第73話 花火
「本当にこの先に野原なんてあるの?」
「Googleマップが言うんだから間違いないわ」
俺たちは神社の裏側にある、廃道らしき道を進んでいた。
矢吹曰く、この先に開けた場所があるらしい。
「その野原草切られてると良いんだけどな〜」
地面の石板はひび割れていて、道周りの草が伸びきっている事から全く整備されていないのが伺える。
おまけに蚊も大量にいる。
確実に浴衣でくる所ではない。
「あ!ここじゃないっすか!?」
「うわ!本当だ!」
さっきまで木や草でうっそうとしていたのに、急に開けて夜空が見えた。
俗に言うミステリーサークルの様だ。
この部分だけ円形に木が生えていない。
「貸し切り状態っすね!」
「逆にここまで来て人いたら怖いよ」
真夏なので訪れてる人の格好は半袖半ズボン。
それにここはGoogleマップでしか見つけられない様な場所だ。
人など滅多に訪れないだろう。
「周りが全部木なの神秘的ね」
「こんな風景見る事なんて滅多にないからなぁ〜」
「取り敢えず真ん中行こ!」
「そうだな」
俺たちは森の中に出来た丸い空間の真ん中に移動して花火が上がるのを待った。
「ヒュ〜………」
どこからか花火の上がる音が聞こえてきた。
「ドーン!」
とんでもない爆発音が聞こえた。
だが、左右を見ても花火は見えない。
「痛っ」
すると空から何かが降ってきた。
「なにこれ、焦げ臭!」
落っこちてきたのは、焼け焦げた段ボールっぽい物だった。
「あ、これ!花火の破片じゃないっすか!?」
「ヒュ〜………」
もう一度花火の打ち上がる音がした。
斜めを見ても花火が見えない理由が分かった。
「ド〜ン……」
「うわぁ〜きれ〜………」
完全に真上で綺麗な花火が開いた。
俺たちの目は花火に釘付けだ。
すると今度は同時に何発か花火が打ち上げられる音がした。
「ドンドンドンドン!!」
小さくて黄色い花火が何個か花開いた。
そのあとも続いて、幾つも花火が発射される。
もう数え切れないくらいだ。
「しつこくて申し訳ないっすけど、樹君の中ではもう、ある程度決まってるんっすか?」
すると緑色の大きな花火が上がったタイミングで優葉がそう聞いてきた。
「何が、というと?」
こう言っているが、本当は何を聞いているのか分かっている。
俺が誰を好きなのかだろう。
「そう言っちゃって〜何聞いているか、本当は分かってるっすよね?」
「…………」
「別に決まってないなら決まってないって言って良いんっすよ?」
「決まって……ない、な」
決まってない、というか決められない。
3人とも可愛いし欠点という欠点もないから、決められないという訳ではない。
失うかもしれないのが怖いのだ。
今のこの関係を続けられる事なら、ずっと続けていたい。
俺がヘタレなのも、3人が俺に好意を持ってる以上このままではいけないのも分かっている。
「あーしたちは誰が選ばれたとして、恨み合いっこはなしって決めてるよ」
矢吹が俺の思考を読んだかの様な質問をしてきた。
「……………」
まるで花火みたいだ。
花が開いてる内は華があるが、ある時を境に急に消えてしまう。
恨み合いっこ無しだとは言っても、内心複雑になって今みたいには居られないのは確かだ。
今が花火で言う花が開いている時間だ。
そして、俺が誰かを好きになり、それが叶った時が花火の消える”ある時”だろう。
その”ある時”が訪れるのが怖い。
別に付き合った後が幸せだとだとかそういう事ではない。
だが、お互いが傷付かない今の関係が1番幸せなのではないかと考えてしまう。
「あーしたちはいつまでも待つからね」
「その内ね………」
花火を見つつ、俺はそうやって言葉を濁して逃げた。
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