第10話
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街までは馬車を使って移動したので早い。
アスタロトはもちろん、ここまでの善行で報酬を得ていた勇者一行もなかなかの額を持ち歩いていた。一方私はと言えば、荷物の中には下着と元々着ていたドレス、装飾品をいくつか。お金に困った時に売ろうと考えていたけど、すぐにはそんな心配をしなくても良さそう。
昼ごろの街並みを眺めながら新しい景色に感動する。城に居ては中々見れない景色の連続に胸が躍った。
「すごい、人が敷き詰まっているみたい…!」
案内された市場は道も狭くて人が多い。表の通りでは絶対に見れない景色だわ。
「何よそれ、来たことないの?」
ハルカが呆れ気味に笑いかける。
私は困ったように返してしまった。
「いつも視察で見るのは表の通りばかりで…恥ずかしいわ」
「お、お姫様だから普通かと…」
なんてネルがフォローを入れてくれる。
「ふん、ダメなんて言ってないわ。これから嫌でも回ることになるってだけよ」
つんとした態度のハルカだけどその言葉は否定的でない。昨日の夜も思ったけれど、多分そういう不器用な女の子なんだと思う。
「ありがとう、二人とも」
つい、小さく笑ってしまう。それに釣られるように笑ってくれる二人に感謝した。
「あらあら、女の子は仲良くなってるカンジ? アタシも混ぜて混ぜてっ」
「ジョージア! いいところなんだから邪魔しないで」
「ひどーい! アタシだって心は女の子よ!?」
「心はね!」
ハルカとジョージアの言い合いは日常的なもののように感じて、またそこに小さく笑う。そしたらネルが「楽しそう…」と言ってくれたので「楽しいわ」と素直に返した。
「こんなに賑やかなことは初めてだもの」
「良かったです…いつもこんな調子ですよ」
「そう、素敵な集まりね」
楽しい会話の中で、不意に後ろから手が伸びる。見覚えのあるその腕は、私を捕まえるように体に絡んだ。
「ナターシャ。次は女の子の服だって」
「アスタロト…」
笑う彼の瞳は変わらず昏い。
それでも、本当は心のどこかでその瞳に安心してしまう私も私だと思う。よくないってわかっているのに。
「…ありがとう、今行くわ」
言い合いを未だ繰り返す二人に声をかけて、今度は女性の服を見に行く。慣れない私にハルカとネルが見立ててくれたおかげで、豪華なお姫様からなんでもない町娘が完成した。
「お姫様は何着ても似合うわね〜…」
「よくお似合いですよ…」
「そうかしら…?」
自分ではよくわからない。
でも似合うと言われて悪い気もしなかった。
そのまま何枚か似たような服を買って、荷物に詰めたら店を出る。男性陣に声をかけると、真っ先に反応したのはアスタロト。
「ナターシャ! その姿もよく似合ってる!」
感想を述べる彼の服装もよく似合っていると思った。くたびれたワイシャツにサスペンダーとスラックス、ハンチング帽を合わせてやや視線が翳っている。
今まで見なかったその姿に、少し胸が鳴った。
「あ、ありがと…」
なんて、ぎこちない返事。この身長差だと彼の視線が翳っていると言ってもその目がよく見える。輝いたその目が私を見ているのは明白で、そんな目で褒められたらやはり胸が高鳴って仕方ない。
「僕も似合ってるかな?」
両腕を広げて見せつける彼に少し言葉が詰まる。つい照れてしまって顔はそっぽをむいた。
「に、似合ってるんじゃない?」
ちゃんと見れない。恥ずかしい。
それでもアスタロトは目を輝かせてまた私に抱きついてくる。
「ありがとうナターシャ!」
「わ、わかったら離れなさい!」
彼を引き剥がしてから手を引っ張って一行の元に戻ると、彼らも少し印象が違う。どうやら装備を変えたみたいだ。
「良い装備があって良かった」
「新しいからどこかで慣らさないとねぇ」
「確かにそうね、馴染ませないと」
「でも良い依頼があるとは…」
そんな話し合いが聞こえる中顔を出すと、彼らはそうだと言わんばかりに顔を合わせる。
「そっか“依頼”か…!」
閃いたと言わんばかりの言葉にこちらが疑問を顔に出すと、レンジが「良いところがある」と言って全員で移動することになった。
「良いところ…?」
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