第89話 文化祭 2
「想像の2倍くらい人居る気がするんだけれども」
俺と五月は、皆んなが直前のシフト確認、調理器具の準備などをしている間、から外を見て話していた。
接客組は調理組みたいに検便をしてないので手伝うことは出来ず、シフト、所作確認、髪のセットをして終了だった。
それで暇になったのでベランダから校門を眺めている所だ。
「午前中の人、重労働になりそうだな」
「樹が午後にしたいって言ってくれて良かったよ」
校門前には既に数十人は人がいた。
まだ文化祭開始する10分以上前なのにあれだけ人がいるなら、これからもっと増えるだろう。
人が沢山来るに越した事はないが、多すぎると俺らが重労働させられることになるので勘弁してほしい。
「そういえばすまんな、回れなくなっちゃって」
「気にすんな、この機会無駄にすんなよ」
「樹は誰と回るの?」
「冬樹たちとだな」
「たちって事は古賀さんも矢吹さんも来るの?」
「もちろん」
「騒がれるのが嫌みたいな事言ってたけどもう気にしないで行く感じ?」
「気にしないというより、もう騒がれ過ぎて、騒がれ慣れてしまった」
冬樹と身体の関係を持っていると騒がれ、駅前で鉢合わせて騒がれ。
もう慣れてしまった。
「只今から〜校舎を開放します、生徒のみなさんは〜〜」
そう放送が入った。
一般開放が始まるみたいだ。
「じゃ、頑張ってこいよ五月、また午後にな」
「おう、また午後会おうな」
そうして俺は五月を送り出した。
教室では接客が始まるので、廊下に移動し冬樹たちを待った。
「あいつら遅くね……?」
待てど暮らせど冬樹たちは来ない。
廊下はかなりの人が行き来しているので、そろそろ来てもおかしくは無いのだが。
もしかして1年1組がどこだか分かってないのだろうか?
教室がどこにあるか言い忘れてしまったので分かって無いのだろう。
昇降口に行ったら居るかもしれない。
俺はそう思い、昇降口に向かった。
「古賀さんと矢吹さん一緒にまわー」
「すいません、私たちもう一緒に回る約束している人がいるので無理っす」
「その一緒に回る女の子も一緒にーー」
「男っす」
「男……」
居た、見てないけど今の会話の語尾がモロ優葉だった。
「あ!樹君、準備ちょっと遅れちゃった」
すると、優葉たちからではなく横から声が聞こえた。
「お、冬樹か」
「雫ちゃんと優葉ちゃんは?」
「昇降口でナンパと戦ってる」
「文化祭にナンパは付き物だから仕方ないわね……助け船出しに行きましょ」
「だな」
昇降口でナンパ目的で矢吹と優葉にたむろわれたら他の人の邪魔だし、2人がナンパされ続けるのも嫌なので、俺と冬樹は2人に助け舟を出す事にした。
「冬樹雪花さんですか?」
そして人混みに突っ込んで行った瞬間、冬樹が声をかけられた。
冬樹も他校で有名だというのを完全に忘れていた。
「私は隣にいる人と、優葉ちゃんと雫ちゃんと遊ぶからナンパお断りよ」
ナンパを予測して間髪入れずに、冬樹がそう言って俺の腕を引き寄せた。
冬樹的には、ナンパされるのを防ぐのと矢吹、優葉に助け舟を出したつもりだったのかもしれない。
ただ、今その発言と同時に胸に腕が当たるくらい腕を引き寄せたらーー
「隣の人冬樹さんの彼氏ですか?」
「え!?冬樹さん彼氏居たの!?」
「あれだけ可愛いとやっぱ彼氏居るんだ……」
ですよね!!こうなりますよね!!
この距離感は明らかに友達の距離感じゃないもんな!
さっきより昇降口が騒がしくなった。
あと、俺が冬樹の彼氏だという誤情報がとんでもないスピードで伝播した。
「あ、樹君!学校では冬樹ちゃんとそんな風なんっすね!!」
「樹君………」
ペカーっと貼り付けた様な笑顔をした優葉と、目の奥が死んでいる矢吹がいた。
「これ以上、雫ちゃんと優葉ちゃんにナンパするのは私が許しません!あと、まだ彼氏は居ません!ナンパ目的は退散!」
「マジか!じゃあわんちゃんー」
「誰が言ったのか分からないけど、わんちゃんも無い!0%!雫ちゃんと優葉ちゃんも一緒!」
俺が彼氏じゃないと言った瞬間、一縷の望みにかけた人がそう言ったが、冬樹に一蹴されて終わった。
冬樹に言われるのは他のナンパ目的の男子も効いたのか、少しずつ男子がはけていった。
「1回外出るか」
男子が減ったとは言え、3人が集まってるから野次馬はまだ多いので一旦落ち着くために外に出る事にした。
「冬樹ちゃんと樹君は普段そんな感じなんだね」
「いや、あれはたまたまだからな!?普段はあんなんじゃ無いからな!?」
「そんな事言わないでよ〜この前も教室であんな事やこんな事をしたじゃない」
「生徒指導室と言う名の教室で生徒指導食らっただけだ!誤解を産みそうな言い方するな!」
冬樹はすぐ語弊を産みそうな発言をする。
そしてさっきの冬樹の怪しい発言のせいで何人かの他校生がこっちをガン見している。
「俺もシフトあるから早く回ろう」
昇降口にいると他の人の視線が凄くて落ち着かない。
「そうね、私もシフトあるし」
「最初どこ行く?」
「食べたい!」
「私も食べたいっす!」
「じゃ、なんか食べに行くか〜」
そしてようやく俺たちは文化祭の出し物に向かった。
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