第95話 居た堪れない

「そういえば、今日テストあったんっすよ」


ある日、俺はリビングのソファーであぐらをかきがなら優葉と話していた。


冬樹は爆音で音楽流しながらゲーム部屋で熱唱してて、矢吹は寝室で寝ている。


「ほ〜何点だったの?」


「0」


「0!?」


案の定悲惨な点数だった。


何をどうやったら0点なんて取れるのか。


「それでさ、私の学校、主要7科目のテストで赤点取ると隣の人に教えてもらって1週間後に再テストするっていうゴミみたいなシステムがあるんっすね。


だけど、私の隣の席の人下心丸出しで、一緒に家で勉強しない?とか訳分からない事言ってくるんっよ」


「そいつの事はいつもみたいな辛口拒絶しなかったの?」


「したけど、鋼のメンタルで一生迫ってくるっす」


「あ、無敵の人なのね」


普段、優葉から補習になったという話は聞かないのでこれが初めてなのだろう。


その時に限って、隣が無敵の人なのは運が悪すぎる。


「でなんっすけど、家だと集中出来ないから図書館でやろうと思うんっす」


「どこの?」


「道楽高校の近くっす」


道楽高校は同波高校の最寄り駅より2駅前にあるので、定期を使っていけるのだがふっつーに面倒くさい。


「普通に面倒くさいのと、冬樹付いてくるだろうし、そうなったら多分矢吹も来ると思うから家とあんま変わらないと思うんだけど」


「樹君は知らないんっすね、あの2人も補習で1週間帰りが遅れると言うことを!!」


「4分の3が補習って俺ら大丈夫か」


俺もかなり学力的に心配がある部類で他人の事は言えないが、補習の対象になった事はない。


生徒指導なら食らったことがあるが。



「あれ、じゃあ……」


なんで矢吹と冬樹は教えてと言って来ないんだ?


そう思ったが、よくよく考えるとあいつらは高2だ。


俺が教えられる訳がない。


先輩感が1ミリもないので忘れていた。


「良いっすか?」


「分かった、明日から1週間な」


「やった〜!」


こうして俺は軽々しく優葉と約束をしてしまったのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「道楽高校の生徒で溢れかえってる………」 


俺は制服のまま、道楽高校の最寄り駅で優葉を待っていた。


「優葉はどこだ……」


道楽高校の周辺に色々な企業の工場や本社があるせいで、駅の人口密度がとんでもない事になっている。


お陰で身長が低い優葉がどこにいるのか全く分からない。


「樹く〜ん!」


ちょっと遠くで爪先立ちして両手をぶんぶん振っている優葉の姿が見えた。


「こんな人居て図書館座る場所あるのか………?」


「図書館は基本、道楽高校生しか居ないから空いてると思うっす!」


「なら良いけど、じゃあ行くか」


そして俺たちは目的の図書館に着いた。


「………初めて来たはずだけど、どこかで見た記憶がある……」


この図書館は初めてくるはずだ。


なのに、どこかで見たことがある気がする。


中学校で過激な人生を歩んだから、小学校や幼稚園児の頃のほのぼのとした記憶が全てかき消されてて思い出せないのかと思ったが、図書館は大体どこも似たような作りなのでそれで勘違いしてるだけだろう。


「マジでいつ見たんだ、ここ」


図書館に入ると、ますます見たことがある気がしてきた。


「覚えてるか分かんないっすけど、樹君、十数回来たことあると思うっすよ」


「そんなに?」


本当に来たことがあるらしい。


しかし、肝心のいつ来たのかが思い出せない。


「えぇ?俺いつ来たんだ?」


「おお、4年ぶりくらいじゃないか樹君」


そんな事を考えて、図書館を見回していると後ろから声が聞こえた。


そしてその声にも、聞き覚えがあった。


「あ!!!!!!!」


俺は遂に思い出した。


ここは疎遠になる前の俺と優葉が良く遊んだ、優葉のおじいちゃんが管理してる図書館だ。


優葉に本を奪われて泣かされて、優葉おじいちゃんに慰められた記憶しかない。


どうりで見覚えがあった訳だ。


「どうも、ご無沙汰しています、哲平さん?でしたよね」


「おぉ、名前覚えとってくれたんかい、忘れとるかと思ったわ」


優葉の祖父、古賀哲平だ。


小さい頃しょっちゅうここに来ていたので見た瞬間1発で分かった。


哲平さんと会うのは4年ぶりくらいだが、あの頃から何も変わっていない。


「樹君も大きくなったなぁ、どうだい、孫とは仲良くしてくれてるか」


「ええ、まぁはい、あの頃と変わらず仲良くしてます」


「ほほほ、なら良かったわい、どうじゃ、高校生にもなったんだし樹君は彼女おるのか?居ないなら、優葉を嫁に貰うつもりはないか?ほれ、幼稚園生の頃よく言っておったじゃろ」


えっ!?俺そんな事を言ってたの!?


言った記憶ないんだけど!!


言った記憶があったらそれはそれで、どんだけ記憶力良いんだよという話ではあるが。


「彼女は居ないですけど、記憶が前すぎて……」


「言っていたのは幼稚園児の時だけだったから無理はないか、じゃが、彼女はおらんのじゃろ?曾孫を見れるのを楽しみにしておるぞ」


「いやぁ……アハハハ……考えておきます………」


「じっくり考えなさい、悩むのは若者の特権だからな、わしみたいな年寄りがボーッと悩んどるとそのまま意識と一緒に命まで抜けてポックリいってしまいかねないからのぉ」


「アハハハ………」


曾孫を見たいと期待を寄せられ、年齢的に割と笑えないブラックジョークを言われ、とても居た堪れない気持ちになった。


後書き


内容が決まらなくて書くのが遅くなってしました!すいません!

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