第25話
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実際城に帰ってから状況を信じてもらうまでは早かった。
なぜって、両親そのものが城のテラスから私たちの戦いを見ていたらしく、途中からとはいえ状況を把握してくれていたおかげで話はすんなり終わって事なきを得る。
アスタロトと勇者達は私を守り悪神となりかけたアシュトレト神を止めた功績でお咎めなしということになり、魔域の王であるアスタロトと大陸最大の国家であるオリファは正式な話し合いの場を設けることに。
勇者達は体が回復した後それぞれの目標に向かって進み始めたけど、ジョージアが戦いの中で使ったあの技術の謎は解けなかった。
あの戦いが嘘のように穏やかな時は過ぎ、教会の再建も順調なある日。私が夜風を浴びていると部屋のテラスに一羽のカラスが降りたった。
「…アスタロト」
私の呼び声に応えるようにカラスは美麗な青年へと姿を変える。旅の中と違って仕立てのいい服装へ切り替えた彼は、旅より前の記憶の印象に違わずこれはこれで格好がついて見える。
アスタロトは長い長い話し合いの末魔域を正式に魔国へ昇華することに成功した。二つの国は和平を結び、長い戦いがまた一つ終結したのを感じた。そも積極的に人を襲っていた魔物はごく一部で、他の魔物はその特性や自衛のために人間と交戦になったり食事の問題で人を殺してしまったりと言うことで恐れられていたことが正式に発表される。これが時代の変化を生む一歩なんだと思う。
「ナターシャ…」
夜空にカラスが舞い降りて彼に変わるだなんて、まるで初めて会った夜のようだと思った。でもあの時と違うのは、私の名前を呼んで頬を撫でる貴方の目が、手が、何よりも愛おしいということ。
「今日は贈り物を持ってきたんだ」
「贈り物?」
彼は私の頬から手を離すと、懐から小箱を一つ取り出して私に差し出しながら開いた。
「…これは父上が持ち帰ってきた母上の形見の結婚指輪。これを婚約指輪として受け取って欲しい」
小箱の中の指輪は時間を感じさせない輝きを放ち、美しい銀が月に照らされて煌めいている。
「どうかな?」
控えめに私に問う貴方はまたいつかのようで、今と過去が繋がる感覚に嬉しくなった。
「どうって…決まってるじゃない。喜んで受け取るわ」
左手を差し出して言外につけてほしいと強請る。彼はそれを読み取って、小箱から指輪を取り出すと私の指に嵌めた。
「綺麗…」
指輪を改めて月に照らしながら改めてその美しさを感じる。一見簡単な作りの指輪に感じるけどその仕上げはとても丁寧で、鉱物であることを感じさせないほど肌に馴染む。
「よかった、サイズぴったりで」
「調整したの?」
「いいや、なにもしてないよ」
つまりそれは、彼のお母上と指のサイズが同じと言うことで…つい何かの奇跡を感じてしまう。
「結婚指輪は二人で選ぼう、僕たちの未来だから」
「そうね…ありがとう」
そしてアスタロトは私の手を取る。
「ナターシャ。この指輪を受け取ってくれたってことは…僕から申し込んだ結婚を受けてくれるってことだよね?」
ここまでしておいて彼の言葉はどこか自信がなさげで驚く。私は一瞬だけ目を丸くして、その後でできる限り笑った。
「当たり前じゃない。私から始めた結婚話なんだから」
「ナターシャ…!」
彼が私を抱きしめてくれる。その熱が心地よくて、私も抱かれた背中に腕を回した。
改めてここまでの道のりに感慨が生まれる。とてもとても長いようで、とてもとても短い、たくさんの思い出と一緒に互いのことを多角的に知った素敵な旅。
「なにかしら、なんだか初めての時のようで違うから、少し気恥ずかしいわ」
「この瞬間を待ってたからね」
…ん?
「待ってたってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。君がこのテラスに来るまでずっと見ていたんだ」
「…どこから?」
「僕の客間から、追跡用に開発した魔法で。おかげで離れていても君を感じられて幸せだった…」
「…」
私は感慨に耽る彼を引き剥がして問う。
「それはいつからついていたの?」
「君と付き合ったその日から♡」
「…」
私は行き場のない感情をぶつけるために、とりあえず彼の頬を引っ叩いた。
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