第24話
「今よ!」
ハルカの声が響く。この時を待っていたと言わんばかりにレンジが大剣を体の前で構え、アスタロトが拳の周りに闇い炎を宿らせる。
「いくぞアスタロト!『我が身が男神アレスの血を受け継ぎし者! 神の片鱗は我が手に! へファイトス・ファイアソード!」
「今ここで終わらせてやる! 『ダーク・フィアー・フレイム!』」
二人の技が真っ直ぐ神へ向かっていく。
「「うおおおおおおおおおお!!」」
二人の叫びが聞こえて、私はその声に祈祷なんて関係なく祈った。この戦いが終わって、その先にある新しい未来を。
「…!」
目を開けた時その剣は、拳は、確かに神を貫いた。
その一瞬だけが何秒にも長くて、周りの景色は白く見える。時間の感覚が戻る頃には、二人の武器が引き抜かれていた。
【゛う゛ああぁ゛[#「ぁ゛」は縦中横]ああぁあぁぁぁああ!!!】
壮絶な悲鳴の末神は石膏像となりボロボロと崩れ落ちていく。私が歩きながらそこに近づくと、崩れた石膏はやがてまた一つとなり、そこには一つの大きな卵が生まれた。
「これは…?」
ネルの疑問にアスタロトが答える。
「神の最初の姿だ。神に死して終わるという概念はない。死は新たなスタートであり、権能を引き継いだまま記憶をリセットして新しい姿になる。あいつらは生き物ではないからな」
その声音は心底うんざりと言う様子だった。彼の言うことが正しければ神は斃せないなら、また対立が生まれる可能性があると考えるとその気持ちはわかる気がする。
あまり間をおかず卵は天へ帰っていく。その様子を見届けてやっと戦いが終わった気がした。
「痛っ…」
急に足に痛みを感じ下を見ると、足の裏側や先が悲惨なことになっていた。ガラス片が刺さり、瓦礫で擦ったりきれたり…よくこんな足でここまで移動したと思う。
「きゃあ!」
急に持ち上げられた。驚いて横を見ると、アスタロトの顔が近くて姫抱きにされたのだと気づいた。
「ネル、回復を」
「はい…」
ネルが私の足に回復の祈祷をかける。みんな傷だらけ煤だらけなのに…。
「私よりみんなが…」
「いいから」
ネルが私の傷を回復し切るとみんなが歩き出す。そしてアスタロトは私を見て、確かに言った。
「ただいま」
その言葉で宙に浮いた気持ちは確信に変わる。本当に戦いは終わったんだ。
「…っ! お帰りなさい!」
気がつけば彼の首に腕を回して抱きついていて、胸の中は安堵でいっぱいなのにさらにたくさんの感情があって…こんなのどう処理したらいいんだろう。
「後で詳しく話しなさいよね、流れで参加しちゃったけど状況いまいちわかってないんだから」
「勿論俺から話すよ」
なんて平和な話が流れていく中、私には忘れてはいけないことがあった。
「そういえば、お父様とお母様は…?」
「それに関してはバッチリよ⭐︎」
そう言ってジョージアから状況を説明してもらう。
お父様とお母様はアシュトレト神から封印された状態で自室に捕えられていたらしく、状況を確認したジョージアは教会の護衛を倒し切ったハルカとネルに助けを求め、ネルが祈祷でアポロン神に掛け合い封印を解除してから応援にきたとのこと。
「おかげで応援が遅くなっちゃったわぁ…ごめんなさいね」
「いいえ、お父様とお母様が無事なら…それに三人が来てくれて助かったわ」
本当に助かった。あそこで三人が来てくれなかったらあの場にいた全員死んでいたと思うと余計に。
「あとは…」
教会から出た辺りで全員が足を止める。
振り返って最初に言葉を発したのはレンジ。
「この教会の惨状と神を倒した大義名分をどう信じてもらうかだな…」
「一先ず話をしてみるしかないわよね…」
「誰か離れたところで、見聞きしてる人は…いると思うんですが…」
「私が両親に掛け合ってみるわ…」
教会の建物は美しさなど無惨に失い、もうほとんど床しか残っていない。かといって神は天に帰ってしまったのでこの状況の証拠がない。お父様とお母様ならわかってくれると思うけど…。
「一先ず城に向かいましょう。お父様たちに会わないと始まらないわ」
「そうだね、行こうナターシャ」
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