第88話 文化祭 1
「………で、俺はなんで文化祭当日の朝に手錠かけられて椅子にに縛り付けられて放置されてるんだい?」
「樹君がナンパされて別な所行っちゃわないか不安だからっす」
俺は朝から優葉に人生2度目の監禁を受けていた。
今回は前回より酷い監禁のされ方だ。
起きた時には寝室で椅子に縛り付けられていて、虚しくゲーム部屋に誘拐された。
正直、文化祭当日の朝に監禁は笑えないので暴れてでも逃げたかった。
だが、すごいお疲れの様子の矢吹と冬樹を起こしてしまうと申し訳なかった。
という理由が1割で、9割は俺が縛り付けられている椅子にあった。
俺が縛り付けられているのは俺のゲーミングチェア、くっそ高いやつだ。
だから壊したくなかった。
壊したら泣きながら接客する事になると思う、うん。
「なんでそんなナンパを気にしてるの?」
「あーほら、私が昨日言った事全部忘れてるっす、鶏っすか?樹君は」
「なんで俺は朝から罵倒されなきゃならないんだ」
「罵倒じゃなくて事実陳列っす」
「分かった、優葉がナンパを気にしてるのは分かったから、逃してくれません?俺まだ寝たいんですけど」
PCに表示されてる時間を見るとまだ、朝の5時だ。
幸い、昨日早く寝たから寝不足という事は無いが、朝の5時はまだ眠い。
「今日明日の2日間、樹君の仮の彼女になってナンパを撃退するのを許可してくれれば解放するっす」
「俺に正真正銘の2股男になれと?」
「もう既に正真正銘の3股男じゃないっすか」
「うん、それはごもっともな意見なんだけど、周りにバレるのはちゃうやん」
旅行先のホテルで盗撮された俺の悲惨な寝顔は、あまりにも顔が押しつぶされて変形していたので俺だとバレず難を逃れた。
だが、もしこれを許可してしまえば、あの寝顔が俺だとバレるし、皆んなに2股男認定されるし、悲惨な事になる。
「せめて、4人で一緒にまわるとかにしてくれ」
代案として4人で回ることを提案してみた。
多分、俺が優葉と仲良くしてたら矢吹殺人鬼の様な目つきで俺を睨んできて事あるごとにDVを働いてきそうだし、冬樹は勝手に妄想して叫びだしそうだし、出来るなら4人で仲良く回りたい。
そっちの方が友達感が出るので周りにも騒がれにくいだろう。
とはいえ、今回のこれは優葉の独占欲から来るものだと思うので拒否されると思うが。
「それならそれで良いっすけど、樹君は4人で一緒にまわってもいいんっすか?」
意外とあっさり認めてくれた。
今回は単にナンパが心配なだけだったらしい。
「逆になんでダメだと思った?」
「樹君、もう1人の五月さんと一緒にだと思ってたっす。そこに私がお友達として着いていくのは変なんで、彼女のふりしていれば良いかな〜と」
「五月はね、彼は別な用事があるから」
悲しい話だが、彼は他クラスの女子からお誘いがあったらしい。
昨日の寝際、連絡があった。
しかも相手は五月が少し気になっていた人だとか。
流石にそれを、俺とまわるからと断るのはとても申し訳ないので
「成就させるんだぞ、友よ」
とラブコメ主人公の友達が言いそうな事を送って、俺は寝た。
「じゃあ決まりっすね!解放するっす!」
「早く俺を二度寝させろ……」
ロープと手錠を外された俺は、よたよたと寝室に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「樹君、そういえば今日誰と回るの?」
朝食を食べていると、冬樹がそう聞いてきた。
優葉を見ると、「分かってるっすよね??」と言わんばかりの目で圧をかけてきている。
「今日は4人でまわらないか?」
「良いの!?」
「ん!!」
冬樹が目をキラキラさせるのと、同時に矢吹が口の中に食べ物を詰めたまま顔を上げた。
さっきまで何を考えていたのか死にそうな顔をしていたが、今は餌を見つけたハムスターみたいになっている。
「今日は樹君のクラスの出し物行って、ナンパ男の玉蹴り潰して帰るだけなのか思ってたのに!!」
「相変わらず物騒だな!!」
これは4人で回ることにして正解だったかもしれない。
俺がこの3人とまわって騒がれるより、矢吹にナンパした男が廊下で点々と股間を押さえて悶えてるのを見る方が嫌だ。
「念の為、私のシフトと樹君のシフトの時間被せておいて正解だったわ」
「なんで俺のシフトの時間知ってるの?」
「樹君の教室行って盗み聞きしたわよ」
「なんて事をしてるの!?」
全く関係ないクラスの話し合いを盗み聞きする生徒がどこにいるだろうか。
側から見ればただのやばいやつである。
「樹君のシフトはいつなんっすか?」
「今日も明日も午後、俺が人がめちゃめちゃ多い朝はやめてと委員長に懇願したおかげでな」
「樹君、私たちはもうそろそろ出ないと直前準備間に合わなくなるわよ〜」
「あ〜確かに、じゃあ俺と冬樹は先行ってるわ、優葉と矢吹は学校着いたら1年1組教室着てくれ〜」
「分かったわ」
「了解っす〜」
こうして俺たちの文化祭が幕を開けた。
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