第94話 刺されるって
「なんで居るの?」
「まだ帰る時間じゃないし、私に至っては生徒だから」
確かに委員長、”ほとんど”人居なくなったって言ってたな。
「樹君着替えちゃうんっすか?」
「そりゃな、暑いし、少し汗かいてるし」
「あとでその服欲しいっす」
「いや、ダメだろ、クラスの経費で買ってるやつだから」
俺が持ち帰らなかったら誰が持ち帰るんだという話になるが、ここで「いいよ〜」と言うと周りから変な目で見られそうな気がしたので、それっぽく言い訳して拒否した。
優葉も優葉で俺の服持ち帰ってどうすんだとは思うが。
「なんというか、すごい自然に4人だけの空間作り出すな」
その会話を横で聞いていた石田がそう言ってきた。
「隣の坊主君、名前なんて言うのかしら?」
「俺!石田って言います!もう、ほんと、見目麗しゅうございます」
不意に冬樹に話しかけられて、テンパった石田が訳の分からない事を口走っている。
「なんかこの人変」
「はうっ‼︎」
「冬樹、オブラートというものを知ろうか」
冬樹に変な人扱いされて、石田が膝から崩れ落ちてしまった。
「そういえばさ、冬樹は自分の持ち場どうしてたの?」
石田はちょっとすれば復活するだろうと思い、放置して冬樹と話を続けた。
「看板持って10分くらい歩き回ってたらいつの間にか行列出来てたから宣伝放棄してきた」
「……まぁ、それはな、すぐ人集まりそうだもんな」
冬樹みたいに男子の理想詰め込んだみたいな見た目してれば、ゴキブリホイホイならぬダンシホイホイだ。
何人の男子が、冬樹のジャージ上からでも分かる大きさの脂肪の塊に釣られていったのだろうか。
冬樹に着いていく男子の姿を想像したが、なんともいえない気持ちになったので俺は考えるのをやめた。
「樹君、あんな破廉恥な事学校ではダメよ」
「俺なにも言ってないよね!?」
冬樹が突然自分の胸を押さえて、後退りすると共に俺に冤罪を着せてきた。
冬樹について行く男子を想像していた時に少し冬樹の胸をチラ見したのを悟られたみたいだ。
いつも反応遅いのに、こういう時だけ異常なまでに敏感になるのやめてくれ。
「樹、心配だから聞いておくんだけど、前みたいな事やってないよな?保健体育の評定1つくぞ」
「断じてやってない!!」
あんな事をまたやったら保健体育だけじゃなくて人としての評価も1つくわ。
「樹……俺は見損なったよ……お前はまだそちら側に足を踏み入れてないと思っていたのに」
「踏み入れてない!」
鈍感な石田でさえも、俺が過去になにをやらかしたのか察してしまったようだ。
ドラッグストアで、今までの察しの良さを失いつつある五月に会ったのが運の尽きだったのかもしれない。
「じゃ、時間だからあーしたち帰るね、ばいば〜い」
「私も片付けあるからまたね〜、片付け終わったら昇降口で待ってるわよ」
「ああ…またね……」
石田に余計な知識を植え込んで3人が帰っていった。
あと何気にドアの後ろに委員長いるし。
「久城君、愛の形は人それぞれだから良いと思うよ」
「フォローしようとしないで!辛くなるから!」
「樹が刺されるのも遠くないかもね」
「縁起でもない事を言うな」
真面目な話、俺が刺されたら3人がとんでもないくらい凹むのが予想出来るので、刺されたくないし、変なのに襲われたとしても3人に気付かれないように事を納めるしかない。
ストーカーが何もしてこなければそれで済む話なのだが、ストーキングした挙句盗撮までするあたりまともじゃなさそうなので少し怖い。
「樹の手にかかってるとはいえ、3人ともとんでもなく可愛かったな」
「かかってねぇよ!」
正気を取り戻した石田が、鼻の穴を大きくしてそう言った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今日は楽しかったわね」
「楽しかったは楽しかったんだけど、なんかいつもより距離近くない」
下校中、俺は冬樹にそう言った。
なんかさっきから距離感が変なのだ。
「いつも変だろ!」と言われればその通りなんだが、いつもよりボディータッチが激しい。
昇降口からずっと俺の腕をにぎにぎしている。
メガネをかけた先輩がすんごい微笑ましげな目で見てきて、「彼女出来なかったぁぁ!!」叫んでいる先輩が、こっちをみて血涙を流している。
サラリーマンが無表情でこっち見てて怖いし。
なんで人は恥ずかしいと感じてる時に限って視野が広くなるんだろうか。
こういう時こそ狭くていいのに。
「樹君がナンパされないようにしなきゃでしょ!今日でよく分かったもん!樹君1人にしたらどうなるか!」
「ちょっとだけ優葉が乗り移ってない?」
石田の言う通り、俺が襲われるのもそう遠い未来ではないのかもしれない。
後書き
上手く書けなくて書き終わるのが遅くなってしまいました。
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