第92話 文化祭 5
「いらっしゃいませ」
最初の接客相手はすんごいキャピキャピした女子4人組だ。
最初の接客相手にしては、難易度高過ぎませんかね?
「君が私たち担当してくれるの?」
「はい、そうです、今日は私が、お嬢様達を担当させていただきます」
お客様というのは執事なのに他人行儀すぎる気がしたので一瞬悩んだ結果、お嬢様と言ってしまったが、これはかなり恥ずかしい。
人生でお嬢様と面と向かって人に言う機会は今日が最初で最後だろう。
「どうぞ、こちらの席へお座りください」
会話が詰まったので、俺は席に誘導した。
まだまだ後ろに人が並んでいるのであまり時間は掛けられない。
「注文が決まりましたら、お呼びください」
「君は彼女さんとかいるのかな?」
4人が席に着いたのでのグループに行こうした瞬間、俺が1番恐れていた事態が起きた。
もう強引にでもこれ以上会話が続かないような状態に持っていくしかない。
「いいえ、彼女は居ません。ですが心に決めた人はいるので、そういう事はお控え願います。
では、注文が決まったらお呼びください」
初対面の人に嘘をつくのは心が痛むが、そうしないと俺が周りに迷惑をかけてしまうので仕方ない事だろう。
五月も上手く避けれたのか、次の接客に取り掛かろうとしていた。
男子のグループも結構あるので、男女共に大忙しだ。
接客が始まって20分ほど経って女子グループのナンパを躱しなれてきた時だった。
「樹、冬樹先輩達待ってるから行ってこい」
「え、マジ?」
通りすがりに五月がそう囁かれた。
教室の入り口付近を見ると、ドアのガラス窓から冬樹の銀髪がチラチラ見えている。
シフトに同じ時間とか言っていたのに、なんでここに居るのだろうか……
疑問が頭に浮かんだが、石田の声でその疑問はパッと消えてしまった。
「樹〜、席開いたから次のグループ入れるぞ〜」
ドアが開くと、そこには矢吹、冬樹、優葉の3人がいた。
こうして見ると、3人ともつくづく美少女だな。
ロリ系とお姉さん系、クール系と上手く分かれててまるでアイドルグループだ。
「いらっしゃいませ」
そんな事を思いながら、俺は平常心を装って接客を始めた。
「今日は樹君が接客してくれるんっすか?」
あれ、なんか最初もこんな感じの会話した気が……
「はい、今日は私がお嬢様達を担当させていただきます」
「はうっ!」
前々から俺が接客すると言ってあったのになんであんな事を聞いてきたのかと思えば、やっぱりお嬢様と言われたかっただけだったようだ。
だんだん3人の思ってる事が分かるようになってきている気がする。
「では、こちらのお席へどうぞ」
俺はそう言って、他の人と同じ様に冬樹達を案内した。
「樹君は彼女さんいるの?」
「は?」
突如、矢吹に意図の分からない質問をされて素で反応してしまった。
「いえ、居ませんがーー」
「じゃあさ、あーし達と連絡交換しない?」
矢吹がどことなく声のボリュームを上げてそう言った。
「もう既に交換してはいませんでしょうか?」
一緒に住んでる相手からナンパされるってどういう状況だよ。
一応お客様だから敬語は使うけどさ!
「あ!そうだった!もうみんな繋いでたね!忘れてたよ!」
「思い出してくれて何よりです」
「これ以上困らせたら可哀想っすよ、いくら困ってるところを見たいからって」
「確かにそうね、これくらいにしておく」
「お嬢様さま?会話が丸聞こえでございますが??」
矢吹がさっきからよく分からない質問ばかりしてくるなと思っていたが、ただただ俺を困らせたいだけだったのかよ。
酷い話だ。
「では、注文が決まりましたらお呼びください」
「1つ質問良いかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「執事のテイクアウトってやってるかしら?」
「はい?」
今の発言で教室の空気は一瞬凍った。
が、冬樹という名の暴走機関車は止まらなかった。
「やっていません」
「お持ち帰りは?」
「言い方を変えても同じです」
冬樹のやつ、もっと露骨に言ってきやがった。
教室の空気がまた一瞬凍った気がしたが、気にしないでいこう。
「じゃあ、ジンジャーエールとコーラ2つください」
暴走機関車冬樹、ようやく停車。
「は、はぁ……注文承りました、少々お待ちください……」
ふざけたり、急に真面目になったり。
めちゃめちゃ振り回された。
その後3人は、俺の執事姿をじっくり眺めながらジュースを飲んで教室から出て行った。
そして何故か、冬樹たち接客後、俺に対するナンパピタリと止まったのだった。
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