第11話

 よくわからないまま連れてこられたのは冒険者協会。一見勇者とは関係なさそうだけど…?

「ここで冒険者として登録すると、いろんな依頼が受けられるんだ。報酬も出るしちょっと覗いていこう」

 そう言って私たちを除く四人が当たり前のように中に入っていく。私たちも慌てて追いかけると、彼らは大きな掲示板のような場所に立って何やら話し込んでいた。

「六人の依頼ってそもそもあるのかしら?」

「四人が多いですね…」

「パーティのメンバー変えるか?」

「魔王ちゃんの実力は見たいわよねぇ…」

 またそこに顔を出すと、レンジが声をかけてくる。

「これが依頼用の掲示板。魔族、人間に問わず平和なものから不穏なものまで幅が広いから、どっちの事もわかるかなって」

 なるほど、と素直に感心した。

 アスタロトに声をかけて一緒に覗いてみると、確かに薬草採集から大きなドラゴンの討伐まである。

「あいつまだこんな事やってるのか…」

 と、不快なものを見たような顔で愚痴をこぼす彼に反応した。

「これ?」

 と、指差した先にはレッドドラゴン討伐の文字。詳細を確認すると住処付近の人里を襲い、町や村の作物や狩猟の獲物を食い漁られて困っている、という村人の依頼。討伐もしくは追放の文字も記載されていた。

「そうそれ。この地域だと多分レッドドラゴンの中でも嫌われ者で群れを追われた奴だ。本来レッドドラゴンは主に肉食に近い雑食だが、その中でもこいつは怠惰故に人里を襲って楽をしてるんだろう」

「そうなんだ…」

 流石に専門家というか…ちゃんと魔王としての責務をこなしてたのね…なんて、失礼だけど思ってしまう。私は普段から彼の魔王としての側面だけ見ているわけでもないし、どちらかというと甘えたがりでスキンシップの多い彼のイメージが強いから、改めて見ると感心する。

 魔域に住んでる魔物たちのことを本当によく覚えているのね。

「レンジ、この依頼は受けられるか?」

「レッドドラゴンか…交渉できる相手かな?」

「そのための僕だ」

「…よし、わかった。受けてみよう」

 とんとん拍子で進んでいく話についていけなくて戸惑う。とにかくレッドドラゴンの所には行くというのと、あとは本当にレンジが平和主義なのが伝わってきた。

「あーでも、五人用の依頼なのねぇ…姫ちゃん戦える?」

「いえ、私は…多少の祈祷と防御が使える程度なので…」

「あら、祈祷が使えるなんてすごいじゃない」

「基礎的な嗜みというか…それが役割のようなものなので、大して力にはなれないと思います」

 姫の祈祷は最早求められた責務と言っていい。祈祷は神官の回復祈祷と違って願う神が違う分効果が異なる。例えば戦の神アテナに願うその祈祷は、肉体に影響して身体機能の一時的な上昇を促す場合が多い。

 でも私のはほとんど儀式用。勿論詠唱を使えばアテナに願うことができるけど、基本は主神であるアシュトレトへ捧げる祈りだから効果も怪しい。

「じゃあ五人で登録しよう。ナターシャは付き添いってことで」

「このハルカ様がちゃんと守ってあげるから安心しなさい!」

「ハルカちゃんその言い方じゃナターシャさんびっくりしちゃうよ…」

 レンジがそのまま受付カウンターと書いてある場所に向かった。その間は待機なので、また小さな女子会が始まる。

「ねぇねぇ、彼氏の格好良いと思ってない?」

 ハルカの小さい声で問われるそれに顔を赤くする。小さく頷くと、ハルカとネルは静かな悲鳴で喜んだ。

「お似合いですよね…金の髪と黒い髪…」

「そうかしら…」

「新しい一面っていうか? 見えちゃうわよね!」

「それは…うん、そうね」

 照れてしまう。こんな会話がアスタロトに聞かれでもしたら…恥ずかしくて死んでしまうわ。

 とは思いつつも横目に彼をみる。

 ジョージアと何か話してる彼がこちらに気づくと、小さくウィンクをしてきた。それに顔をまた赤くしたら、二人に今のやりとりを見られてしまっていてさらに顔を赤くする。

「気づきました…!?」

「い、今、ウィンクしたわよね…!?」

「え、えぇ…」

 他の人と話しているアスタロトはこんな感じなんだな、という程度で見ていたのにまさかこんなに騒がれるとは思っていなくて少し戸惑う。でもウィンクは私も驚いた。

「手慣れてるぅー!」

「これは、過去の女性関係が気になってしまいますね…」

「女性、関係…?」

 その言葉に思わず固まった。

 確かに彼は私より幾分か年上だけど、まさか…? 私以外に彼女がいたかもしれない…ということ?

 そんなこと、想像したこともない。

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