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