第9話 キースとの対話
(ほいほい、ワシにご用かね?)
ご用かね?と聞かれれば、ご用だらけですよ、と言いたいところだが、優先順位の高そうな質問から順番に尋ねていくことにする。
(えぇ~っと、キースさんは実在するんでしょうか?)
入り口にして核心である、最重要の問いだと思われる。
もしキースが存在せず、竜人の妄想であるならば、やはりこのダコイカサという世界自体の存在も怪しくなる、と。
逆に、キースが竜人の生み出したものではなく、独立した意思を持っているならば、少なくとも地球上では起こらないであろう先程まで見聞きした出来事も含めて、『異世界』という存在を自分が実際に身を置いている環境として飲み込めると思った。
(なんだか、小難しいことを考えておるのぅ。 安心せい、ここはダコイカサであるし、ワシは妄想なんかではなくおぬしに話しかけとるし、おぬしはこの世界におるよ。)
あれ、考えてること、筒抜けですか、この反応?
(筒抜けじゃ。)
プライバシーの侵害だ!!と言っても始まらないので、「そういうもの」として放っておく。
判断材料がない以上、今キースさんが言っていたことを信じるしかないか。
そうであるならば、聞きたい事や疑問点を思い浮かべるだけでキースさんに伝わるはず。
(おぅおぅ、どんどん来なさい!)
ノリノリなキースさんに、順番に疑問を投げかける。
問1 『俺はどうしてこの世界に来たんでしょうか?』
答 (ワシが呼んだから。)
問2 『地球の俺はどうなってますか?』
答 (森竜人そのものをこちらに呼んだので、地球にはもういない。)
問3 『地球には戻れますか?』
答 (分からん。 来れた以上は戻れそうな気もするが… というか、戻りたいのか?)
問4 『やっぱり、あの本ですか?』
答 (大正解じゃ!)
真面目に答えてくれているんだかいないんだか分からないものの、ちゃんと答えてはくれるキースさんに一安心した。
答えを聞いて、新たな疑問が出てきたので、引き続き質疑応答を。
問 『なんで俺を呼び込んだんですか?』
答 (ドラゴンを倒してほしかった。 大体の理由は、本を読んだんだから想像がつくじゃろうに…)
問 『なせ、俺だったんですか?』
答 (とにかく強いからじゃな。 ワシ自体はとっくに死んどるはずじゃが、そうなる前に魔術の師匠に協力してもらって本を作ったんじゃよ。 どうせ『あの本は何なんですか?』とか聞いてくるんじゃろうし、先回りしておしえておくわい。)
(本で読んだように、ワシは誰よりも尊敬しておった団長をドラゴンに殺され、復讐を誓った。 修行に修行を重ね、自分で言うのもなんじゃが、この世界で最強の人間だったじゃろう。)
(剣術、魔術を身に付け、かつての自分の目標じゃった団長の力を追い越し、それでも足りぬと己を鍛えぬいたわ… 齢80にして己の限界を超えた更に先まで到達し、あとは衰えていくという力の上死点に辿りつき、そして気付いたんじゃ…)
(ドラゴンには及ばぬ、と。)
(かといって、ドラゴン討伐をやめる気はなかったんで、ワシの魔術の師匠、大魔導士マリンに協力してもらって作ったのがあの本じゃ。)
(届いた先、受け取った相手がこちらの情報を理解しやすいよう、本の形にしてワシの知り得たダコイカサの情報を込め、ワシの魂の一部と共にこの世界の外に送り出したんじゃ。 ちなみに言葉の通じんこの世界で、ワシと会話が出来とるのは、おぬしの魂に直接ワシの魂の欠片で道を作っとるからじゃな。)
(さておき、とんでもない量の魔力を使う上、魂の割譲自体も成功率が低いわ、まず耐えられんほどの苦痛を伴うわ、でのぅ、おそらくはいくらマリン師とワシでも1冊が限度じゃったろうな。)
(そんな状態でドラゴンに挑んだであろうワシの本体は、まぁ間違いなく死んどるだろうよ。 それはまぁ良いとして、あの本でダコイカサに飛ぶためにはいくつか条件があってな。)
(まず、当時のワシより強いこと。 これは、戦闘能力という意味で、少なくともワシのピークを越えてもらわんと、ドラゴンには勝てんからな。 そして世界を飛び越えても生きていける精神の持ち主であること。 せっかくワシより強くても、心が壊れてしまってはどうにもならんかなのぅ。 そして最後に、こちらに来る意思がある、ということじゃ。)
(そんなわけで、ワシより強く、世界の移動に耐えられる精神の持ち主、おぬしの下へと本は行きつき、おぬしに問うたわけだ、ダコイカサに来るか?とな。)
問われましたっけ??
というか、凄い事が起こったということに間違いはなさそうですけど、キースさんがあっけらかんとし過ぎてて、深刻には感じられないですね…
てか、死んでるんですか、キースさん!?
(おぉ、死んどる死んどる! あれからどれ位の時間が経っとるのかはっきりせんが、99パーセントはドラゴンにやられとるだろうし、曲がり間違って生き延びとっても、寿命で死んどるはずじゃな。 おぬしと出会うまでには、ワシの体感、いや魂感時間としては何十年かはかかっとるはずじゃから、ワシは今150歳くらいなのかのぅ?ワッハッハッ!!)
魂を削って、異世界の他人に力を求めてまで討ちたかったドラゴンに殺されていそうなのに、そんなに笑えるもんなんですか?
(まぁ、自分の力では倒せぬと理解してしまった時には、そこまでの道のりを思い、それこそ気が狂いそうじゃった。 この本を作った段階では、ある意味で完全に狂っとったと思うわい。 だがのう、欠片とはいえ魂として世界をさすらっとったら、棘も抜けるし丸くもなるわい。 以前から思うところがなかったわけではないしのぅ。 怨念まみれで本を作って、こちらに呼び出してしもうたヤツには言えんがなぁ。)
それ、俺の事ですよね!?ここにいますよ!!
(ワッハッハ! それはともかく、ワシ側の勝手な都合でこちらに呼び込んじまったのは事実じゃ。 まずはきちんと詫びさせてくれ。 すまんかったのぅ…)
一気に萎みましたね、キースさん(笑)
でも、詫びなんて要らないですよ。
今日まで、超能力を持って生まれたことを純粋に喜んだことなんてなかったですけど、今はこの力があるおかげでダコイカサに呼ばれたんだから、と喜びに満ち満ちてますよ!
でも、自称世界最強だったキースさんより、今の俺の方が強いんですかね?
強さを見込んで呼んでもらったみたいですけど…
(うぅ~む、そこが分からんのじゃよ。 魔熊との闘いや、兎の若者への対応を見る限り、おぬしが強いのは間違いないんじゃが、かつての世界最強の人間なワシよりも強いかと聞かれると、のぅ。 ドラゴンに勝てる逸材を呼びにいったんじゃがな…)
俺自身も、自分がどれ位戦えるかなんてわからないですし、それこそキースさんがどれ位強かったのか、ドラゴンがどれ位強いのか、なんて想像もつかないですからね~。
でも、俺の心がここに来れたから解き放たれたのは間違いないですし、ここに来るきっかけを作ってくれたのはキースさんです。
出来ることなら、感謝の気持ちを行動で示したいんですが。
ドラゴン、俺で倒せますかね?
そもそも、まだ生きてますかね?
(おぉ、、、そう言ってくれると嬉しいのぅ… おぬしの実力もまだよく分からんから、ドラゴンに通用するかは全く未知数じゃ。 確かに、ドラゴン、まだいるかのぅ…)
(どちらにせよ、しばらくはこの世界を見て回った方が言いじゃろう。 ここは大森林の中のようじゃから、この村で色々と話を聞いて、まずは王都を目指すといい。 世の中がどうなっているかはワシも興味深々じゃ!)
なるほど、分かりました!
でも、いくつか問題があります!!
俺、言葉が全く分かりません!
しかも、たぶん投獄されてます…
(ワッハッハ、そうじゃったな! 言葉に関しては安心せぃ! このワシの魂の欠片から、知識の一欠片をおぬしの魂に受け渡そう。 そうすれば、おぬしの魂にワシの魂が溶け込み、ワシの知識や経験の一部をおぬしのものに出来るはずじゃ。 とはいえ、知識や経験などは本に載っておったワシの足跡と変わらん程度じゃがな。 言語くらいは一発じゃ。)
えっと、、、キースさんが俺に溶け込むんですか…
いくら恩を感じているとはいえ、、、ちょっと…
(何をおかしな反応をしとる! ワシの経験といえば、どれほどたくさんの者が欲しているか分からんほど貴重なもんじゃぞ! 全く… 安心せぃ、おぬしの「個」には何の影響もないわい。 ただ単にこの世界に関して優秀になるだけじゃい。 それとも、経験は一切入れずに言語だけ突っ込むかな?)
えっ、そんなことも出来るんですか?
それなら、我が儘言ってすみませんが、言語だけでお願いできますか?
せっかくのダコイカサを、より新鮮に味わいたいので。
それに、困ったことが起こった時には随時キースさんに相談しますから。
(…そうじゃな。 それもよかろう。 では、知識の一欠片を受け渡すぞぃ。 ワシはしばらくは様子を見ておくから、思うようにやってみるといい。 ダコイカサを気に入ってくれると良いがのぅ。)
~~~~~
何かが変わった感覚は一切していなかったが、キースの言葉を信じて竜人はゆっくりと目を開ける。
緊張感が身を包み、下腹部のあたりがソワソワする。
一つ深呼吸をし、意を決して格子戸の外にいる戦士に話しかけてみる。
「あの~、トイレはどうしたらいいんでしょうか??」
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