第8話
「…結論は、出たでしょうか?」
控えめに問う。
彼らがいくら平和的解決を望んでいたとしても、こちらの要求を飲んでくれるとは限らない。
「はい」
「どのような結論でも受け入れます。貴方方に無理を言ってるのはこちらですから」
勇者の解答を待った。
勇者は仲間と確認し合うように頷き合ってから口を開く。
「俺たちで良かったら、協力させてください」
予想外の言葉に、一瞬我を失う。
まさか引き受けてくれるとは…正直賭けだったのに。
「…良いのでしょうか?」
「こちらとしても姫様の意見に同意できる部分があったためです」
「ありがとうございます」
お礼を言った時だ、勇者がこう返す。
「なので取引といきませんか」
「取引…?」
形のある言葉にやや身構える。
金銀財宝なら国に帰った時に貰えてもおかしくない。かと言ってそれ以外に渡せるものもないので、そう思うと彼らは何を求めると言うのだろう。
「俺らは姫様と魔王がオリファに帰るまでお供します。その代わり…言ったことと貫き通してください」
「貫き通す…」
「そうです。必ずや魔王と結婚し和平の道を開いて欲しい。魔王には、人間と魔族を知って正しく国を作ってほしい。それが取引の条件です」
確かに、簡単なことではないと思った。
人間にも様々な種類がいる。己の利益を優先して魔物を忌避しているものも少なくないだろうし、魔物によってトラウマを抱えた者もいるだろう。私たちは時にそれをねじ伏せ、時にそれと寄り添い、道を切り開かなくてはいけない。それは大変なことだ。
アスタロトは暴君ではない。使うべき時に力を使える有能な王であると思う。でもそれが子の代まで引き継がれなかったら? 彼が何かしらで伏した時に頼れる存在がいなかったら? それこそ魔物は蛮族であるとして結論が覆ってしまう。一度そうなったら信用を取り戻すのも難しい。
これは一見こちらに対して不利な取引。どう見たってこちらの責任が大きすぎる。それでもそれを貫き通せるかを、今迷いなく決断できるかを、彼らは問うている。
私はアスタロトを見た。
彼は強い瞳で、意思を持って勇者一行を見ている。私もそれに続いた。
二人の気持ちが同じなら、迷うことなんてない。
「その取引、受けようじゃないか」
私が口を開いた瞬間、先に声を上げたのはアスタロトだった。少し驚いたけど、それだけ彼の決意が伝わってくる。
「私もです。必ずや結婚してみせます」
私たちの言葉に、勇者一行は安堵したような笑みを浮かべた。そして勇者が手を差し伸べる。
「じゃあ行こう。俺はレンジ、勇者だ」
「ワタシはハルカ、魔法使いよ」
「あたしはネルって言います…一応神官です」
「ア・タ・シは、ジョージアっていうの! クラスは遊び人だけどぉ、心は踊り子よんっ⭐︎」
こ、濃いな…最後のオカマ…とは思ったけど、やっぱり悪い人たちではなさそうだと感じた。
ここから抜け出して、新しい道を切り開いていくだけでも大きな一歩になる。
私は立ち上がって彼に手を差し伸べた。
「行こう、アスタロト。ここから始まるのよ」
私の言葉に、彼は少し嬉しそうに返す。
「あぁ…ナターシャ。ずっと一緒にいようね」
なんで今その言葉? と、私は素直に疑問に感じた。あまりにも当たり前すぎて、少し笑ってしまう。
「ふふっ…当たり前じゃない」
その言葉に、アスタロトはまた嬉しそうに笑った。
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