第99話 本気
「初対面で私の手握ってくる痴漢だから大丈夫」
「これ俺が握られてない?しかもなんで痴漢犯扱い?誹謗中傷された被害者なんだけど」
とてつもない毒舌女だ。
毒舌というよりは礼儀知らずの方が正しいか。
「樹く〜ん、まさか私置いて女の子と話してるんじゃないっすよね?」
「あ、いや、ちょっと知人とあー」
「もしかして彼女さんですか?思いっきりナンパされましたよ?」
「おぃぃぃ!何を言ってるの!?」
「……………」
ナンパしてないし、彼女じゃないし、痴漢してないし。
3枚舌にも程があるだろう。
しかも更衣室の中から禍々しい空気が漏れ出てるし。
「俺はやってない!」
「痴漢犯はみんなそう言うっす」
「痴漢犯じゃない!」
思ったのだが、何故優葉は俺が言われもない事を言われた時すぐ信じるのだろうか?
これもそうだ、俺は普段痴漢するような事をしているか?
優葉の胸を揉んだり、矢吹の下着を見たり………
しているな、確かに。
「樹君、1回家にー」
「もしかして古賀優葉さんかしら?」
「なんで私知ってるんっすか?」
「最近後輩が古賀さんの話ばっかりしてたのはそう言う事だったのね……」
1人納得した様子で首をコクコクと縦に振っている。
俺からしたら何も納得いってないんだが。
「もしかして君、古賀さんの彼氏?」
「いや、彼氏ではー」
「えっ?じゃあ古賀さん二股してるの?」
名前もまだ知らないこの人、人をなんだと思っているんだ。
俺は犯罪者に仕立てあげられるし、優葉を二股疑うし。
せめて2股疑うなら俺にしろ!
「2股してるのは樹君っす」
「本当に言うのは違くないすか?」
疑うなら俺にしろとは思ったけど。
言うのはさ、違うじゃん。
「まぁ、こっちの樹?って人と古賀が2股してるとかしてないはどうでもいいんだけど、私も古賀と同じ高校なんだけど、誰だか分かるかしら?」
「まっったく分かんないっす」
するとこいつは自分の頭を鷲掴みにし、上に引っ張ってウィッグを取ったあと、どこかへ走り去った。
そして数秒後、カラコンを取ったのか黒目に戻ったさっきの奴が戻ってきた。
「これでも?」
「ないっす」
「え!?藤崎愛華(とうざきあいか)って聞いた事ないの!?」
「あ、もしかして生徒会長っすか?」
嘘、生徒会長なの?この人?
さっきの風貌と、あの態度で!?
「そうよ!古賀さん、ミスコン出るらしいじゃない!」
「そうっすね」
何故かこの質問をされた途端、優葉の目が死んだ。
「学校中の男子を味方につけようと、私は負けないから!」
そしてそんなのお構いなしに突然の宣戦布告。
大丈夫か、道楽高校。
こんなのを生徒会長にしてしまって。
「あれ、東崎先輩ってミスコン出る人の集まりあった時居ましたっけ?」
「その時私、別な集会があってそっちに行ってたの」
「そうなんっすか」
「そうなの、校外の人が入ってくるってなると色々面倒な手続き必要だから」
「えっ!?あれ校外の人も参加できる様になったんっすか!?」
「そうよ?知らなかったの?説明会で言われなかったかしら?」
「…………あの時は仕方がなかったんっす、樹君に早く会いたかったんっす」
「え?もしかして優葉集会バックれた?」
「そうっす!!」
悲報、優葉とんでもない不良生徒だった。
「しかなくないっすか?集会6時間目が終わった後にあったんっすよ?ただでさえ樹君不足で限界なのに、あれ以上帰り遅くなったら死んでたっす」
「絶対バックれちゃダメな奴バックれたな……」
確かに説明会バックれてもどうにかなるにはなる。
だが、今回はバックれてたらダメだったようだ。
「サボり癖が仇となったわね!今回からは校外の人も投票にも出場者としても参加できる!つまり古賀だけの独壇場にはならないと言うことよ!首洗って待ってなさい!」
それだけ言うと、東崎さんは店の外へ行ってしまった。
ドレスを選びに来たんじゃなかったのか。
そのせいで俺とトラブったのに。
「何がしたかったんっすかね?」
「でもちょっと、あそこまではっきり宣戦布告されると負かしてやりたくなるな」
「なんか樹君燃えてないっすか?」
あそこまではっきり言われるとなんでもやる気が出てしまうものだ。
中学の時、格闘技をやっていると相手から煽られるとかがあったので、啖呵切られたり煽られたりすると、その時の影響で反射的に相手を負かしてやりたいという気持ちが出てきてしまう。
その時に近い気持ちだ。
「優葉、何時までに帰れればいい?」
「4時までっす、初めて樹くんがここまで何かに燃えてるの見た気がするっす」
優葉が少しキョトンとしている。
「じゃあそれまで試着するぞ!」
「樹君が本気なら私も本気で頑張るっすよ!ドンとこいっす!」
夏の大会以来初めてやる気が出た俺だった。
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