第84話 買い出し4

「じゃあ気を取り直してゲーセン行くか」


冬樹はあと先輩に放置された様なので、冬樹も連れて一緒に遊ぶ事にした。


「今回は五月さんも居るっすけど、このメンツでゲーセン行くのオフ会ぶりっすね」


「言われてみれば確かに、オフ会ぶりだわ」


あの時は音ゲーでボッコボコにされた挙句、不良に絡まれるという不幸に見舞われた。


流石に今回は男2人居るし大丈ーー


「私今この4人と一緒に遊んでるんで無理っす!」


「優葉ァァァ!」


ちょっと離れて歩いていた優葉が、俺の思った事とは相反して秒でナンパされた。


しかも同波高校の他の買い出し組に。


「部長……まじすか…女遊びは絶対しないとか言ってたのに……」


なんなら、五月の部活の先輩の様だ。


「あ……清水……」


向こうも五月がいる事に気が付いてしまい、めちゃめちゃ気まずい。


「んんっ、清水、お前が今見た事は全て忘れてくれ、あと冬樹さんとそこの3人も」


「分かりました、部長」


「絶対に口外はしないでくれよ、俺が和葉に殺されてしまうから」


「分かりました」


そして先輩は駆け足でどこかへ走り去ってしまった。


「部長、柔道部の部長の彼女いるから浮気したらぶっ殺されるってこの前言ってたのに」


どうやら和葉というのは彼女らしい。


しかも柔道部の部長。


怒らせたらヤバいタイプであろう人を彼女にしてるのに二股しようとナンパするってどれだけメンタルが強いのだろうか?


「ふっ、私の魅力に負けちゃった見たいっすね」


自慢げにそう言った。


そして、目で矢吹を煽る様に見ている。


(やっぱり私が1番可愛いみたいっすね!)


と言わんばかりに。


「樹君、ちょっとここ持ってて、少し1人で歩き回ってナンパRTAしてくる」


「やめてやめて!矢吹がナンパされなかったのは俺たちと一緒に歩いてたからだから!矢吹にも魅力あるから!」


「そう、かな……」


俺が矢吹をフォローするために、さりげなく魅力があると言ったら矢吹が少し照れた。


「なに照れてんっすか???」


「怖っ!」


矢吹が照れてるのを見て、優葉が少しキレた。


目がバッキバキだ。


「あのさ、なんで今日そんな2人ともピリピリしてんの?」


屋上で会った時もそうだが、普段は仲が良い矢吹と優葉が今日はずーっとピリピリしている。


喧嘩でもしたのだろうか?


「優葉ちゃんがあーしの邪魔をしてきたからよ!」


「矢吹ちゃんが私の邪魔をしてきたからっす!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


優葉視点


「やった〜今日は早く帰れるっす〜」


偶々、講演する予定だった講師が渋滞で来れなくなったから早帰りになったっす。


早帰りは嬉しいっすけど、樹君たちはまだ学校で家に帰った所で誰も居ないっすもんね。


どこかで少しお茶でもして時間潰して帰ろうかな〜いや、でも今は少し金欠気味っすから……


「そういえば、まだ樹君は学校なんすかね〜」


私はなんとなく樹君のスマホのGPSを見た。


「あれ!なんで樹くん学校に居ないんっすか!?」


何故か樹君のGPSが動いていた。


まだ学校は終わっていない時間の筈なのになんでっすかね……


あ!もしかして明日の文化祭の買い出しに行かされてるんっすかね?


確か同波高校の文化祭は……やっぱり明日っすか!


「これはもしかして、2人きりになるチャンスじゃないっすか?」


普段は4人でいる事が殆どなので、2人きりになれる事など滅多になかったっす。


でも、この買い出しの時だけは、樹君が1人になる筈っすよね!


そう思い、私はGPSを頼りにショッピングセンターへと歩いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


矢吹視点


「学校が早く終わったから一緒に遊ばーー」


「ないわよ、それじゃ」


学校が早く終わった事を口実に遊びに誘ってくる男子を一蹴して、私は帰路についた。


「家帰って、何しようかな…」


まだ3人とも学校に居るから家に帰っても暇だ。


「あ、もしかしたら樹君なら」


同波高校は明日が文化祭なので、今日買い出しがある筈だ。


あの面倒くさがりの樹君なら、買い出しに行って飾りつけとかの準備から逃げるかもしれない。


私も去年買い出し行かされた時、これくらいの時間だった気がするから会えるかも……!!


しかも、もし会えたら2人きりだからアタックするチャンス……!!


「同波高校の最寄りのショッピングセンターは……」


意外と近くに大きなショッピングセンターがあった。


もし買い出しならここに来てる可能性が高いだろう。


よし、行こう!


そして、私は電車とバスを使って急いで樹君が居るであろうショッピングセンターに向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そしたら優葉ちゃんが!!」


「そしたら矢吹ちゃんが!!」


ほうほう、2人とも全く同じ事を考えて行動してここまで辿り着いたと。


それで入り口で鉢合わせて、お互い邪魔されてピリピリムードか。


俺としてはここまで思われてるとは思ってなかったので気恥ずかしいが、なんというか微笑ましい理由だった。


「樹、二股は良くないよ、あの先輩も言ってたじゃない」


「まだどっちとも付き合ってねぇよ!!」


「”まだ”って事は今後3人かと付き合うつもりはあるんだ」


「それはだな……」


「私っすよね?」


「あーしだよね?」


「私よね??」


3人に笑顔で圧をかけられた。


そして五月には誰選ぶの?と言いたげな好奇の目で見つめられた。


「でも、まだ待って上げるっすよ、矢吹ちゃんとかが卒業するまでに決めて貰えれば良いっすからね」


「そうしてくれ…」


「僕ちゃんは?」


「きっしょ!」


突然五月が裏声で女子の真似をしてきた。


しかも絶妙に上目遣いになってて、少し気持ちが悪い。


「酷いなぁ樹、冗談のつもりだったのに」


「冗談じゃなかったらそれはそれで怖えよ!」


「「「ハハハハ!!」」」


そして、なんとなくピリピリしていた空気は消え去り、俺たちは和気藹々とゲーセンで遊んだ後、買うものを買って学校に戻った。

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