第21話
「…そんなの」
【?】
「そんなの許されない!」
叫んだ声に少しだけ神は驚いたように見えた。
「どんな生き物にだって血は流れる! どんな生き物にだって善悪がある! それは相対的で神が定めるものではない!」
いくら建前でも、いくら二の次でも、この思いが嘘なわけじゃない。それを確かめるためにここまではあったのだから。
「もしそんな貴女の一方的な愛だけで私たちの愛が否定されるというのなら、人は、魔族は神を乗り越え各々だけで立たなければいけない!」
【…人は妾が居なければ平穏がないと思うておるではないか。そして妾の神託通りに魔物は悪と見ておる。それをどう変えようと言うのだ】
「だから自立するのです! 己の力で平穏を勝ち取り平和のために手を繋ぐ。依存による偽りの平和はここで終わらせるわ!」
【…】
「神の加護と神の嘘は違う。加護とは見守るもの、嘘は支配するものよ。貴方は人々をいいように使おうと嘘で私たちの愛を否定しているだけだわ!」
【…】
沈黙を貫く神を強く睨みつける。
そんな一方的な差別だけで私たちのここまでを、平和を築こうという歩みを止めさせるものか。
【…そうか、わかった】
神が掌の上で小さな竜巻を生み出す。その渦は初めこそ緩やかなものだったが、次第に鋭い風となって放たれるのを待っている。
【汝のような思想が悪なのだ。妾を敬わず、まして穢れた命と共に妾の元を離れようなどと…汝のような菌を持つものの胞子は広がる前に浄化しなければ】
私は息を呑んだ。あの竜巻が放たれたら幾重に盾を張っても砕かれてしまうと直感が告げていたから。ここでやられるわけにはいかないのに。アスタロトを守らなくちゃいけないのに。
私は彼の頭を抱いてぎゅっと目を閉じた。
「『汝、降り注ぐ星となれ! メテオ!』」
頭上からの叫びに思わず目を見開く。見上げた先からは何かが降ってきた。
「ちょ、ちょっとどいてどいてどいてええええええええ!」
「きゃああああ!?」
自分の上に降ってくると思って叫びながら目を閉じる。でも実際はそんなことなくて、重いものが近くでいくつもいくつも落ちる音がした。その中のいくつかが爆発音につながって、付随して起きた地響きが落ち着いた頃に再び声が聞こえる。
「あいったたた…ちょっとジョージア、アンタなに一人余裕で着地してんのよ」
「やだ、僻み? モテないわよ」
「はぁ!?」
「あ、あの…まだ戦闘中…」
私は目を開けた先の光景に驚いた。ここに来るまでで別れ別れになった仲間たちがそこにいる。無事を信じてはいたけれど、まさかこんな図ったような瞬間に助けてくれるなんて。
「ハルカ…ネル…ジョージア…」
思わず肩の力が抜けた。絶望的だった状況に光が差して、煤まみれの顔を拭う。
「ネル…っ、レンジが、アスタロトが…!」
「わかりました…ジョージアさん」
「任せなさい⭐︎」
ネルに何か頼まれたジョージアは一瞬でその姿を消して、次の瞬間にはレンジを抱えて帰ってきた。ボロ雑巾のようになってしまったレンジをアスタロトの近くに下ろす。
でもその瞬間にも、神の魔の手は迫っていた。
「危ない!」
「『隆起する大地よ! ストーンヘッジ!』」
ハルカの声と共に大岩がいくつも隆起して私たちと神を隔てる。岩は私たちの周囲を囲み、小さな砦となった。
「上空までは覆えない。シールド張って!」
「わ、わかったわ。『シールド! 三重となりこの身を守りたまえ!』」
三重に盾を張って守りを固める。その間にもずっと地響きがしていて、神が岩を砕こうとしているのが伝わってきた。
「ネル! 今のうちに!」
「はい…っ、『病祓いし光の神アポロンよ。眼前の命に癒しと新たなる力を与えたまえ。全ての命は等しく在る、この願いを叶えたまえ…』」
暖かな光が傷ついた二人を包む。酷かった鬱血や傷は少しずつ癒やされて、やがてアスタロトが目を覚ました。
「ナターシャ…?」
「アスタロト!」
まだ傷の癒きらぬその体に抱きついて何度も名前を呼ぶ。彼の優しくて大きな手が私の髪を滑った。
「良かった…みんなが助けてくれたのよ」
「心配かけてごめん、ナターシャ」
横目に見える景色ではアスタロトと同じくレンジも目を覚ましたみたいで、彼も起き上がって仲間と言葉を交わしていた。
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