第85話 散髪
「いや〜楽しかった楽しかった、樹たちの恋愛の実情知れたし」
「うるせーな」
3人と別れ、準備を着々と進めているクラスを見ながら俺たちはそう話していた。
「デカいつきも働けよ〜、ミニいつきも〜」
「「俺たちは俺たちでやる事があるんです〜」」
夏休みが明けてから、俺と五月が一緒に居ることが多くなったからなのか、ミニいつきデカ
いつきと呼び分けられている。
今まで俺は、あまり教室で名前を呼ばれる事が無かったのだが、執事役になったりと色々関わりが増えていった結果、樹と呼ぶと五月も反応するややこしい状況が多発した。
その結果、身長で区別する事になったらしく、170cmの俺がミニいつき、178cmの五月がデカいつきと呼ばれる事となったのだ。
なんて適当な名前の付け方だろう。
「執事とメイドやる人はこっちきて〜」
「「は〜い」」
クラスの女子に呼ばれて、俺たちは被服室に連れてこられた。
「今から接客する時の所作教えるね〜」
学級委員長がそう行って、被服室にある電子黒板に動画を流した。
内容は当然、執事、メイドの所作だった。
内容はお左手を腹部に置いて、右手は腰の後ろにしてお辞儀すると言うのと、基本的にいらっしゃいませとかは言わず会釈だけして必要以上の会話はしない、と言った所だ。
割とシンプルなので以外と所作に関しては困らないかもしれない。
必要以上の会話をしないというのも、初対面の相手だと全く話せない俺からしたら結構助かる。
「所作は今日家で練習しておいて〜、じゃあ次は服着付けたり、軽く髪の毛セットしたりするね」
委員長がそういうや否や、ヘアワックスや櫛、タキシードやらを沢山持った見知らぬ人々が被服室に入ってきた。
「髪の毛のセットは美術部の人にやってもらいます!」
「俺たちの髪アート作品に使われるの?」
メイク得意とか髪の毛セット上手とかじゃなくて美術部員を派遣したらしい。
「同波高校の美術部ボディーアートやってるからめっちゃメイク上手いよ」
何でここで美術部?と思ったがボディーアートをやっていたからなのか。
ボディーアートは良く知らないが、なんか難しそうなので髪の毛のセットとかメイクは上手そうで安心出来る。
「は〜い、じゃあメイクとかするからこの鏡の前座って」
その場から近い順で俺が最初に頭を弄られる事になったので俺は椅子に着いた。
後ろには優しそうな顔をした男の先輩が立っている。
「長いから丸坊主!」
「坊主!?」
突然の散髪宣言。
そしていつの間にか右手にはバリカンが持たれている。
こんな優しげな先輩からとんでもない発言が飛び出すとは思ってもいなかった。
「冗談だよ、そんなバリカンで丸坊主とかにしたりはしないよ、全体的に少し髪の毛短くするだけ」
そう言われ見ると、左手には散髪用のスキバサミが2本持たれていた。
「じゃあ切ってもいいかな?」
「う〜ん………はい、お願いします」
正直あんまり髪を切りたく無いが、はっきり言って今の俺は黒いマリモだ。
見栄えがかなり悪い髪の毛なのは事実だろう。
高校入った直後に1度切って以来、ずっと切って無い。
なので、俺は切ってもらう事を決意した。
あと、ちょっとだけ床屋行くのが面倒くさいからという理由もある。
「じゃあ切るね〜」
そして首周りに大きめのシートがかけられて、頭上の至る所でハサミの音が聞こえた。
ハサミの音が止み頭をわしゃわしゃされて切られた髪を床に落としたあと、ワックスが塗られた。
「終わったよ〜」
十数分経った頃だろうか、先輩に言われた。
髪が目に入りたく無いので目を閉じていたので、今どんな髪になっているのか分からない。
そして俺は恐る恐る目を開けた。
「……!!」
あんなにマリモ状態だった髪の毛が、切られて短くなったのとワックスで固められた事によって、2分の1くらいの体積になっている。
髪型はセンター分けにされてて、さっぱりした感じになっていて、前よりは確実に良くなっているのが分かった。
「五月?俺の頭どう?」
見た目は自己評価じゃなくて他人からの評価なので、五月にも聞いてみた。
「樹、これからはその髪型でいた方が良いぞ、そっちの方がぜっっったいに良い、皆んなもそう思うよな?」
おぃぃ!みんなに聞くなよ!
微妙な反応返ってくるに決まってるじゃねぇか!!
だが、他の男子も神妙な面向けで頷いている。
渋々という感じは見られないので、以外と良いかもしれない。
「う、うん、そっちの方が似合ってると思うよ」
「!?」
するとおもむろに1人の女子がそう言った。
そして言った女子を反射的に見ると、秒で顔を背けられた。
心無しか頬が赤い気がする。
他の女子も「ふーん……」みたいな目で俺を見ている。
「ついに樹にモテ期が……」
五月が反応に困る事を言った。
そして誰も言葉を発さない謎の時間が生まれた。
「はいはい、青春するのは良いけど、時間が迫ってるから次の人〜」
「ありがとうございました」
「あ、待って、君は僕が他の人のセットしてる間に切った髪の毛掃除して〜」
その何とも言えない微妙な空気を打ち破るかの様に、先輩はちりとりとほうきを手渡してきた。
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