第23話
【何故だ、何故妾の愛に歯向かう! 神から自立しようなどと愚かな真似を!】
神の叫びは悲痛な印象を受ける。まるで理解できないと言外に訴えていた。
「はぁ? あたしは最初っから無宗教だっての!『水泡は弾丸となりその身を貫く! アクアストライク!』」
「アタシもねぇ…」
悲痛な叫びに対して、攻撃のついでのような緊張感のない返答が飛ばされている。ジョージアが使ってる技はどこから起因しているものなのかわからないけど、ハルカの使う魔法は信仰に関係しない技術なので無宗教なのも理解できた。
【人は皆宗教に限らず我が眷属なのだ! 豊穣と愛を必ず人は求める。愛は神のみが祝福できる故に!】
「愛は…人も祝福します」
「そうだ! 愛は生き物の中にある摂理、神だけのものじゃない!」
仲間のそれぞれが、神の言葉に反抗する。
私と神の会話を誰が聞いたわけでもないのに、みんなの言葉が私を肯定してくれてるみたいに思えてしまって勝手に嬉しくなってしまう。
飛び上がったレンジの大剣がとうとう神の腕に深い傷をつけ、そこからは赤い体液が吹き出す。その姿を見て私はどこか神の中に人を感じた。神もまた命なのではないかと。
【何故だ、何故人間が、妾の眷属が妾を受け入れないのだ! 妾はこんなに愛しているのに!】
攻撃のダメージを蓄積させながら何度でも神は主張する。それを切り捨てるようにここまで沈黙を貫いていたアスタロトが口を開いた。
「貴様の其れは愛などという事実的なものではない」
翼で滞空する彼の視線は冷たく、見下すようで呆れたようで。ただ一つはっきりしているのは、神の在り方を否定しているということ。
「貴様の“愛”など、己の信仰を誇示するための当てつけに過ぎん。其れすら理解できんとは…哀れなのは貴様の方だろう」
【黙れ!】
傷ついた腕から振り払われた風は大きな鎌鼬となってみんなを襲う。
「きゃぁ!」
「ハルカ!」
ハルカが鎌鼬を直に喰らってしまった。ここからではよく見えないけど、大怪我になったのかネルが慌てて回復をかける。
「アシュトレト、いつまでこのような愚かな真似をする。もう貴様が人を見ていた時代とは変わったのだ、時は確実に進み戻りはしない」
【黙れ! 黙れぇ!】
怒る神に応えるように鎌鼬が雷を纏い始めた。流石にまずいと感じたのかアスタロトが腕を構えると、彼の目の前で激しい閃光が瞬いた。私は反射的に目を覆って光から視界を守り、収まる頃に顔を上げるとそこにアスタロトの姿がない。
「!?」
慌てて見渡しその姿を探す。すると彼はジョージアに肩を担がれた状態でレンジの横にいた。
「ふぅ、良かったわ。神サマにも閃光弾って効くのね〜」
「すまない…何をしたのかわからないけど」
「そ・れ・は…企業秘密⭐︎」
「…そうか」
アスタロトはジョージアの言葉を深く考えないことを決めたみたい。そうこうしてるうちに治療を受けていたハルカが起き上がって言葉に怒りを表す。
「ちょっと! ワタシが起きたんだから再開するわよ!」
ハルカは杖を構え直す。ネルが一歩後ろに下がって、ジョージアはアスタロトから離れた。
【おのれ穢れた王め…仲間共々葬り去ってくれる! 貴様らは浄化することなくその魂を灰に変えろ!】
「神サマなんて自分勝手しかしないから嫌いなのよ!」
「それを言ったら…元も子もないです」
「生き物だって似たようなものだ。結局はナターシャの言う“相互関係”に過ぎない」
怒り狂う神に対してみんなは至極冷静だった。全員の思いが一つになるように前を見据えている。
「祈祷の効果時間が迫っている。いくぞみんな!」
「了解!」
「行きましょう…」
「はいはーい♪」
まっさきに動き出したのはジョージアだった。
「いくわよぉ〜⭐︎『影分身!』」
高速で動く彼の体は目で追いきれず、さながら分身のごとく残像を残す。神は本物か分身かわからないそれに向かって何度も稲穂を蔓のように伸ばしたり鎌鼬を飛ばしたりするけど、確実にその動きは翻弄されている。
「とっておきをくれて上げる!『汝は終焉の時! 永遠氷結の地獄の中で時間ごと凍り我の手で砕け散る! アイスクラッシュ!』」
神の足元から現れた氷が神の体を飲み込む。ジョージアの動きに翻弄されていた彼女が自身の凍結に気づいた頃には遅く、全身がすぐさま凍りついた。しかしその氷にはすぐにヒビが入る。あわやと思ったその時、割れた氷はその先端を神の全身に突き刺した。
【゛ああああああああぁ!】
突き刺さった氷のせいで深く傷ついた全身から血を流している。
「『アポロンよ、死神たるその側面で我の敵に死を謡いたまえ…エロウディング・ソング』」
ネルの祈祷は歌に姿を変え闇で相手を侵食する。神の耳か闇の侵食は始まり、その脳には大きな負荷がかかり動きを鈍らせた。
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