第76話 冬樹にとっての怖い
「見るからにヤバそうな雰囲気放ってんな」
「もう帰って良い?」
俺たちは廃墟の入り口付近で足を止めた。
怖くて足が止まってしまったのである。
「ここまで来たのに何言ってるの、ここからが本番よ」
「樹く〜ん、この人怖いっすよ〜」
優葉は俺に泣きついてくる始末だ。
それを尻目に、冬樹は廃墟を見上げている。
「じゃあ入るね」
「待って!置いてかないで!」
手を繋いで、尚且つぴったりとくっついて俺たちは廃墟の中に入った。
「あ、言い忘れてたけど足元気を付けてね、床に穴空いてたりするかもしれないから」
「あ、ああ、分かった」
俺と矢吹、優葉は冬樹の袖を頼りに床だけを見て進んだ。
「パキッ」
「「「ヒッ!!!」」」
俺も矢吹も優葉も変な想像ばかりをして敏感になってしまっている。
それ故、床が少し軋んだ音を聞くだけで身体がビクッと反応してしまう。
「やっと入れる個室あったわ、ドア開けるわね」
「ちょっと待って!……………良いよ」
俺たちは冬樹を盾にして部屋に入った。
「どこの部屋かは分からないけど妊婦の絵があるらしいわよ」
「それを探すの?」
「うん、だから探すの手伝って」
「嫌っす!絶対周り見たくないっす!!」
「怖がりすぎだよ〜」
そう言って、冬樹はずんずん前に進んで行く。
「冬樹ちゃん、ここ廃ラブホだったんっすよね?」
「そうだけど」
「どんな感じなんっすか?」
「説明するの難しいから自分で見て」
「冬樹ちゃんの意地悪!」
「3人からしてもそんな怖くはないと思うけど、綺麗に残りすぎてあんまり怖くないわよ?」
「じゃあ樹くん試しに周り見て!ほら、男でしょ!」
「俺実験台!?」
俺は渋々、顔を上げて周りを見てみた。
そして思ったのは
「確かにあんま怖くないかも」
暗いから不気味ではあるのだが、冬樹の言う通り埃が被ったりカビが生えたりしているが家具がそのまんまなのであんまり怖くない。
あと、部屋がめっちゃ俺たちの泊まってる所に似てる。
ラブホはどこも似たような構造をしているのだろうか?
「2人とも顔上げてみなよ、意外と大丈夫だよ」
「え〜本当っすかぁ〜?」
「本当なの、?」
俺が大丈夫だと言い出した事で2人とも半信半疑で顔を上げた。
「めちゃめちゃ不気味っすけど、そうっすね、そこまで怖くはないっす」
「あんまり怖くはないけど、ここまではっきり残ってるとそれはそれで不気味なんだけど……」
2人もあんまり怖くは感じなかったらしい。
「じゃあ次の部屋行きましょうか」
冬樹を先頭にして部屋を出ようとすると
「カサカサカサカサ………」
「何!」
部屋の中から音がした。
床にチラシや落ち葉が落ちているので歩いているとカサカサ音が鳴ってしまうのだが、さっきのは明らかに俺たちの出して音ではなかった。
「お化けじゃん!もう帰りたいっすよぉ!」
「でも絶対絵見つけたい」
「その絵のある部屋の特徴ないの?」
「その部屋だけ全く落書きがなくて、部屋に家具とかがしっかり残ってる」
「え、ここやん」
完全にここだった。
家具が綺麗に残ってるし、落書きが全くない。
「じゃあ絵はどこにあるの?」
「壁のどこかにあると思うんだけど……」
そう言って、冬樹がベッドの側にある柱の裏側を覗き込んだ時だった。
「キャァァァ!!!」
「何、何!!」
さっきまで超冷静だった冬樹が悲鳴を上げて走って逃げようとした。
それに恐怖を感じた俺らも、冬樹のあとを追って部屋から逃げ出た。
「ハァハァ……ッ、急にどうしたんだよ、冬樹」
結局、入り口まで逃げ帰ってきてしまった。
「冬樹ちゃんなに見たの?」
「絵があったのと、その、い、居たのよ」
冬樹がかなり怖がっているのを見るに
「何が居たの?」
「そのゴ、ゴキブリが」
「「「……………」」帰りましょ」
俺たちは本当になんとも言えない気持ちでホテルに戻った。
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